おちたツキ【暴太郎・ソノイ】
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喫茶どんぶらでアップルジュースを飲む。コーヒーショップに通っていた時期はあったが、ここに来てコーヒーは頼まないようにしている。口臭が気になってしまうから。
「マスターに言われた通り、この間本当に王子様と会えた…」
「それなら良かった」
「でも…避けられた、と思う。私みたいな凡人じゃ手の届かない人なんだろうな…。すっごくかっこよかったし…服はアレだけど…」
よく見たら首元に謎の羽が付いていたし、ハーフパンツにスラックスだった気がする。ダメだ、真面目に考えるとダサすぎて悶絶しそうになる。常人では理解できないファッションセンスの持ち主なのだろう。
「それで、どうするの」
「…あの人が嫌がるなら、無理に追うのはやめようかなって。今まで通り、気の向くまま過ごそうかなとは思ってる…」
嫌がる人に強要するのは宜しくない。ストーカーだと言われて逮捕されては元も子もないのだ。
俯いていると、「風の吹くままに身を任せればいい」と教授が訳知り顔で語った。うるさいなこの人。
「巴さんって真面目な人なんですね。僕、軽率な人なんだと勘違いしてました。悪い噂をよく聞きますし…」
「風評被害なんだよねえ。私は色んな人と仲良くしたいだけなんだけど」
「それが噂の原因だろう。君は軽率な人間だ」
「人間が好きなだけだよ。だから知りたいの」
「それがいけないと言っている。今まで何人勘違いさせてきたんだ」
「勘違いさせたって…。勘違いしてるのは友達の方だよ。私は普通に接してただけなのに…」
沈黙。
マスターが本のページをめくる音だけが響く。そうして長い長い沈黙のあと、教授が溜め息を吐いて、雉野さんがぺこぺこ頭を下げながら喫茶どんぶらを出て行った。
「お喋りして、遊んで…ここまででも十分人に触れることができるのに、どうしてみんな最後は同じことを望むんだろうね」
「…そういう人間とばかり付き合ってきたからじゃないのか?」
「そうなのかなあ。そんな人達じゃないと思ってるけど…」
*
無理に追うのはやめる、といったものの、私の心は依然ソノイさんの物だった。心ここにあらず、といった感じだ。
覚束ない足取りで歩く。フラフラ、ヨロヨロ、と足を動かしていると通りすがる人は皆私を心配そうに見た。が、話しかけてくることは一切無い。多分、ラリっている人にでも見えるのだろう。
電柱にぶつかって、そのまま凭れ掛かって座り込むのも悪くないかもしれない…と思った時、ガッと誰かに腕を掴まれた。
「おい。歩くときは前を見て歩け」
「……タロウ君」
「…何だあんたか」
あんたとは何だ。一応年上なのに、と言おうとしたが年齢が上であることは彼にとって敬う理由にはならないのを即座に思い出した。雉野さんにすら同じ態度をとるのだから、恐らく私如きではどうにもならないだろう。
「…タロウ君はさ…青い人、知ってる?」
「青い人?」
「青い目に、青い服を着てて…騎士みたいな姿になる、剣を持った人」
「?ソノイのことか」
「はあ!?何で知ってるの!?」
「別に、俺が知っていても問題はないだろう。で、ソノイがどうした」
何で私が知らないことを彼が知っているんだ。
「そ…ソノイさんって、何が好きか知ってる…?あっ、あと連絡先は?彼女いる?元カノの特徴は?目玉焼きには醤油?ソース?塩?」
「知らん!!」
「なんで!?なんでタロウ君の方が私より先にソノイさんのこと知ってたの!?」
「奴とは…縁がある」
「ソノイさんって…何者なの?」
少し視線を泳がし、言葉を詰まらせた。そうだ、彼は嘘が吐けない。回答は上手くはぐらかすか、正直に答えるかの二択だ。
「…あいつは、人間じゃない」
「…それを知ってるタロウ君も、何者なの…?」
「…俺は…俺だ」
苦し紛れにそう言い、彼は「仕事がある」と言って車の方へ向かってしまった。それを止めることは出来ず、背中を見送ることになってしまう。
ソノイさんは…人間じゃない。何となくそんな気はしていたが、タロウ君が言ったということは事実だ。
…でも、人間じゃないとして…何か問題があるのだろうか。世界は広い。私は、幽霊も宇宙人も信じる派だ。いるなら話をしてみたいくらいには。
ますます興味が強まってしまった。もっと彼を知りたい。
追わないなんて、できない。
「マスターに言われた通り、この間本当に王子様と会えた…」
「それなら良かった」
「でも…避けられた、と思う。私みたいな凡人じゃ手の届かない人なんだろうな…。すっごくかっこよかったし…服はアレだけど…」
よく見たら首元に謎の羽が付いていたし、ハーフパンツにスラックスだった気がする。ダメだ、真面目に考えるとダサすぎて悶絶しそうになる。常人では理解できないファッションセンスの持ち主なのだろう。
「それで、どうするの」
「…あの人が嫌がるなら、無理に追うのはやめようかなって。今まで通り、気の向くまま過ごそうかなとは思ってる…」
嫌がる人に強要するのは宜しくない。ストーカーだと言われて逮捕されては元も子もないのだ。
俯いていると、「風の吹くままに身を任せればいい」と教授が訳知り顔で語った。うるさいなこの人。
「巴さんって真面目な人なんですね。僕、軽率な人なんだと勘違いしてました。悪い噂をよく聞きますし…」
「風評被害なんだよねえ。私は色んな人と仲良くしたいだけなんだけど」
「それが噂の原因だろう。君は軽率な人間だ」
「人間が好きなだけだよ。だから知りたいの」
「それがいけないと言っている。今まで何人勘違いさせてきたんだ」
「勘違いさせたって…。勘違いしてるのは友達の方だよ。私は普通に接してただけなのに…」
沈黙。
マスターが本のページをめくる音だけが響く。そうして長い長い沈黙のあと、教授が溜め息を吐いて、雉野さんがぺこぺこ頭を下げながら喫茶どんぶらを出て行った。
「お喋りして、遊んで…ここまででも十分人に触れることができるのに、どうしてみんな最後は同じことを望むんだろうね」
「…そういう人間とばかり付き合ってきたからじゃないのか?」
「そうなのかなあ。そんな人達じゃないと思ってるけど…」
*
無理に追うのはやめる、といったものの、私の心は依然ソノイさんの物だった。心ここにあらず、といった感じだ。
覚束ない足取りで歩く。フラフラ、ヨロヨロ、と足を動かしていると通りすがる人は皆私を心配そうに見た。が、話しかけてくることは一切無い。多分、ラリっている人にでも見えるのだろう。
電柱にぶつかって、そのまま凭れ掛かって座り込むのも悪くないかもしれない…と思った時、ガッと誰かに腕を掴まれた。
「おい。歩くときは前を見て歩け」
「……タロウ君」
「…何だあんたか」
あんたとは何だ。一応年上なのに、と言おうとしたが年齢が上であることは彼にとって敬う理由にはならないのを即座に思い出した。雉野さんにすら同じ態度をとるのだから、恐らく私如きではどうにもならないだろう。
「…タロウ君はさ…青い人、知ってる?」
「青い人?」
「青い目に、青い服を着てて…騎士みたいな姿になる、剣を持った人」
「?ソノイのことか」
「はあ!?何で知ってるの!?」
「別に、俺が知っていても問題はないだろう。で、ソノイがどうした」
何で私が知らないことを彼が知っているんだ。
「そ…ソノイさんって、何が好きか知ってる…?あっ、あと連絡先は?彼女いる?元カノの特徴は?目玉焼きには醤油?ソース?塩?」
「知らん!!」
「なんで!?なんでタロウ君の方が私より先にソノイさんのこと知ってたの!?」
「奴とは…縁がある」
「ソノイさんって…何者なの?」
少し視線を泳がし、言葉を詰まらせた。そうだ、彼は嘘が吐けない。回答は上手くはぐらかすか、正直に答えるかの二択だ。
「…あいつは、人間じゃない」
「…それを知ってるタロウ君も、何者なの…?」
「…俺は…俺だ」
苦し紛れにそう言い、彼は「仕事がある」と言って車の方へ向かってしまった。それを止めることは出来ず、背中を見送ることになってしまう。
ソノイさんは…人間じゃない。何となくそんな気はしていたが、タロウ君が言ったということは事実だ。
…でも、人間じゃないとして…何か問題があるのだろうか。世界は広い。私は、幽霊も宇宙人も信じる派だ。いるなら話をしてみたいくらいには。
ますます興味が強まってしまった。もっと彼を知りたい。
追わないなんて、できない。