おちたツキ【暴太郎・ソノイ】
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私がショックのあまり黙り込んでいると、いつもならあまり話に入ってこない犬塚さんが口を開いた。
「…お前、そんなにショックなのか」
「ショックというか…申し訳ないというか…」
「何故申し訳なさを感じる?」
タロウ君がそう尋ねてきた。自分が脳人だと告げられた時に思ったのは、罪悪感。ソノイさんにあれだけ自分が人間かのような立ち振る舞いをしていたのに、私も彼と変わらない脳人だった…。
「…だって…ソノイさんや、みんなのことを騙していた……」
「あんたに騙している自覚はなかったんだろう」
「でも!みんな、私が人間だと思って接してくれていて……」
私がそこまで言うと、「あのな」と犬塚さんが呆れたような顔をした。
「ここにいる奴らが、お前が脳人だからといって態度を変えるような連中に見えるのか?」
「…一部はそう見える」
「素直か!そこはもっと躊躇え!」
「だって!雉野さんとか、獣人の話で揉めてたし!」
「い、いや、それは…。それはそれだ!だってもへちまもない!」
「うーん、今のはちょっと犬塚さんの分が悪いかも」
「実際この件は揉めたからな…」
私と犬塚さんがギャーギャーと言い合いを始め、話の収拾がつかなくなってきた。暫くはみんな見守ってくれていたが、やがてソノイさんが「柚葉」と私の名前を呼び、手を、両手で包んだ。大きな手。ネイルが爪の一つ一つに、丁寧に塗られている。
「はっ、はい………」
「私達が、君に対して態度を変えることはない。そして、君が気に病むことも何もない」
「はい…」
「この件は、それでいいですか?」
「は、はい、いい、です……」
何だか丸め込まれたような気がする。しかし丸め込まれたまま彼の手を感じていると、ソノニさんが「ソノイ」と話を急かした。途端に手が離れていく。もうちょっとだけ、握っていてほしかった。
「ユズハは自分で意識を管理できるとのことだった。その為、プライベートなことについての心配はないと判断していいだろう」
それ、私が二重人格だって言い切ってるんだけど…ソノイさんもしかして、あんまり考えてないのかな。まあ、私もそこまで気にしてはいないが。対面することのない相手に気を使っても仕方のないことだし、ユズハ?が意識を管理できるなら、色々と察してはくれるだろう。
「とまあ…これが事の顛末だ」
「まあ、最初の闇ジロウと違って悪さとかしないなら別に問題ないよね」
「確かに、それもそうですね。ユズハさんって、暴力は振るいませんでしたし」
「危害を加えてきたら出て来るとは言っていたが…」
「まあ、ソノイが守るなら問題ないだろう」
「……ソノニ。何故私が守ることが前提になっている?」
「生憎今からここは乙女同盟だ。そうだな?柚葉」
「え?あ、はい」
何だかよくわからないが、ソノニさんとは乙女同盟なるものを結ぶことになったらしい。まあいいか。
「…あの。ユズハのこととか、罪とか…色々聞きたいことはあるんですけど…一旦全部保留します」
「そうしてくれると、助かります」
「なので、一つだけ聞かせてください。ソノイさんは、私が脳人でも…人間じゃなくても…私が今までみたいに接することを許してくれますか?」
また、似たような質問をしてしまった。保身のために。彼との距離を知るために。ずるい質問だと自分でも思っている。こう言えば、優しいソノイさんは否定し辛いと心のどこかで思っている。
彼は分かりやすく瞬きをして、私を見つめ直した。青い瞳の中には、私が映っている。私がソノイさんの瞳を通して見ている私の姿が、彼にも同じように見えているかは、わからない。
「……いいえ。今までのようには、いきません」
「はぁ!?何言ってんのソノイ!?」
「そうだぞソノイ!今まさにその話をしたところだろう!」
「はるかちゃん、ソノニさん。いいんです。私が、ソノイさんの優しさにつけ込んでるだけだから……」
俯いてアイスティーに手を伸ばそうとした。その手をとられ、少しだけ引き寄せられる。距離が近づいて、彼の匂いがした。
「…私も……君の想いに、応える。だから…人間も、脳人も関係なく…一つの生命体として、私を選んでほしい。お互い、今までとは違う接し方をすることを…決めて、もらいたい」
良い匂いがする。優しい匂いと、少しだけおでんの香り。嫌な意味でにおうとかじゃなくて…心がホッとするような、安心する香り。
ああ、この人は。これからも、この香りと歩んでいくのだろう。
「……もちろん、です。ずっと…出会った頃から、この先ずっと。例えご縁がなくなろうとも、あなたが好きです」
「…水面に映る月だと思っていましたが、月は最初から落ちて来ていたのですね。私も…柚葉が好きだ」
透ける血管も、動く心臓も偽物じゃない。私は私で、この世界に生きている。そして、私が生きている世界にこの人も一緒にいる。
それだけで、月にまで昇るような気持ちだ。
「…お前、そんなにショックなのか」
「ショックというか…申し訳ないというか…」
「何故申し訳なさを感じる?」
タロウ君がそう尋ねてきた。自分が脳人だと告げられた時に思ったのは、罪悪感。ソノイさんにあれだけ自分が人間かのような立ち振る舞いをしていたのに、私も彼と変わらない脳人だった…。
「…だって…ソノイさんや、みんなのことを騙していた……」
「あんたに騙している自覚はなかったんだろう」
「でも!みんな、私が人間だと思って接してくれていて……」
私がそこまで言うと、「あのな」と犬塚さんが呆れたような顔をした。
「ここにいる奴らが、お前が脳人だからといって態度を変えるような連中に見えるのか?」
「…一部はそう見える」
「素直か!そこはもっと躊躇え!」
「だって!雉野さんとか、獣人の話で揉めてたし!」
「い、いや、それは…。それはそれだ!だってもへちまもない!」
「うーん、今のはちょっと犬塚さんの分が悪いかも」
「実際この件は揉めたからな…」
私と犬塚さんがギャーギャーと言い合いを始め、話の収拾がつかなくなってきた。暫くはみんな見守ってくれていたが、やがてソノイさんが「柚葉」と私の名前を呼び、手を、両手で包んだ。大きな手。ネイルが爪の一つ一つに、丁寧に塗られている。
「はっ、はい………」
「私達が、君に対して態度を変えることはない。そして、君が気に病むことも何もない」
「はい…」
「この件は、それでいいですか?」
「は、はい、いい、です……」
何だか丸め込まれたような気がする。しかし丸め込まれたまま彼の手を感じていると、ソノニさんが「ソノイ」と話を急かした。途端に手が離れていく。もうちょっとだけ、握っていてほしかった。
「ユズハは自分で意識を管理できるとのことだった。その為、プライベートなことについての心配はないと判断していいだろう」
それ、私が二重人格だって言い切ってるんだけど…ソノイさんもしかして、あんまり考えてないのかな。まあ、私もそこまで気にしてはいないが。対面することのない相手に気を使っても仕方のないことだし、ユズハ?が意識を管理できるなら、色々と察してはくれるだろう。
「とまあ…これが事の顛末だ」
「まあ、最初の闇ジロウと違って悪さとかしないなら別に問題ないよね」
「確かに、それもそうですね。ユズハさんって、暴力は振るいませんでしたし」
「危害を加えてきたら出て来るとは言っていたが…」
「まあ、ソノイが守るなら問題ないだろう」
「……ソノニ。何故私が守ることが前提になっている?」
「生憎今からここは乙女同盟だ。そうだな?柚葉」
「え?あ、はい」
何だかよくわからないが、ソノニさんとは乙女同盟なるものを結ぶことになったらしい。まあいいか。
「…あの。ユズハのこととか、罪とか…色々聞きたいことはあるんですけど…一旦全部保留します」
「そうしてくれると、助かります」
「なので、一つだけ聞かせてください。ソノイさんは、私が脳人でも…人間じゃなくても…私が今までみたいに接することを許してくれますか?」
また、似たような質問をしてしまった。保身のために。彼との距離を知るために。ずるい質問だと自分でも思っている。こう言えば、優しいソノイさんは否定し辛いと心のどこかで思っている。
彼は分かりやすく瞬きをして、私を見つめ直した。青い瞳の中には、私が映っている。私がソノイさんの瞳を通して見ている私の姿が、彼にも同じように見えているかは、わからない。
「……いいえ。今までのようには、いきません」
「はぁ!?何言ってんのソノイ!?」
「そうだぞソノイ!今まさにその話をしたところだろう!」
「はるかちゃん、ソノニさん。いいんです。私が、ソノイさんの優しさにつけ込んでるだけだから……」
俯いてアイスティーに手を伸ばそうとした。その手をとられ、少しだけ引き寄せられる。距離が近づいて、彼の匂いがした。
「…私も……君の想いに、応える。だから…人間も、脳人も関係なく…一つの生命体として、私を選んでほしい。お互い、今までとは違う接し方をすることを…決めて、もらいたい」
良い匂いがする。優しい匂いと、少しだけおでんの香り。嫌な意味でにおうとかじゃなくて…心がホッとするような、安心する香り。
ああ、この人は。これからも、この香りと歩んでいくのだろう。
「……もちろん、です。ずっと…出会った頃から、この先ずっと。例えご縁がなくなろうとも、あなたが好きです」
「…水面に映る月だと思っていましたが、月は最初から落ちて来ていたのですね。私も…柚葉が好きだ」
透ける血管も、動く心臓も偽物じゃない。私は私で、この世界に生きている。そして、私が生きている世界にこの人も一緒にいる。
それだけで、月にまで昇るような気持ちだ。