おちたツキ【暴太郎・ソノイ】
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「ソノイさんって、最近あんまりロマンチックな話しなくなったよね」
「…そうですか?」
「うん。出会った時は色々言ってくれたけど最近は結構直球というか…まあそれも好きなんだけど…」
首を傾げ、少し困惑した表情を見せるソノイさん。多分自覚は無いのだろう。出会った当初は詩人かと思うくらいロマンチックな言葉選びをしていたが、ドンブラザーズと関わったことで良い意味で回りくどさが無くなった気がする。多分。分かりやすくなって嬉しい反面、少しだけ寂しい。
「……またああいう話してほしいなー、って」
「構いませんが…正直意識して言っていたことでもないので…」
「それもそれで凄いよ…」
ふむと少し考えた彼は私の腰を抱き、少しだけ目を細めた。長い睫毛が瞳を覆っている。
「私は時々思うのです。いつか君は、月からの使者達に連れられて帰ってしまうのではないかと。勿論、ドン王家に連なる者が現在のイデオンにとっての粛清対象であるのならば…柚葉も例外ではない。月に戻ることなど叶わないと分かっているのに…」
「…そうだね。二度とイデオンには戻れないって、マスターも言ってた」
「…もしそうなった時は、例え私一人であろうとも君を引き留めます。私も、月から落ちてきた者ですから。だからどうか、手紙と薬なんて残さないでください。君に帰る意思があろうとも、私はそれを許さない」
腰を抱く力が少しだけ強くなった。彼にそれだけ強く求められているのだと実感して、体が熱くなる。鼓動が聴こえそうで、恥ずかしかった。
「…私が帰る場所は、ソノイさんのいるところだよ。ソノイさんがいるのなら、海の中でも戻って来るから」
「…私が唆せば、海の底であろうとも付いて来る気ですか?」
「もちろん!」
「困りましたね。それでは乙姫になってしまう」
「人魚姫かも…。あっでも人魚姫って悲しい話だからやだな…。乙姫もやっぱりナシで。そうなったら、今度はソノイさんが帰っちゃうから…」
サテン生地の懐に顔をうずめると、両手で抱きしめてくれた。他人の体温は、冷たくなく、熱すぎないから心地良い。ぬるま湯に浸かっているみたいだ。ずっとこの程よい幸せに温度に浸っていたい。
「…ねえ、これロマンチックな話なの?」
「…少し現実的過ぎましたね」
「もっとこう…甘い言葉を言ってほしいというか…」
「最初からそう言えばいいものを…」
「……恥ずかしいよ」
俯くと、抱きしめている手が猫をあやすように喉を撫でた。もう!と顔を上げれば、彼と目が合う。ゆっくりと迫る瞳に月が映ったような気がして、その月を覗き込もうとした。
──顔が離れていく。やはり瞳の中には月がいた。
心底驚いたような表情で唇を指でなぞり、顔を真っ赤にしているソノイさん。
「月、ソノイさんの目の中にもあったよ」
綺麗だね、と言って微笑む。慌てて顔を背け、頭を抱えて感情を押し殺しつつも動揺していた彼はやがて落ち着き、私に向き直った。
「……慣れてるんですか」
「まさか。初めてだよ」
「…随分手慣れているようだが」
「ソノイさんが相手だから、自然と出来ちゃった」
「…破廉恥な……」
「……嫌だった?チューするの」
「……嫌ではない、です…」
「なんだぁ。良かった~」
多分、脳人として生まれ、生きてきた彼にとって恋愛は知識として入っているものでしかなかったのだろう。それでも自分の気持ちを理解し、私を受け入れてくれたのだから本当に愛おしくて堪らない。こんなに真面目で、不器用で、いじらしい人が恋人だなんて。
「ファーストキスはおでんの味かぁ」
「…今日はまだ食べてません」
「ソノイさんっておでんのにおいしてるから」
「なっ…!?」
「比喩だよ~本気にしないで~」
あはは、と笑う私をソノイさんはもう一度強く抱きしめた。体を押し付けるような抱き方に驚いて目を丸くすると、彼は少しツンとした表情で目を伏せている。
「…な、なに?」
「柚葉におでんのにおいを付けています」
「……」
「君も共犯です、おでんのにおいの付いた」
数日後。においを付けることが人であろうとも立派なマーキング行為であることを知ったソノイさんはおでんにからしをたっぷりつけて、辛いと分かっていながらも泣きながら食べていた。どういう感情なの…。
「…そうですか?」
「うん。出会った時は色々言ってくれたけど最近は結構直球というか…まあそれも好きなんだけど…」
首を傾げ、少し困惑した表情を見せるソノイさん。多分自覚は無いのだろう。出会った当初は詩人かと思うくらいロマンチックな言葉選びをしていたが、ドンブラザーズと関わったことで良い意味で回りくどさが無くなった気がする。多分。分かりやすくなって嬉しい反面、少しだけ寂しい。
「……またああいう話してほしいなー、って」
「構いませんが…正直意識して言っていたことでもないので…」
「それもそれで凄いよ…」
ふむと少し考えた彼は私の腰を抱き、少しだけ目を細めた。長い睫毛が瞳を覆っている。
「私は時々思うのです。いつか君は、月からの使者達に連れられて帰ってしまうのではないかと。勿論、ドン王家に連なる者が現在のイデオンにとっての粛清対象であるのならば…柚葉も例外ではない。月に戻ることなど叶わないと分かっているのに…」
「…そうだね。二度とイデオンには戻れないって、マスターも言ってた」
「…もしそうなった時は、例え私一人であろうとも君を引き留めます。私も、月から落ちてきた者ですから。だからどうか、手紙と薬なんて残さないでください。君に帰る意思があろうとも、私はそれを許さない」
腰を抱く力が少しだけ強くなった。彼にそれだけ強く求められているのだと実感して、体が熱くなる。鼓動が聴こえそうで、恥ずかしかった。
「…私が帰る場所は、ソノイさんのいるところだよ。ソノイさんがいるのなら、海の中でも戻って来るから」
「…私が唆せば、海の底であろうとも付いて来る気ですか?」
「もちろん!」
「困りましたね。それでは乙姫になってしまう」
「人魚姫かも…。あっでも人魚姫って悲しい話だからやだな…。乙姫もやっぱりナシで。そうなったら、今度はソノイさんが帰っちゃうから…」
サテン生地の懐に顔をうずめると、両手で抱きしめてくれた。他人の体温は、冷たくなく、熱すぎないから心地良い。ぬるま湯に浸かっているみたいだ。ずっとこの程よい幸せに温度に浸っていたい。
「…ねえ、これロマンチックな話なの?」
「…少し現実的過ぎましたね」
「もっとこう…甘い言葉を言ってほしいというか…」
「最初からそう言えばいいものを…」
「……恥ずかしいよ」
俯くと、抱きしめている手が猫をあやすように喉を撫でた。もう!と顔を上げれば、彼と目が合う。ゆっくりと迫る瞳に月が映ったような気がして、その月を覗き込もうとした。
──顔が離れていく。やはり瞳の中には月がいた。
心底驚いたような表情で唇を指でなぞり、顔を真っ赤にしているソノイさん。
「月、ソノイさんの目の中にもあったよ」
綺麗だね、と言って微笑む。慌てて顔を背け、頭を抱えて感情を押し殺しつつも動揺していた彼はやがて落ち着き、私に向き直った。
「……慣れてるんですか」
「まさか。初めてだよ」
「…随分手慣れているようだが」
「ソノイさんが相手だから、自然と出来ちゃった」
「…破廉恥な……」
「……嫌だった?チューするの」
「……嫌ではない、です…」
「なんだぁ。良かった~」
多分、脳人として生まれ、生きてきた彼にとって恋愛は知識として入っているものでしかなかったのだろう。それでも自分の気持ちを理解し、私を受け入れてくれたのだから本当に愛おしくて堪らない。こんなに真面目で、不器用で、いじらしい人が恋人だなんて。
「ファーストキスはおでんの味かぁ」
「…今日はまだ食べてません」
「ソノイさんっておでんのにおいしてるから」
「なっ…!?」
「比喩だよ~本気にしないで~」
あはは、と笑う私をソノイさんはもう一度強く抱きしめた。体を押し付けるような抱き方に驚いて目を丸くすると、彼は少しツンとした表情で目を伏せている。
「…な、なに?」
「柚葉におでんのにおいを付けています」
「……」
「君も共犯です、おでんのにおいの付いた」
数日後。においを付けることが人であろうとも立派なマーキング行為であることを知ったソノイさんはおでんにからしをたっぷりつけて、辛いと分かっていながらも泣きながら食べていた。どういう感情なの…。