ヨシ!【爆上・玄蕃】
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趣味であるショッピングを楽しんでいると、遠くの方から人々の悲鳴が聞こえた。悲鳴がした方を向くと炎の揺らめきのようなものが見える。間違いなく、ハシリヤンがギャーソリンを集めていた。
考えるよりも先に体が動いていた。小さくて柔らかくて弱くて脆くて可愛い人間を、宇宙からのよそ者が傷付けている。その事実だけで頭に血が上り、元の姿に戻りそうになった。それを理性で押さえつけ、現場まで走って向かう。
「良い調子よ~。そのまま、ギャーソリンをどんっどん集めちゃって!」
物陰から見守るハシリヤンと、無抵抗な人々に危害を加える苦魔獣がいた。人々は耳を塞いで地に伏せており、苦魔獣は檻のようになった頭部を楽器で使う弓のようなもので弾いていた。確かに耳を塞ぎたくなるような、人間の精神を不安にさせる音を大音量で発している。
だが、それはあくまでも人間だけだ。宇宙人であり所詮ただの擬態である私や、地球人にとっての宇宙人であるハシリヤン達には何の影響もない。確かに少し不快感はあるが、意識をしなければどうということはなかった。
いつもならば良いタイミングでブンブンジャーという集団が現れるのだが、今はまだ急行中なのか姿が見当たらない。それに、来たとしてもこの音で戦闘どころではないだろう。
元の姿──エン人に戻って攻撃を仕掛けるべきか。いや、否だ。もしも元の姿で戦っているところを見られて目を付けられては今の穏やかな暮らしが壊されてしまう。
そんなことはしなくてもいい。元の姿を見られるのがマズイのなら、この姿のまま戦闘を挑めばいいのだ。
「やめなさい!」
人間の体は柔らかく、足は遅い。しかしそれでも精一杯動かして走り、飛び上がった。足の裏を苦魔獣の顔に叩き込み、持っていた弓を弾き飛ばす。
苦魔獣は不意の攻撃によろめき、地面に倒れ込んだ。檻のようになっているパイプが取り囲んでいる筒から水が少し零れ、地面に広がった。苦魔獣は「ああ!ああ!ワタシの水が!」と叫び、取り乱しながら起き上がってくる。ダメージはあまり通っていないようだ。やはり人間の体では攻撃力も防御力も足りない。
「よくもワタシの演奏を!!」
音楽が止まったことで、ギャーソリンを出していた人々が解放された。一目散にこの場を去っていき、この場にはハシリヤンと苦魔獣、そしてロクに戦える訳でもない私だけが残される。
弓は拾わずに木槌になった腕で頭部を叩いた。先程とは違うが、不快な音が響き渡る。超近距離で聴かされた為モロにダメージを食らってしまい、フラフラとよろめいてしまった。その隙を逃す筈がなく、演奏をやめて私の腕を掴み引っ張り上げる。
「喜びなさい、アナタの血で音楽を奏でて差し上げまショー。先程水が零れてしまいましたから、丁度補充しようと思っていました」
抵抗しようにも人間の体では力が出ない。惨めに泣き叫ぶくらいなら死を受け入れた方がマシだと覚悟を決めたとき──苦魔獣の顔に銃弾が飛んできた。
着弾の爆破に当たらないよう精一杯仰け反ると、死角からの射撃は全弾命中した。尚も私の腕は離されなかったが、頭部のパイプに片手斧が命中する。そこでようやく解放され、後ろへ倒れそうになった私を誰かが受け止めてくれた。
「もう大丈夫だからね」
──ブンブンジャーが出てきたとき、タイヤ人間と騒がれた理由がよくわかった。確かにこれは、タイヤ人間としか形容できない。
その姿をまじまじと見る余裕もすら与えられなかった。苦魔獣は弓を手にし、再び演奏を始める。スーツを着ていてもダメージが通るのか、ブンブンジャーは耳を塞いで崩れ落ちるように膝を着いた。
「何この音…ッ!」
ピンクがそう言って身を捩ると、物陰から見ていたハシリヤンの一人が「地球人は弱くて可哀想だよなァ」と嘲笑した。
「あの苦魔獣は地球人にだけ不快感を与える音を出せんだよ。つまり、同じ地球人であるブンブンジャーにもダメージを与えられるっつーワケだ!」
私を庇いながら他のメンバーよりも後ろに退がっていたオレンジは範囲外なのか、特に効いている様子がない。だが、苦しんでいる仲間の様子を見て焦りを感じている。
「ぶ、ブンオレンジさん!あの苦魔獣、体が楽器になっています!弓と腕で頭を刺激するんです!」
「そのようだねぇ。ならばあれは恐らく、ウォーターフォンという楽器だ。頭の筒に入っている水を刺激して、この音を出しているんだ」
「あ、確かに…。さっきも、倒れたときに水が零れたって言ってて…もしかしたら、その」
彼は私を見つめて口角を上げた。ような、気がする。まるで、勝ち誇ったかのように。
「筒の水を全部抜けば、演奏も止まるかもしれないね」
「た、多分…」
「なら…筒の水全部抜く作戦といこうか」
物陰に私を誘導し、オレンジは「射撃くらいならできそうかい?」とレッド、ブルー、ピンクに声を掛けた。
「苦魔獣をひっくり返したいから、援護射撃をお願いするよ」
「ああ、それくらいなら…!」
「ていうか、苦しくないの!?」
「どうやら私は範囲外だったらしい。射撃で演奏を止めた隙に、苦魔獣をひっくり返す」
「オーライ!こっちは任せろ!」
三人が武器を銃に変え、苦魔獣が持つ弓や腕自体を狙い始めた。演奏が中断し、一瞬で接近したオレンジが苦魔獣を片手斧で切り裂く。武器種的に威力が高いのか苦魔獣は作戦通りひっくり返り、筒から水が漏れ出てきた。
「ワタシの水がァ~~ッ!!」
喚く苦魔獣。だが慈悲など無かった。オレンジが片手斧を構え、武器についたペダルを何回か押す。
『ヴォーン!ヴォンヴォーン!ヴォンヴォンヴォーン!バクアゲクラッシュ!』
「ブンブンアックスドライブ!!」
「指揮者が手を下ろす前のブラボーは、フライング……ッ!」
頭部のパイプを圧し折る勢いだった。炎が立ち込め、苦魔獣が爆発した。
噂に聞く強さだ。戦闘民族であるエン人ですらハシリヤンとの戦いに終わりが見えないというのに、彼らは苦魔獣程度なら多少のピンチこそあるものの危なげなく倒してしまう。この後に巨大化した苦魔獣との戦いも控えているのなら尚更だ。
冷や汗が伝う。それは、人間としての「柚葉」の畏怖の感情なのか、エン人としての「柚葉」の強者への高揚感なのか分からなかった。
*
「あそこで決めれるなら、水抜いた意味なかったんじゃない?」
「いや、反撃でまた演奏をされたらそれこそ厄介だった。安定した勝利を目指すのなら、演奏が絶対に出来ないように水を抜いた意味はあっただろう」
「玄蕃さん、あんな楽器知っていたんですか?」
「確証はなかったけどねぇ。でも、彼女が身をもって得た情報を教えてくれたのさ」
ブンブンジャーの正体は、よく知る人物達だった。
キッチンカーのオーナーである大也。いつもクールな射士郎。笑顔で真っ直ぐな未来。熱血警察官の錠。そして、キッチンカーのお得意様になりつつある玄蕃。
何となくそんな気はしていたが、まさか本当に彼・彼女達だとは思わなかった。
「柚葉」
「は、はいっ!な、なんですか、玄蕃さん」
「どうしてあんな無茶をしたんだい?今回はたまたま私達が間に合ったから良いものの…」
「え…ええと…それは…」
まさか、「本当に危険になったらエン人の姿になれるから」とは口が裂けても言えない。
「こ、困っている人達を差し置いて逃げ出すなんて出来なくて…。ご、ごめんなさい…」
「…もうあんな無茶をしてはいけないよ。私達との約束だ」
「は、はい…」
「…心配したんだ、本当に」
私の肩を掴み、玄蕃は真剣な眼差しでそう言った。ただ心配をしているだけの目ではない。”何か”を見てきたような瞳だ。まるで、敗走と滅びという意味の全てを悟ったような者の顔をしている。
「…ごめんなさい」
その場の流れで謝罪した先程とは違い、心からそう言った。玄蕃は玄蕃で、私の知らない”何か”を知っている。それは恐らく、私には到底理解できないことだ。彼のその経験と戒めに敬意を表した。
「そ、それにしてもまさか皆さんがブンブンジャーだったなんて…」
「あ」
「…」
「あはは…」
「バレちゃいましたね…」
すると、未来は「私は公言してるから!」と胸を張った。錠もそれに続き、「自分もです!」と敬礼する。大也やシャーシロは目を逸らし、二人で気まずそうにしていた。
「そういうこと。これで君も共犯だ」
ニコリと笑い、玄蕃は私にオレンジ色の飴を差し出した。
考えるよりも先に体が動いていた。小さくて柔らかくて弱くて脆くて可愛い人間を、宇宙からのよそ者が傷付けている。その事実だけで頭に血が上り、元の姿に戻りそうになった。それを理性で押さえつけ、現場まで走って向かう。
「良い調子よ~。そのまま、ギャーソリンをどんっどん集めちゃって!」
物陰から見守るハシリヤンと、無抵抗な人々に危害を加える苦魔獣がいた。人々は耳を塞いで地に伏せており、苦魔獣は檻のようになった頭部を楽器で使う弓のようなもので弾いていた。確かに耳を塞ぎたくなるような、人間の精神を不安にさせる音を大音量で発している。
だが、それはあくまでも人間だけだ。宇宙人であり所詮ただの擬態である私や、地球人にとっての宇宙人であるハシリヤン達には何の影響もない。確かに少し不快感はあるが、意識をしなければどうということはなかった。
いつもならば良いタイミングでブンブンジャーという集団が現れるのだが、今はまだ急行中なのか姿が見当たらない。それに、来たとしてもこの音で戦闘どころではないだろう。
元の姿──エン人に戻って攻撃を仕掛けるべきか。いや、否だ。もしも元の姿で戦っているところを見られて目を付けられては今の穏やかな暮らしが壊されてしまう。
そんなことはしなくてもいい。元の姿を見られるのがマズイのなら、この姿のまま戦闘を挑めばいいのだ。
「やめなさい!」
人間の体は柔らかく、足は遅い。しかしそれでも精一杯動かして走り、飛び上がった。足の裏を苦魔獣の顔に叩き込み、持っていた弓を弾き飛ばす。
苦魔獣は不意の攻撃によろめき、地面に倒れ込んだ。檻のようになっているパイプが取り囲んでいる筒から水が少し零れ、地面に広がった。苦魔獣は「ああ!ああ!ワタシの水が!」と叫び、取り乱しながら起き上がってくる。ダメージはあまり通っていないようだ。やはり人間の体では攻撃力も防御力も足りない。
「よくもワタシの演奏を!!」
音楽が止まったことで、ギャーソリンを出していた人々が解放された。一目散にこの場を去っていき、この場にはハシリヤンと苦魔獣、そしてロクに戦える訳でもない私だけが残される。
弓は拾わずに木槌になった腕で頭部を叩いた。先程とは違うが、不快な音が響き渡る。超近距離で聴かされた為モロにダメージを食らってしまい、フラフラとよろめいてしまった。その隙を逃す筈がなく、演奏をやめて私の腕を掴み引っ張り上げる。
「喜びなさい、アナタの血で音楽を奏でて差し上げまショー。先程水が零れてしまいましたから、丁度補充しようと思っていました」
抵抗しようにも人間の体では力が出ない。惨めに泣き叫ぶくらいなら死を受け入れた方がマシだと覚悟を決めたとき──苦魔獣の顔に銃弾が飛んできた。
着弾の爆破に当たらないよう精一杯仰け反ると、死角からの射撃は全弾命中した。尚も私の腕は離されなかったが、頭部のパイプに片手斧が命中する。そこでようやく解放され、後ろへ倒れそうになった私を誰かが受け止めてくれた。
「もう大丈夫だからね」
──ブンブンジャーが出てきたとき、タイヤ人間と騒がれた理由がよくわかった。確かにこれは、タイヤ人間としか形容できない。
その姿をまじまじと見る余裕もすら与えられなかった。苦魔獣は弓を手にし、再び演奏を始める。スーツを着ていてもダメージが通るのか、ブンブンジャーは耳を塞いで崩れ落ちるように膝を着いた。
「何この音…ッ!」
ピンクがそう言って身を捩ると、物陰から見ていたハシリヤンの一人が「地球人は弱くて可哀想だよなァ」と嘲笑した。
「あの苦魔獣は地球人にだけ不快感を与える音を出せんだよ。つまり、同じ地球人であるブンブンジャーにもダメージを与えられるっつーワケだ!」
私を庇いながら他のメンバーよりも後ろに退がっていたオレンジは範囲外なのか、特に効いている様子がない。だが、苦しんでいる仲間の様子を見て焦りを感じている。
「ぶ、ブンオレンジさん!あの苦魔獣、体が楽器になっています!弓と腕で頭を刺激するんです!」
「そのようだねぇ。ならばあれは恐らく、ウォーターフォンという楽器だ。頭の筒に入っている水を刺激して、この音を出しているんだ」
「あ、確かに…。さっきも、倒れたときに水が零れたって言ってて…もしかしたら、その」
彼は私を見つめて口角を上げた。ような、気がする。まるで、勝ち誇ったかのように。
「筒の水を全部抜けば、演奏も止まるかもしれないね」
「た、多分…」
「なら…筒の水全部抜く作戦といこうか」
物陰に私を誘導し、オレンジは「射撃くらいならできそうかい?」とレッド、ブルー、ピンクに声を掛けた。
「苦魔獣をひっくり返したいから、援護射撃をお願いするよ」
「ああ、それくらいなら…!」
「ていうか、苦しくないの!?」
「どうやら私は範囲外だったらしい。射撃で演奏を止めた隙に、苦魔獣をひっくり返す」
「オーライ!こっちは任せろ!」
三人が武器を銃に変え、苦魔獣が持つ弓や腕自体を狙い始めた。演奏が中断し、一瞬で接近したオレンジが苦魔獣を片手斧で切り裂く。武器種的に威力が高いのか苦魔獣は作戦通りひっくり返り、筒から水が漏れ出てきた。
「ワタシの水がァ~~ッ!!」
喚く苦魔獣。だが慈悲など無かった。オレンジが片手斧を構え、武器についたペダルを何回か押す。
『ヴォーン!ヴォンヴォーン!ヴォンヴォンヴォーン!バクアゲクラッシュ!』
「ブンブンアックスドライブ!!」
「指揮者が手を下ろす前のブラボーは、フライング……ッ!」
頭部のパイプを圧し折る勢いだった。炎が立ち込め、苦魔獣が爆発した。
噂に聞く強さだ。戦闘民族であるエン人ですらハシリヤンとの戦いに終わりが見えないというのに、彼らは苦魔獣程度なら多少のピンチこそあるものの危なげなく倒してしまう。この後に巨大化した苦魔獣との戦いも控えているのなら尚更だ。
冷や汗が伝う。それは、人間としての「柚葉」の畏怖の感情なのか、エン人としての「柚葉」の強者への高揚感なのか分からなかった。
*
「あそこで決めれるなら、水抜いた意味なかったんじゃない?」
「いや、反撃でまた演奏をされたらそれこそ厄介だった。安定した勝利を目指すのなら、演奏が絶対に出来ないように水を抜いた意味はあっただろう」
「玄蕃さん、あんな楽器知っていたんですか?」
「確証はなかったけどねぇ。でも、彼女が身をもって得た情報を教えてくれたのさ」
ブンブンジャーの正体は、よく知る人物達だった。
キッチンカーのオーナーである大也。いつもクールな射士郎。笑顔で真っ直ぐな未来。熱血警察官の錠。そして、キッチンカーのお得意様になりつつある玄蕃。
何となくそんな気はしていたが、まさか本当に彼・彼女達だとは思わなかった。
「柚葉」
「は、はいっ!な、なんですか、玄蕃さん」
「どうしてあんな無茶をしたんだい?今回はたまたま私達が間に合ったから良いものの…」
「え…ええと…それは…」
まさか、「本当に危険になったらエン人の姿になれるから」とは口が裂けても言えない。
「こ、困っている人達を差し置いて逃げ出すなんて出来なくて…。ご、ごめんなさい…」
「…もうあんな無茶をしてはいけないよ。私達との約束だ」
「は、はい…」
「…心配したんだ、本当に」
私の肩を掴み、玄蕃は真剣な眼差しでそう言った。ただ心配をしているだけの目ではない。”何か”を見てきたような瞳だ。まるで、敗走と滅びという意味の全てを悟ったような者の顔をしている。
「…ごめんなさい」
その場の流れで謝罪した先程とは違い、心からそう言った。玄蕃は玄蕃で、私の知らない”何か”を知っている。それは恐らく、私には到底理解できないことだ。彼のその経験と戒めに敬意を表した。
「そ、それにしてもまさか皆さんがブンブンジャーだったなんて…」
「あ」
「…」
「あはは…」
「バレちゃいましたね…」
すると、未来は「私は公言してるから!」と胸を張った。錠もそれに続き、「自分もです!」と敬礼する。大也やシャーシロは目を逸らし、二人で気まずそうにしていた。
「そういうこと。これで君も共犯だ」
ニコリと笑い、玄蕃は私にオレンジ色の飴を差し出した。