おちたツキ【暴太郎・ソノイ】
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温泉に、行きたい。でも大衆浴場は嫌だ。同性とはいえ他の人にソノイさんの体を見られたくない。なら部屋に付いてるタイプの温泉旅館かなあ。
そう思い立ったのが始まりだった。ソノイさんに予定を聞き、私の予定と擦り合わせながら予約を入れる。温泉という文化には興味があった、と彼は喜んで受け入れてくれた。
公共交通機関を乗り継いで目的地まで向かった。随分山奥ではあったが、ホテルの敷地内には大きな池があり、そこに赤い橋が架かっている。非常に良い雰囲気が出ていた。教授が見たら喜びそうだ。まあ、一文無しの彼が露天風呂付き客室に泊まれる日は来るか分からないが。
「…私はあまり物の価値が分かりませんが、宿泊費はそれなりに嵩んだのでは?」
「いーのいーの。お金はある時に使わなくちゃ」
「…正直、申し訳ない」
「ええ~…じゃあ、ワガママ言ってもいい?」
「…内容にもよる」
「お風呂、一緒に入ってほしい」
ドサ、とソノイさんが荷物を部屋の床に落とした。顔を真っ赤にしてこちらを見ており、非常に面白い。最近わかるようになった。かっこいい人が取り乱している姿は、見ていてグッとくるものがある。恋愛物語も、もっとこういうシーンが増えたら楽しそうなのに。
「………」
熟考している。時折頭を抱えていた。
「…寝床を共にもしていない男女が…裸体を見せ合うのは…下品、なのでは…?」
「…ジャパニーズ文化、裸の付き合い!恥ずかしがる方がむしろ性的!」
「どう感じるかは私の自由なので…」
「そ、それは、そう…。ごめんなさい、私が焦り過ぎたね。ソノイさんの気持ちも考えずにワガママ言ってごめん」
「……いえ、構いません。やりましょう、裸の付き合い」
「えっ…!?い、いや、無理しなくていいよ!?」
「いや、桃井タロウとはサウナに行った仲です。柚葉と共に風呂に入ることを下品などと言った私の方に非がある」
「は!?サウナ!?私よりも先に!?」
突然爆弾発言を投下されて動揺する私を置いて、ソノイさんは荷物の入ったボストンバッグを開け始めた。入浴の準備を黙々と始めている。さっきまであんなに顔を赤くしていたのに。
タロウ君と、ソノイさんが二人でサウナ…サウナ!?整うってやつ!?整ってきたの!?二人で!?
何だか負けた気がしてきた。私、タロウ君よりも後にソノイさんの裸見るのか…。いや、タロウ君とソノイさんはお互いをそういう目で見ている訳じゃないんだけど…。
「?用意しないんですか?」
「あっ…うん…」
*
部屋に付いているシャワーを浴びてから数時間して。そろそろ露天風呂に入ろう、となった時。
色々準備しておくから先に入ってて、と言ったのは正解だった。脱衣所で丁寧に畳まれた館内着の浴衣を見ただけで正直心臓が飛び出そうな程ドキドキしてしまう。いやいやソノイさんは純粋に裸の付き合いをするつもりなんだからと自分を落ち着かせて浴室に入ると、先に露天風呂に浸かっていてもわかる逞しい背中が見えた。
一緒に入ろうだなんて、言わない方が良かったかも。あまりにも、目の毒だ。
「良い眺めですね」
「うっ、うん…そう、だね…」
確かに、良い眺め。いやいや、背中の方じゃなくて。こちらを少しだけ振り向く流し目でもなくて。新緑と、遠くに見える海のことだから。
正直かなり動揺しながらも、私はかけ湯をしてお湯に浸かった。近付くことすら恐れ多くて端の方で縮こまっていると、「何故そんな遠くに」と怪訝な顔をされた。
「……まさか、恥ずかしがっているのですか…?」
「…だ、だって!ソノイさんの裸見たことないし…!逆にソノイさんは私の裸見て何も思わないの…!?」
「…私も男故、色々と思うことはある。が、抑えています」
「修行僧…!?」
「…恥ずかしがる方が性的だと言っていたくせに…」
「うっ…ごめんなさい…」
観念して距離を縮めた。スス…と隣まで行くと、ソノイさんがあからさまに目線を逸らす。主に、私の体から。彼は足が長いのに座高も高い。だから、どうしても私と並んで話すとなると目線を下に向けないといけない。必然的に、胸元を見ることになるのである。
「…抑えてる?」
「…ええ、とても」
「…裸の付き合い、どう?」
「……恋人同士では、無理ですね」
「…ごめん。私もそう思う」
タロウ君が羨ましいなんて思った自分はまだまだ甘かった。
こんな、こんな。とんでもない美形との混浴なんて、まともな恋愛経験ゼロの女には無理なのである。
「……私、好きな人の裸って…裸婦像と同じ感覚だと思ってた」
「それは、ヌードですね。理想化された裸と、剥き出しの裸…ネイキッドは違います」
「へ~…。じゃあ、裸婦像って性的なものじゃないんだ」
「いや、そうとも言い切れない。意図的にエロティックな裸婦像として作ったり、そういう作品を求めている人々もいたのです」
「奥が深いね…」
「芸術は良いですよ。そうだ、良ければ今度美術館巡りなどどうでしょう?」
「良いね。ソノイさんと一緒なら、何でも楽しそう」
湿気を帯びた髪。水滴のついた睫毛。目が合って、キスをしようとして、やめた。唇を手で塞いで拒否する私に、ソノイさんは少し不服そうな顔をする。ファーストキスは、あんなに顔を真っ赤にしていたのに。
「……今チューしたら、体ぶつかるよ」
「…唇を合わせるくらいなら、ぶつからないのでは」
「私がそのまま抱きつくので、ぶつかります」
そこまで言ったのに、キスをされた。本当に軽いものだったけれど、彼が自分から出来るようになったことに心底驚いた。そしてお返しと言わん ばかりに抱きついて、柔らかな膨らみを硬い肉体に押し付けてやる。
「ッ…!!」
「だから言ったのに。ソノイさんのスケベ」
そう言ってやると、「そんな男ではない」と顔を背けられた。まあ、スケベではないんだけども。ちょっと反応が童貞過ぎるというか。…いや、脳人だから童貞なのは当然か。
…混浴は、お互いにまだ早かったかも。
そう思い立ったのが始まりだった。ソノイさんに予定を聞き、私の予定と擦り合わせながら予約を入れる。温泉という文化には興味があった、と彼は喜んで受け入れてくれた。
公共交通機関を乗り継いで目的地まで向かった。随分山奥ではあったが、ホテルの敷地内には大きな池があり、そこに赤い橋が架かっている。非常に良い雰囲気が出ていた。教授が見たら喜びそうだ。まあ、一文無しの彼が露天風呂付き客室に泊まれる日は来るか分からないが。
「…私はあまり物の価値が分かりませんが、宿泊費はそれなりに嵩んだのでは?」
「いーのいーの。お金はある時に使わなくちゃ」
「…正直、申し訳ない」
「ええ~…じゃあ、ワガママ言ってもいい?」
「…内容にもよる」
「お風呂、一緒に入ってほしい」
ドサ、とソノイさんが荷物を部屋の床に落とした。顔を真っ赤にしてこちらを見ており、非常に面白い。最近わかるようになった。かっこいい人が取り乱している姿は、見ていてグッとくるものがある。恋愛物語も、もっとこういうシーンが増えたら楽しそうなのに。
「………」
熟考している。時折頭を抱えていた。
「…寝床を共にもしていない男女が…裸体を見せ合うのは…下品、なのでは…?」
「…ジャパニーズ文化、裸の付き合い!恥ずかしがる方がむしろ性的!」
「どう感じるかは私の自由なので…」
「そ、それは、そう…。ごめんなさい、私が焦り過ぎたね。ソノイさんの気持ちも考えずにワガママ言ってごめん」
「……いえ、構いません。やりましょう、裸の付き合い」
「えっ…!?い、いや、無理しなくていいよ!?」
「いや、桃井タロウとはサウナに行った仲です。柚葉と共に風呂に入ることを下品などと言った私の方に非がある」
「は!?サウナ!?私よりも先に!?」
突然爆弾発言を投下されて動揺する私を置いて、ソノイさんは荷物の入ったボストンバッグを開け始めた。入浴の準備を黙々と始めている。さっきまであんなに顔を赤くしていたのに。
タロウ君と、ソノイさんが二人でサウナ…サウナ!?整うってやつ!?整ってきたの!?二人で!?
何だか負けた気がしてきた。私、タロウ君よりも後にソノイさんの裸見るのか…。いや、タロウ君とソノイさんはお互いをそういう目で見ている訳じゃないんだけど…。
「?用意しないんですか?」
「あっ…うん…」
*
部屋に付いているシャワーを浴びてから数時間して。そろそろ露天風呂に入ろう、となった時。
色々準備しておくから先に入ってて、と言ったのは正解だった。脱衣所で丁寧に畳まれた館内着の浴衣を見ただけで正直心臓が飛び出そうな程ドキドキしてしまう。いやいやソノイさんは純粋に裸の付き合いをするつもりなんだからと自分を落ち着かせて浴室に入ると、先に露天風呂に浸かっていてもわかる逞しい背中が見えた。
一緒に入ろうだなんて、言わない方が良かったかも。あまりにも、目の毒だ。
「良い眺めですね」
「うっ、うん…そう、だね…」
確かに、良い眺め。いやいや、背中の方じゃなくて。こちらを少しだけ振り向く流し目でもなくて。新緑と、遠くに見える海のことだから。
正直かなり動揺しながらも、私はかけ湯をしてお湯に浸かった。近付くことすら恐れ多くて端の方で縮こまっていると、「何故そんな遠くに」と怪訝な顔をされた。
「……まさか、恥ずかしがっているのですか…?」
「…だ、だって!ソノイさんの裸見たことないし…!逆にソノイさんは私の裸見て何も思わないの…!?」
「…私も男故、色々と思うことはある。が、抑えています」
「修行僧…!?」
「…恥ずかしがる方が性的だと言っていたくせに…」
「うっ…ごめんなさい…」
観念して距離を縮めた。スス…と隣まで行くと、ソノイさんがあからさまに目線を逸らす。主に、私の体から。彼は足が長いのに座高も高い。だから、どうしても私と並んで話すとなると目線を下に向けないといけない。必然的に、胸元を見ることになるのである。
「…抑えてる?」
「…ええ、とても」
「…裸の付き合い、どう?」
「……恋人同士では、無理ですね」
「…ごめん。私もそう思う」
タロウ君が羨ましいなんて思った自分はまだまだ甘かった。
こんな、こんな。とんでもない美形との混浴なんて、まともな恋愛経験ゼロの女には無理なのである。
「……私、好きな人の裸って…裸婦像と同じ感覚だと思ってた」
「それは、ヌードですね。理想化された裸と、剥き出しの裸…ネイキッドは違います」
「へ~…。じゃあ、裸婦像って性的なものじゃないんだ」
「いや、そうとも言い切れない。意図的にエロティックな裸婦像として作ったり、そういう作品を求めている人々もいたのです」
「奥が深いね…」
「芸術は良いですよ。そうだ、良ければ今度美術館巡りなどどうでしょう?」
「良いね。ソノイさんと一緒なら、何でも楽しそう」
湿気を帯びた髪。水滴のついた睫毛。目が合って、キスをしようとして、やめた。唇を手で塞いで拒否する私に、ソノイさんは少し不服そうな顔をする。ファーストキスは、あんなに顔を真っ赤にしていたのに。
「……今チューしたら、体ぶつかるよ」
「…唇を合わせるくらいなら、ぶつからないのでは」
「私がそのまま抱きつくので、ぶつかります」
そこまで言ったのに、キスをされた。本当に軽いものだったけれど、彼が自分から出来るようになったことに心底驚いた。そしてお返しと言わん ばかりに抱きついて、柔らかな膨らみを硬い肉体に押し付けてやる。
「ッ…!!」
「だから言ったのに。ソノイさんのスケベ」
そう言ってやると、「そんな男ではない」と顔を背けられた。まあ、スケベではないんだけども。ちょっと反応が童貞過ぎるというか。…いや、脳人だから童貞なのは当然か。
…混浴は、お互いにまだ早かったかも。