おちたツキ【暴太郎・ソノイ】
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鍋いっぱいのおでん。煮崩れしたものは一旦すくい上げて救出し、全てが出来上がったあとに投入。出汁は少し焦げた味がするものの、口に出来る程度には修正。最初にマスターが言った通り作り方や具を入れる順番自体はいつも通りで、柚葉がソノイへの想い(念?)を注いでいたことがポイントである。
「良かった…!これでソノイさんに食べてもらえる!」
「…喜んでもらえると、良いですね」
「うん!ありがとうはるかちゃん、マスター!」
思わずはるかの手を握った彼女はハッとして離し、「ごめん!」と慌てて謝った。勿論マスターにそんなことはせず、鉢巻とエプロンを脱いでおでんが入った鍋を持った。
「ソノイさんに持って行ってくる。多分今日も屋台に来るだろうから!」
「頑張ってください、柚葉さん!」
「…気を付けて」
「うん。本当にありがとう、二人とも!」
そう言って彼女は厨房、そして喫茶どんぶらを飛び出して行った。その背中を見送ったマスターは「おでん女」と呟いた。厨房には、主を失った鉢巻とエプロンが残された。
*
ソノイのことを想うと、重い鍋を抱えていても柚葉は小走りになってしまう。文字通り心が躍っていた。ソノイにおでんを食べてもらい、美味しい、と一言言ってもらうことを夢見て走る。駆ける。
──路地裏を曲がった彼女の目の前に、男が現れた。
赤い服、耳にべったりと付いた金粉。そして、口元に引かれた紅。ソノイが挙げていた特徴を全て満たしている──ソノシ、だった。
目が合った瞬間柚葉は立ち止まり、鍋を後ろに隠すような仕草をする。そんな彼女を見てソノシはにたりと笑った。
「あらぁ~こんな所にいたの?それ、何持ってるのかしら?」
「…あなたは…ソノシ、さん…!」
一目散に逃げ出したが、脳人レイヤーに存在する扉を開閉して移動できる脳人には関係が無かった。柚葉の行く先にソノシは現れ、行く手を阻む。
逃げられないことを悟った柚葉は「せめておでんだけでも守らなければ」と思って鍋の持ち手を力強く握った。
「知っているのなら話が早いわ。君、随分ソノイ君と仲良いわよねえ?」
「仲が、良い…?えっ、そう見えますか…!?嬉しい…」
「いやこの状況で何で素直に喜べるのよ…。まあいいわ。実は私、この間ソノイ君達に随分酷い目に遭わされたのよね」
「じ、自業自得でしょうそんなの…!」
「はあ?自業自得?」
それまで厭な笑みを浮かべていたソノシだったが、自業自得、といった言葉を聞いた瞬間目の色を変えた。柚葉に詰め寄り、「お前に何がわかる」と低い声色で威圧する。
「人間風情に理解なんてできないし、されたくもない…!」
「…ソノイさん達に酷いことをする人は、嫌いです!」
「…ふうん。そんなこと言っちゃうんだ…」
耳に指を突っ込み、耳垢である金粉をふうと彼女に撒き散らす。蓋をしていた為おでんは無事だった。反射的に顔を背けた柚葉は「汚い!最悪!」と彼女にしては珍しく、分かりやすい悪態をつく。が、ソノイは気にも留めていない。
「脳人はね…人間の欲望を刺激することができるの。無理矢理解放させたり、増幅させたり…」
遠回しに脅されようとも柚葉は向き合い、睨み付ける。ソノシはどこからか吹き矢を取り出した。
「あなたの欲望を解放させたら、と~っても楽しそう」
「…どうして…」
「ソノイ君が嫌がるからよ。ハハッ、ハハハハッ…!」
「…ヒトツ鬼になって、ソノイさんに斬られることも本望です。でも、ヒトツ鬼になったらまずあなたを倒します…!」
「あら、どこまで欲望をコントロールできるか見物ね?じゃあさっさとやりましょ」
「…私は、ソノイさんを守るためなら…鬼にもなります!!」
おでんの入った鍋を持ったまま、柚葉はソノシと対峙した。
「良かった…!これでソノイさんに食べてもらえる!」
「…喜んでもらえると、良いですね」
「うん!ありがとうはるかちゃん、マスター!」
思わずはるかの手を握った彼女はハッとして離し、「ごめん!」と慌てて謝った。勿論マスターにそんなことはせず、鉢巻とエプロンを脱いでおでんが入った鍋を持った。
「ソノイさんに持って行ってくる。多分今日も屋台に来るだろうから!」
「頑張ってください、柚葉さん!」
「…気を付けて」
「うん。本当にありがとう、二人とも!」
そう言って彼女は厨房、そして喫茶どんぶらを飛び出して行った。その背中を見送ったマスターは「おでん女」と呟いた。厨房には、主を失った鉢巻とエプロンが残された。
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ソノイのことを想うと、重い鍋を抱えていても柚葉は小走りになってしまう。文字通り心が躍っていた。ソノイにおでんを食べてもらい、美味しい、と一言言ってもらうことを夢見て走る。駆ける。
──路地裏を曲がった彼女の目の前に、男が現れた。
赤い服、耳にべったりと付いた金粉。そして、口元に引かれた紅。ソノイが挙げていた特徴を全て満たしている──ソノシ、だった。
目が合った瞬間柚葉は立ち止まり、鍋を後ろに隠すような仕草をする。そんな彼女を見てソノシはにたりと笑った。
「あらぁ~こんな所にいたの?それ、何持ってるのかしら?」
「…あなたは…ソノシ、さん…!」
一目散に逃げ出したが、脳人レイヤーに存在する扉を開閉して移動できる脳人には関係が無かった。柚葉の行く先にソノシは現れ、行く手を阻む。
逃げられないことを悟った柚葉は「せめておでんだけでも守らなければ」と思って鍋の持ち手を力強く握った。
「知っているのなら話が早いわ。君、随分ソノイ君と仲良いわよねえ?」
「仲が、良い…?えっ、そう見えますか…!?嬉しい…」
「いやこの状況で何で素直に喜べるのよ…。まあいいわ。実は私、この間ソノイ君達に随分酷い目に遭わされたのよね」
「じ、自業自得でしょうそんなの…!」
「はあ?自業自得?」
それまで厭な笑みを浮かべていたソノシだったが、自業自得、といった言葉を聞いた瞬間目の色を変えた。柚葉に詰め寄り、「お前に何がわかる」と低い声色で威圧する。
「人間風情に理解なんてできないし、されたくもない…!」
「…ソノイさん達に酷いことをする人は、嫌いです!」
「…ふうん。そんなこと言っちゃうんだ…」
耳に指を突っ込み、耳垢である金粉をふうと彼女に撒き散らす。蓋をしていた為おでんは無事だった。反射的に顔を背けた柚葉は「汚い!最悪!」と彼女にしては珍しく、分かりやすい悪態をつく。が、ソノイは気にも留めていない。
「脳人はね…人間の欲望を刺激することができるの。無理矢理解放させたり、増幅させたり…」
遠回しに脅されようとも柚葉は向き合い、睨み付ける。ソノシはどこからか吹き矢を取り出した。
「あなたの欲望を解放させたら、と~っても楽しそう」
「…どうして…」
「ソノイ君が嫌がるからよ。ハハッ、ハハハハッ…!」
「…ヒトツ鬼になって、ソノイさんに斬られることも本望です。でも、ヒトツ鬼になったらまずあなたを倒します…!」
「あら、どこまで欲望をコントロールできるか見物ね?じゃあさっさとやりましょ」
「…私は、ソノイさんを守るためなら…鬼にもなります!!」
おでんの入った鍋を持ったまま、柚葉はソノシと対峙した。