おちたツキ【暴太郎・ソノイ】
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一人でおでんを食べていた。
いや、正確には…最近は、一人ではない。隣にはいつも巴柚葉が座っている。楽しそうに喋り、笑い、食べる。そして私と目が合ったとき。目を細め、頬を赤らめ、口角を緩めるのだ。何故そんな顔をするのかは、よくわからない。
恐らく、今日も来るのだろう。後ろからやって来て暖簾をくぐり、当たり前のように隣に座ってたまごを頼むのだ。来るなら早く来い、と待ちつつおでんを食べ続ける。
「ソノイさんッ…!」
悲痛な叫びが、耳に入った。
驚いて椅子から立ち上がり、屋台の下を出る。何故か鍋を抱えている柚葉が、フラフラとこちらへ歩いて来た。
「わ、私…ソノシさんに、会って……!」
「ソノシに…!?」
「だ、だから、逃げて来て…!…でも、おでん……」
彼女が蓋を開けると、そこには原形を留めていない「おでんだったもの」があった。殆どの具材が無残に潰れており、沢山入っていたであろう鍋の中は混沌としている。
「…せっかく、ソノイさんに食べてもらいたくて作ったのに……」
泣いていた。ソノシに出会った恐怖や戸惑いなどではなく、自分が作ったおでんが無残に扱われたことに対して。
「ごめんなさい…私……」
何故、そんなことで泣くのだろう。
ソノシへの恐怖で泣くのはわかる。奴は同じ脳人でも理解できない程不気味だ。だが。たかが、一つの料理で。特別な想いがあるであろうとはいえ、おでんを台無しにされたことで。ここまで、人間は涙を流すことができるのか。
「……失礼」
懐から自分用の箸を取り出し、辛うじて半分残っているたまごを挟んだ。そして躊躇いなく口に運び、咀嚼、嚥下する。出汁は少々焦げた味をしており、たまごは煮過ぎだと分かる程味が濃かった。
「え……?」
「まだ、食べられますから」
「でも…ぐちゃぐちゃで…」
「食べ物を粗末にすることは、良くないので」
「…ソノイさん……」
しかしここで立ち食いというのも品が無いか…と思っていると、屋台の店主が「こっちで食べなよ」と誘ってくれた。彼女を屋台の方に連れて行き、椅子に座らせる。
「おお、もしかしてノイちゃんの為におでん作って来たのかい?」
「…はい…」
「愛だねえ」
「でも、色々あって…こんなことになっちゃって……」
「それが何さ。ノイちゃんは食べるんだろ?」
「……うん」
「じゃあ、柚葉ちゃんはうちのおでん食べて元気出しな。嫌なことは、美味しいものを食べれば忘れられるもんだよ」
「…たまご、一個お願いします」
「はいよ」
店主は彼女の皿にたまごを入れた。いただきます、と言ってたまごをぱくりと食べる。
「…美味しい…」
「そりゃよかった」
「あなたのおでんも、美味しいですよ」
「…ありがとうございます。私、これからももっと修行します」
素直に言えば、正直美味しいとは言い難い。しかし、何故だかこのおでんを「不味い」と言うことはできなかった。多分、彼女も私の言葉が真実ではないことを見抜いているから「修行する」と言っている。
「良いねえ。二人とも、愛だねえ」
「…」
「…」
柚葉と目が合った。揃って視線を逸らし、何かを誤魔化すようにしておでんを口に運ぶ。出汁の染み込みすぎた具は辛い。食べていると、何だか鉢巻とエプロンを身に着けた彼女に名前を呼ばれているような感覚に襲われる。
その姿があまりにも滑稽で、胸を打たれた。
いや、正確には…最近は、一人ではない。隣にはいつも巴柚葉が座っている。楽しそうに喋り、笑い、食べる。そして私と目が合ったとき。目を細め、頬を赤らめ、口角を緩めるのだ。何故そんな顔をするのかは、よくわからない。
恐らく、今日も来るのだろう。後ろからやって来て暖簾をくぐり、当たり前のように隣に座ってたまごを頼むのだ。来るなら早く来い、と待ちつつおでんを食べ続ける。
「ソノイさんッ…!」
悲痛な叫びが、耳に入った。
驚いて椅子から立ち上がり、屋台の下を出る。何故か鍋を抱えている柚葉が、フラフラとこちらへ歩いて来た。
「わ、私…ソノシさんに、会って……!」
「ソノシに…!?」
「だ、だから、逃げて来て…!…でも、おでん……」
彼女が蓋を開けると、そこには原形を留めていない「おでんだったもの」があった。殆どの具材が無残に潰れており、沢山入っていたであろう鍋の中は混沌としている。
「…せっかく、ソノイさんに食べてもらいたくて作ったのに……」
泣いていた。ソノシに出会った恐怖や戸惑いなどではなく、自分が作ったおでんが無残に扱われたことに対して。
「ごめんなさい…私……」
何故、そんなことで泣くのだろう。
ソノシへの恐怖で泣くのはわかる。奴は同じ脳人でも理解できない程不気味だ。だが。たかが、一つの料理で。特別な想いがあるであろうとはいえ、おでんを台無しにされたことで。ここまで、人間は涙を流すことができるのか。
「……失礼」
懐から自分用の箸を取り出し、辛うじて半分残っているたまごを挟んだ。そして躊躇いなく口に運び、咀嚼、嚥下する。出汁は少々焦げた味をしており、たまごは煮過ぎだと分かる程味が濃かった。
「え……?」
「まだ、食べられますから」
「でも…ぐちゃぐちゃで…」
「食べ物を粗末にすることは、良くないので」
「…ソノイさん……」
しかしここで立ち食いというのも品が無いか…と思っていると、屋台の店主が「こっちで食べなよ」と誘ってくれた。彼女を屋台の方に連れて行き、椅子に座らせる。
「おお、もしかしてノイちゃんの為におでん作って来たのかい?」
「…はい…」
「愛だねえ」
「でも、色々あって…こんなことになっちゃって……」
「それが何さ。ノイちゃんは食べるんだろ?」
「……うん」
「じゃあ、柚葉ちゃんはうちのおでん食べて元気出しな。嫌なことは、美味しいものを食べれば忘れられるもんだよ」
「…たまご、一個お願いします」
「はいよ」
店主は彼女の皿にたまごを入れた。いただきます、と言ってたまごをぱくりと食べる。
「…美味しい…」
「そりゃよかった」
「あなたのおでんも、美味しいですよ」
「…ありがとうございます。私、これからももっと修行します」
素直に言えば、正直美味しいとは言い難い。しかし、何故だかこのおでんを「不味い」と言うことはできなかった。多分、彼女も私の言葉が真実ではないことを見抜いているから「修行する」と言っている。
「良いねえ。二人とも、愛だねえ」
「…」
「…」
柚葉と目が合った。揃って視線を逸らし、何かを誤魔化すようにしておでんを口に運ぶ。出汁の染み込みすぎた具は辛い。食べていると、何だか鉢巻とエプロンを身に着けた彼女に名前を呼ばれているような感覚に襲われる。
その姿があまりにも滑稽で、胸を打たれた。