おちたツキ【暴太郎・ソノイ】
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人とコミュニケーションをとることが好きだ。それは老若男女問わない。お喋りや物質的な繋がりで、その人の人生や価値観について触れる。知見を広めることは楽しいし、何より勉強になる。何もない道端で転ばないコツから、楽な死に方、上手な生き方までジャンルは問わない。広く、深く。好き嫌いはしないこと。まずは何でも受け入れること。牛肉の焼き方も、ゴキブリの食べ方も平等に扱うこと。
そうすれば、人生はもっと豊かになる。
「柚葉ちゃん、今日家に行ってもいい?」
「あ…今日は──君が来るからダメ」
「…誰?それ…」
「え?この前歓楽街で知り合った男の子。仲良くなったから、遊びに来る約束なの」
「……ひどい……」
「何が?」
「僕はこんなに君を想っていたのに…他の男がいたなんて……」
彼はそう言って肩を落とし、俯いた。他の男がいたなんて…別に、関係ないでしょ。そもそも君とだって、たまたまコーヒーショップで相席になっただけの仲だし。
面倒くさいな…という思考が過った。彼は私の時間を削ってまで相手をしたいと思わせてくれるような人間でもなかった。ならば、ここで切り捨てる方が得策だ。
「…悲しませたなら、ごめんね?じゃあもう私達、会わないようにしよう。その方が君の為になるから」
私はそう言ってベンチから腰を上げ、家に向かい始めた。
老若男女問わず受け入れること。私にとっては平等に扱うことなのだが、どうも世間にとっては違うことらしい。一人を受け入れるには、他の全てを捨てないといけない。それが誠実ということだと言われた。男の子も、女の子も、みんな最後にはベッドで裸になり、喋ったり触れ合ったりすることを望み始める。
つまり、私は俗に言う「尻軽」や「ビッチ」に部類される女になった。
「僕は……僕は君と仲良くなりたいだけだったのに!!浮気者~~~ッ!!」
振り返ると、暗い顔をしていた男の子は欠けたハートを模した怪物に豹変していた。同じくハートの弓を携えて、私に向かって矢を放ってくる。矢は地面に当たると、銃弾のように爆発した。
「清らかな柚葉ちゃんを返せ──!!」
どうしよう。今まで色んな人に会ってきたが、怪物と出会った時の対処法を教えてくれる人はいなかった。フィクションと現実は違う。私は正義のヒーローでもなければ、特殊な訓練を受けている人間でもない。
這う這うの体で逃げ出すが、爆破によって怪我をした足が痛い。多分、血が流れている。ジクジクと痛む。夜だからか、周りには誰もいない。
人に恨まれるような行動をとっていた罰なのだろうか。ここで死ぬことが運命だったのかと死を覚悟して目を瞑った瞬間、絶叫と共に雨のように降っていた矢の攻撃が収まった。
「……?」
恐る恐る目を開ける。先程まで暴れていた怪物が消え、代わりに青い男の人が立っていた。彼はこちらに近付き、服が汚れることも厭わず跪いて手を差し伸べる。
「立てますか?」
「あ……」
「…怪我をしていますね。歩けますか?」
「ご…ごめんなさい、歩けなくて…腰も抜けていて…」
そこまで言うと、彼は迷わず横抱きにしてくれた。距離が近くなる。甘くも爽やかで、品のある匂いがした。暗くて顔はよく見えないが、月明かりに照らされた青い瞳はハッキリと見えた。
「家はどちらに?」
「少し歩いたところの…パステルブルーのアパートです」
「分かりました。あなたは怪我をしていますし、私がお送りしましょう」
いや、病院に連れて行ってくれた方が助かるのだが──という冷静なツッコミはやめておいた。今最優先するべきは、怪我よりもこの男の人だ。
人を見定め、意図して触れに行く行為を私は「狩り」と呼んでいる。今がそれだ。この謎の人物に接触して、どんな人生を歩んできたのか、どんな価値観を持っているのか知りたい。
「あの…あなたの、お名前は…?」
「名乗る必要もないでしょう。所詮長くは続かない…一夜の夢に過ぎません」
軽々と私を抱えて、「少し歩いたところ」とはいえそれなりに歩く距離を彼は移動した。ご丁寧に部屋の前まで運んでくれて、私を下ろしたらすぐに去ろうとする。蛍光灯でようやく顔が見えた。癖のある髪で、端正な顔立ちをしている。
「あ……ま、待って!」
「何か?」
「いやあの…お礼にお茶でも…」
「何故その必要が?」
狩りたいから──というのは伏せておいた。
「…か、貸しを作りたくなくて。因縁をつける人もいますし…」
「その心配は不要です。私はそんな無粋な者ではありませんから」
「そ、そうですか…」
「夜は冷えます。すぐに手当てをして、休んでください。夢の続きを見るために…」
彼は階段を下りて行った。何というか…風のような人だ。颯爽と現れて、音もなく去った。
傷よりも、胸が痛んだ。ドク、ドクと力強く脈動している。私は今この瞬間、初恋だった相手を忘れてしまった。顔はおろか、名前も性別も出てこない。どうでもよくなってしまった。
夢を見たら、また彼に会えるのだろうか──という、詩的な表現が頭に浮かんで、消えない。
そうすれば、人生はもっと豊かになる。
「柚葉ちゃん、今日家に行ってもいい?」
「あ…今日は──君が来るからダメ」
「…誰?それ…」
「え?この前歓楽街で知り合った男の子。仲良くなったから、遊びに来る約束なの」
「……ひどい……」
「何が?」
「僕はこんなに君を想っていたのに…他の男がいたなんて……」
彼はそう言って肩を落とし、俯いた。他の男がいたなんて…別に、関係ないでしょ。そもそも君とだって、たまたまコーヒーショップで相席になっただけの仲だし。
面倒くさいな…という思考が過った。彼は私の時間を削ってまで相手をしたいと思わせてくれるような人間でもなかった。ならば、ここで切り捨てる方が得策だ。
「…悲しませたなら、ごめんね?じゃあもう私達、会わないようにしよう。その方が君の為になるから」
私はそう言ってベンチから腰を上げ、家に向かい始めた。
老若男女問わず受け入れること。私にとっては平等に扱うことなのだが、どうも世間にとっては違うことらしい。一人を受け入れるには、他の全てを捨てないといけない。それが誠実ということだと言われた。男の子も、女の子も、みんな最後にはベッドで裸になり、喋ったり触れ合ったりすることを望み始める。
つまり、私は俗に言う「尻軽」や「ビッチ」に部類される女になった。
「僕は……僕は君と仲良くなりたいだけだったのに!!浮気者~~~ッ!!」
振り返ると、暗い顔をしていた男の子は欠けたハートを模した怪物に豹変していた。同じくハートの弓を携えて、私に向かって矢を放ってくる。矢は地面に当たると、銃弾のように爆発した。
「清らかな柚葉ちゃんを返せ──!!」
どうしよう。今まで色んな人に会ってきたが、怪物と出会った時の対処法を教えてくれる人はいなかった。フィクションと現実は違う。私は正義のヒーローでもなければ、特殊な訓練を受けている人間でもない。
這う這うの体で逃げ出すが、爆破によって怪我をした足が痛い。多分、血が流れている。ジクジクと痛む。夜だからか、周りには誰もいない。
人に恨まれるような行動をとっていた罰なのだろうか。ここで死ぬことが運命だったのかと死を覚悟して目を瞑った瞬間、絶叫と共に雨のように降っていた矢の攻撃が収まった。
「……?」
恐る恐る目を開ける。先程まで暴れていた怪物が消え、代わりに青い男の人が立っていた。彼はこちらに近付き、服が汚れることも厭わず跪いて手を差し伸べる。
「立てますか?」
「あ……」
「…怪我をしていますね。歩けますか?」
「ご…ごめんなさい、歩けなくて…腰も抜けていて…」
そこまで言うと、彼は迷わず横抱きにしてくれた。距離が近くなる。甘くも爽やかで、品のある匂いがした。暗くて顔はよく見えないが、月明かりに照らされた青い瞳はハッキリと見えた。
「家はどちらに?」
「少し歩いたところの…パステルブルーのアパートです」
「分かりました。あなたは怪我をしていますし、私がお送りしましょう」
いや、病院に連れて行ってくれた方が助かるのだが──という冷静なツッコミはやめておいた。今最優先するべきは、怪我よりもこの男の人だ。
人を見定め、意図して触れに行く行為を私は「狩り」と呼んでいる。今がそれだ。この謎の人物に接触して、どんな人生を歩んできたのか、どんな価値観を持っているのか知りたい。
「あの…あなたの、お名前は…?」
「名乗る必要もないでしょう。所詮長くは続かない…一夜の夢に過ぎません」
軽々と私を抱えて、「少し歩いたところ」とはいえそれなりに歩く距離を彼は移動した。ご丁寧に部屋の前まで運んでくれて、私を下ろしたらすぐに去ろうとする。蛍光灯でようやく顔が見えた。癖のある髪で、端正な顔立ちをしている。
「あ……ま、待って!」
「何か?」
「いやあの…お礼にお茶でも…」
「何故その必要が?」
狩りたいから──というのは伏せておいた。
「…か、貸しを作りたくなくて。因縁をつける人もいますし…」
「その心配は不要です。私はそんな無粋な者ではありませんから」
「そ、そうですか…」
「夜は冷えます。すぐに手当てをして、休んでください。夢の続きを見るために…」
彼は階段を下りて行った。何というか…風のような人だ。颯爽と現れて、音もなく去った。
傷よりも、胸が痛んだ。ドク、ドクと力強く脈動している。私は今この瞬間、初恋だった相手を忘れてしまった。顔はおろか、名前も性別も出てこない。どうでもよくなってしまった。
夢を見たら、また彼に会えるのだろうか──という、詩的な表現が頭に浮かんで、消えない。
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