健全な短編【単車】
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人間は季節に応じて装いを変える。夏は半袖などの軽装に、冬は上着を羽織って防寒に徹する。春と秋は外の温度に会わせるしかないから難しい、とあの人間──柚葉は笑っていた。
「いらっしゃーいミサちゃん!もーまたそんな寒そうな格好して!早く入って入って!」
「...柚葉、その名前は呼ぶなと言ったわよね?」
「?ミサちゃんはミサちゃんだよ」
いいから、と私の腕を掴み彼女は無理矢理家に上げた。通されたリビングには机と布団が一体化したようなものが真ん中に置かれており、「コタツ温かいよ」と招く。
見様見真似で足を入れると、外気で冷えた身体が足から温められた。特段心地よいとは思わないが、暖をとれるという点で人間が好むというのは納得できる。
「ごめんね、今年は喪中で新年の挨拶ができなくて」
「喪中?」
「お父さん死んじゃったからさー、だから新年をお祝いできないの。でもミサちゃんが来てくれて嬉しい!」
ニコニコと笑う柚葉。彼女は、宿主であるミサが死んだことを受け止めていない。姿が同じというだけで私をミサだと呼び、ファントムとしての姿を見せても特に何も言わなかった。
彼女の目にはミサだけが映っているのだ。
「...そっちに並んで入っても良い?」
「狭いでしょう」
「大丈夫だって」
柚葉が無理矢理同じ面に入ってきた為途端に狭くなる。えへへ、と照れたように笑った彼女は「ミサちゃん、大好き」と戯言を言った。
ミサなんて女はもういないのに。
いつまでも幻覚に溺れて、いつになっても絶望しない。
彼女がゲートとしての扉を開くのは不可能だ。ミサの消滅を聞いたときだけがチャンスだったのに、彼女は絶望する素振りさえも見せなかった。そんな訳ないよ、と今みたいに笑って、ミサを追いかけた。
「柚葉」
「うん?」
小さな手を覆うように自分の手を重ねる。指を絡め、鼻先が触れそうな至近距離に彼女は戸惑って頬を赤らめた。
私がミサの姿だからだ。
「私も、あなたのことが好きよ」
無防備な唇を奪えば、目を見開き時間が止まったように彼女は動かなくなる。ほんの一瞬触れるだけの行為が永遠のように感じられた理由を、私達は知らない。
ようやく状況を理解した柚葉は、自分から入ってきたのに飛び退くように出てしまった。あまりにも滑稽なのでクスリと笑えば、口許を手で隠して「な、なんで、」と柚葉が口にする。
「好きだからに決まっているでしょう?」
「ち、ちが、わたし、そんな意味で」
「なら、さっきの言葉は嘘だったのかしら」
「う、嘘じゃない、けど...!」
追い詰めるように歩み寄り、手首を掴む。身長の低い彼女が私に抗うことなど出来ず、真っ赤な顔は上からだとよく見えた。
「でもごめんなさいね?私はミサじゃない。私はファントム、メデューサよ」
「ちがう、ちがうもん、あなたはミサちゃ、」
譫言ばかり言う唇をまた塞いだ。今度は、もう二度とそんなことが言えないように舌まで入れて。酸素を求めて足掻くのも許さず、呼吸さえも止めてしまおうとする。
「ぁ...っ、みっ、」
「メデューサだと、言ってるでしょう?」
「っ...メデュー...サ...」
熱に浮かされたような顔と、苦しそうな声で柚葉はようやく私の名前を呼んだ。私を映す目には雨粒のように涙が浮かび、生気の無い瞳はビー玉のようだ。
「そう、よくできたわね。もう一度呼んでみなさい」
「メデューサ...」
「あなたは可哀想ね。ミサが死んだと聞かされて絶望することもできず、希望を抱いて生きることすらできない。それは死ぬことよりも残酷なことだわ」
すっかり屍のようになってしまった柚葉の頭を撫でると、虚ろな瞳で彼女は途切れ途切れに話し始めた。
「最初から...絶望も、希望も、なかった...」
「...そうね。あなたは他の人間やゲートとは違う、特殊な存在だもの。でも、もうこれでミサの影を追うことはなくなったわ」
「...私は」
「良かったわね、柚葉。これでもう、あなたはあの女を忘れることができるの。これからは、私があなたの瞳に映るのよ」
「いらっしゃーいミサちゃん!もーまたそんな寒そうな格好して!早く入って入って!」
「...柚葉、その名前は呼ぶなと言ったわよね?」
「?ミサちゃんはミサちゃんだよ」
いいから、と私の腕を掴み彼女は無理矢理家に上げた。通されたリビングには机と布団が一体化したようなものが真ん中に置かれており、「コタツ温かいよ」と招く。
見様見真似で足を入れると、外気で冷えた身体が足から温められた。特段心地よいとは思わないが、暖をとれるという点で人間が好むというのは納得できる。
「ごめんね、今年は喪中で新年の挨拶ができなくて」
「喪中?」
「お父さん死んじゃったからさー、だから新年をお祝いできないの。でもミサちゃんが来てくれて嬉しい!」
ニコニコと笑う柚葉。彼女は、宿主であるミサが死んだことを受け止めていない。姿が同じというだけで私をミサだと呼び、ファントムとしての姿を見せても特に何も言わなかった。
彼女の目にはミサだけが映っているのだ。
「...そっちに並んで入っても良い?」
「狭いでしょう」
「大丈夫だって」
柚葉が無理矢理同じ面に入ってきた為途端に狭くなる。えへへ、と照れたように笑った彼女は「ミサちゃん、大好き」と戯言を言った。
ミサなんて女はもういないのに。
いつまでも幻覚に溺れて、いつになっても絶望しない。
彼女がゲートとしての扉を開くのは不可能だ。ミサの消滅を聞いたときだけがチャンスだったのに、彼女は絶望する素振りさえも見せなかった。そんな訳ないよ、と今みたいに笑って、ミサを追いかけた。
「柚葉」
「うん?」
小さな手を覆うように自分の手を重ねる。指を絡め、鼻先が触れそうな至近距離に彼女は戸惑って頬を赤らめた。
私がミサの姿だからだ。
「私も、あなたのことが好きよ」
無防備な唇を奪えば、目を見開き時間が止まったように彼女は動かなくなる。ほんの一瞬触れるだけの行為が永遠のように感じられた理由を、私達は知らない。
ようやく状況を理解した柚葉は、自分から入ってきたのに飛び退くように出てしまった。あまりにも滑稽なのでクスリと笑えば、口許を手で隠して「な、なんで、」と柚葉が口にする。
「好きだからに決まっているでしょう?」
「ち、ちが、わたし、そんな意味で」
「なら、さっきの言葉は嘘だったのかしら」
「う、嘘じゃない、けど...!」
追い詰めるように歩み寄り、手首を掴む。身長の低い彼女が私に抗うことなど出来ず、真っ赤な顔は上からだとよく見えた。
「でもごめんなさいね?私はミサじゃない。私はファントム、メデューサよ」
「ちがう、ちがうもん、あなたはミサちゃ、」
譫言ばかり言う唇をまた塞いだ。今度は、もう二度とそんなことが言えないように舌まで入れて。酸素を求めて足掻くのも許さず、呼吸さえも止めてしまおうとする。
「ぁ...っ、みっ、」
「メデューサだと、言ってるでしょう?」
「っ...メデュー...サ...」
熱に浮かされたような顔と、苦しそうな声で柚葉はようやく私の名前を呼んだ。私を映す目には雨粒のように涙が浮かび、生気の無い瞳はビー玉のようだ。
「そう、よくできたわね。もう一度呼んでみなさい」
「メデューサ...」
「あなたは可哀想ね。ミサが死んだと聞かされて絶望することもできず、希望を抱いて生きることすらできない。それは死ぬことよりも残酷なことだわ」
すっかり屍のようになってしまった柚葉の頭を撫でると、虚ろな瞳で彼女は途切れ途切れに話し始めた。
「最初から...絶望も、希望も、なかった...」
「...そうね。あなたは他の人間やゲートとは違う、特殊な存在だもの。でも、もうこれでミサの影を追うことはなくなったわ」
「...私は」
「良かったわね、柚葉。これでもう、あなたはあの女を忘れることができるの。これからは、私があなたの瞳に映るのよ」