ヨシ!【爆上・玄蕃】
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宇宙船には銀河通販の企業マークがついている。元々これは私の所有物ではない。というか、エン星にそんなに高度な技術は存在しない。
これはエン星に不時着したブレキ人が残していったものだ。彼は自らを銀河通販の営業社員だと名乗り、ぴこぴこと可愛らしい耳を動かしていた。
「……ギンガツウハン?」
「そう。宇宙の色んな所にいる困っている人達に、色んなものを届けている会社なんだ。かなり有名なんだけど…知らない?」
「知らない…」
「そうか…。まあ、エン星って文明もあんまり発達していない惑星だから契約は結べないって言われてたしなあ。それもそうかあ」
ぽりぽりと頭を掻き、彼はあははと笑った。
「どうしてここに来たの?」
「いやちょっと、エンジントラブルでね…。エン人だけに」
「エンジントラブル?」
「……通じないか…」
「…困ってるの?何か私にできることはある?」
「いや、大丈夫だよ。少しシステムを直したらすぐにこの惑星を発つさ」
そこまで言うと、彼の腹が大きな音を立てた。私はパチパチと腹部を見つめた後、彼の顔を見る。彼は恥ずかしそうに笑い、「いや~その…」とモジモジする。
「食事は営業先で摂ろうと思っていたから…お腹、空いちゃって…」
「…」
私は立ち上がって宇宙船を離れると、一度野営地に戻った。そして自分が確保していた分の食料を幾つか手に持ち、再び彼の元を訪れる。手に持った食料を見た彼は最初は遠慮していたが、最終的には「必要な分だけ」と言って食べてくれた。
「ありがとう、ありがとう」
「……毒が入ってるって思わないの?」
「君なら、そんなことしなくても僕を殺せるだろうなって」
鞘に収めた刀を一瞥してそう言った。確かに、彼を殺すことは容易い。日頃戦っている同族の方がもっと手強く、しぶとい。
「名前を聞いてもいいかい?」
「…柚葉」
「柚葉か。ありがとう柚葉、君は僕の恩人だ」
「……明日、私が生きてたらまたここに来ていい?」
「もちろん!あ、でも…僕がここにいるのは出来れば秘密にしてほしいな…。あんまり混乱させたくないし…」
「いいよ。宇宙船も、葉っぱとかで隠したり土でにおいを隠した方が良いよ。この辺は戦場から遠くないから、見つかったら殺されちゃう」
エン人は基本的に暴力的だ。自分達の知らない力を持った部外者がいると知ればすぐに殺されてしまうだろう。
会ったばかりの彼に対して情が湧いた訳ではない。ただ、誰も殺していない彼の命が簡単に奪われるのは何だか凄く嫌だった。
「ああ、わかった。あ、僕は蜷咲┌縺嶺ココ。それじゃあまた明日、柚葉」
「うん。生きていたら、また明日」
次の日も私は生き残った。その次の日も、そのまた次の日も。
勝って、勝って、勝って、勝った。血を浴び、血に塗れた手と刃を拭いて蜷咲┌縺嶺ココの元へ通い詰めた。
彼は面白い人だった。最初は簡単な自己紹介だったが、段々と仕事の話になり、「初めは慣れなかったけど今は凄くやり甲斐を感じている」と笑っていた。
「じゃあ、銀河通販で一番偉い人は凄い人なんだね」
「ああ。ご子息も将来有望な方らしくて、若旦那って呼ばれているらしいよ」
「ワカダンナ…」
「柚葉、もし良かったらだけど宇宙に出てみない?君はエン星での生活が苦手みたいだし、外に出て見聞を広めればきっと沢山の面白いものが観れるよ」
「……外に、出る…」
魅力的な誘いだった。だから二つ返事で頷いた。
蜷咲┌縺嶺ココはひどく嬉しそうな顔で「やった~!」と手を挙げ、我が事のように喜んでくれた。私も何だか嬉しくなって、ぽりぽりと頬を掻いた。
「明日にはエンジンが治るから、その時に出よう。夜ならきっと見つからない筈だから、陽が落ちたらここに集合するんだよ」
「…わかった。私、明日も頑張って生き残るね」
「うん。柚葉なら、きっと大丈夫」
それが彼の最期だった。
次の日の夜、宇宙船に行く道中で蜷咲┌縺嶺ココは血を流して倒れていた。駆け寄って脈を計る。手遅れだった。心臓をぎゅっと掴まれた気がして、気が付けば彼の死体を抱いて声を上げて泣いていた。死体なんて見慣れている筈なのに、彼の冷たい体に触れているとどうしようもない程悲しみが押し寄せてきた。
中々帰ってこない私を心配した友人や大人達が集まってくる。彼らは彼の殺され方をじっくり観察し、「アイツらに殺られたな」と呟いた。アイツらとは、現在進行形で対立──戦闘を行っている敵対集団のことだ。確かに、傷のつき方や殺され方、死体の扱い方が非常によく似ていた。
蜷咲┌縺嶺ココは耳を千切られていた。嬉しかったり恥ずかしかったりすると愛らしく動くもふもふの耳だった。目には大きな裂傷があり、瞳は開いたままだった。どうやら、目の周りの神経が圧迫されて瞳が押し出されているらしい。ブレキ人の瞳孔は私達よりも細かった。
そっと手で彼の目を閉じてあげた。そして死体を周辺に埋葬した。エン人にとって誰かが死ぬのは日常茶飯事のこと故死体を埋葬することは滅多になかったが、もう誰にも彼の姿を見られたくなかった。
皆が寝静まった頃、刀の収められた鞘を手に取った。音を立てずに移動し、敵陣まで潜り込む。見張りを暗がりに引きずり込み、悲鳴も上げさせずに殺した。復讐は朝まで続き、朝日が昇る頃には全身血塗れになっていた。
「……柚葉」
異変を察知してやって来た友人は何とも言えない表情を浮かべていた。布を差し出し、「血」とだけ言う。ぐしゃぐしゃとそれで血を拭う。傷口に手が当たる痛みなんて気にもならなかった。私より、蜷咲┌縺嶺ココの方が余程怖かった筈だ。
知らない土地で、もうすぐ出発できるという時に殺されたのだ。怖かったに違いない。苦しかったに違いない。耳や目を傷付けられた苦しみを考えると吐き気がした。それでも、込み上げてくる胃液や腹に収めた食料を飲み込んだ。泣いても、怒っても、吐いても、殺しても、死んでも、彼は蘇らない。埋葬された死体は動かない。
宇宙船のことは誰にも言わなかった。今思えば、使い方を聞いていたのはファインプレーだった。そのおかげで地球に来れたのだから。
宇宙船には、私が生活している匂いだけが染みついている。蜷咲┌縺嶺ココの匂いは既に消えた。もう跡形もない。ただ引き出しに入っていた社員証だけが、彼との最後の繋がりだった。
これはエン星に不時着したブレキ人が残していったものだ。彼は自らを銀河通販の営業社員だと名乗り、ぴこぴこと可愛らしい耳を動かしていた。
「……ギンガツウハン?」
「そう。宇宙の色んな所にいる困っている人達に、色んなものを届けている会社なんだ。かなり有名なんだけど…知らない?」
「知らない…」
「そうか…。まあ、エン星って文明もあんまり発達していない惑星だから契約は結べないって言われてたしなあ。それもそうかあ」
ぽりぽりと頭を掻き、彼はあははと笑った。
「どうしてここに来たの?」
「いやちょっと、エンジントラブルでね…。エン人だけに」
「エンジントラブル?」
「……通じないか…」
「…困ってるの?何か私にできることはある?」
「いや、大丈夫だよ。少しシステムを直したらすぐにこの惑星を発つさ」
そこまで言うと、彼の腹が大きな音を立てた。私はパチパチと腹部を見つめた後、彼の顔を見る。彼は恥ずかしそうに笑い、「いや~その…」とモジモジする。
「食事は営業先で摂ろうと思っていたから…お腹、空いちゃって…」
「…」
私は立ち上がって宇宙船を離れると、一度野営地に戻った。そして自分が確保していた分の食料を幾つか手に持ち、再び彼の元を訪れる。手に持った食料を見た彼は最初は遠慮していたが、最終的には「必要な分だけ」と言って食べてくれた。
「ありがとう、ありがとう」
「……毒が入ってるって思わないの?」
「君なら、そんなことしなくても僕を殺せるだろうなって」
鞘に収めた刀を一瞥してそう言った。確かに、彼を殺すことは容易い。日頃戦っている同族の方がもっと手強く、しぶとい。
「名前を聞いてもいいかい?」
「…柚葉」
「柚葉か。ありがとう柚葉、君は僕の恩人だ」
「……明日、私が生きてたらまたここに来ていい?」
「もちろん!あ、でも…僕がここにいるのは出来れば秘密にしてほしいな…。あんまり混乱させたくないし…」
「いいよ。宇宙船も、葉っぱとかで隠したり土でにおいを隠した方が良いよ。この辺は戦場から遠くないから、見つかったら殺されちゃう」
エン人は基本的に暴力的だ。自分達の知らない力を持った部外者がいると知ればすぐに殺されてしまうだろう。
会ったばかりの彼に対して情が湧いた訳ではない。ただ、誰も殺していない彼の命が簡単に奪われるのは何だか凄く嫌だった。
「ああ、わかった。あ、僕は蜷咲┌縺嶺ココ。それじゃあまた明日、柚葉」
「うん。生きていたら、また明日」
次の日も私は生き残った。その次の日も、そのまた次の日も。
勝って、勝って、勝って、勝った。血を浴び、血に塗れた手と刃を拭いて蜷咲┌縺嶺ココの元へ通い詰めた。
彼は面白い人だった。最初は簡単な自己紹介だったが、段々と仕事の話になり、「初めは慣れなかったけど今は凄くやり甲斐を感じている」と笑っていた。
「じゃあ、銀河通販で一番偉い人は凄い人なんだね」
「ああ。ご子息も将来有望な方らしくて、若旦那って呼ばれているらしいよ」
「ワカダンナ…」
「柚葉、もし良かったらだけど宇宙に出てみない?君はエン星での生活が苦手みたいだし、外に出て見聞を広めればきっと沢山の面白いものが観れるよ」
「……外に、出る…」
魅力的な誘いだった。だから二つ返事で頷いた。
蜷咲┌縺嶺ココはひどく嬉しそうな顔で「やった~!」と手を挙げ、我が事のように喜んでくれた。私も何だか嬉しくなって、ぽりぽりと頬を掻いた。
「明日にはエンジンが治るから、その時に出よう。夜ならきっと見つからない筈だから、陽が落ちたらここに集合するんだよ」
「…わかった。私、明日も頑張って生き残るね」
「うん。柚葉なら、きっと大丈夫」
それが彼の最期だった。
次の日の夜、宇宙船に行く道中で蜷咲┌縺嶺ココは血を流して倒れていた。駆け寄って脈を計る。手遅れだった。心臓をぎゅっと掴まれた気がして、気が付けば彼の死体を抱いて声を上げて泣いていた。死体なんて見慣れている筈なのに、彼の冷たい体に触れているとどうしようもない程悲しみが押し寄せてきた。
中々帰ってこない私を心配した友人や大人達が集まってくる。彼らは彼の殺され方をじっくり観察し、「アイツらに殺られたな」と呟いた。アイツらとは、現在進行形で対立──戦闘を行っている敵対集団のことだ。確かに、傷のつき方や殺され方、死体の扱い方が非常によく似ていた。
蜷咲┌縺嶺ココは耳を千切られていた。嬉しかったり恥ずかしかったりすると愛らしく動くもふもふの耳だった。目には大きな裂傷があり、瞳は開いたままだった。どうやら、目の周りの神経が圧迫されて瞳が押し出されているらしい。ブレキ人の瞳孔は私達よりも細かった。
そっと手で彼の目を閉じてあげた。そして死体を周辺に埋葬した。エン人にとって誰かが死ぬのは日常茶飯事のこと故死体を埋葬することは滅多になかったが、もう誰にも彼の姿を見られたくなかった。
皆が寝静まった頃、刀の収められた鞘を手に取った。音を立てずに移動し、敵陣まで潜り込む。見張りを暗がりに引きずり込み、悲鳴も上げさせずに殺した。復讐は朝まで続き、朝日が昇る頃には全身血塗れになっていた。
「……柚葉」
異変を察知してやって来た友人は何とも言えない表情を浮かべていた。布を差し出し、「血」とだけ言う。ぐしゃぐしゃとそれで血を拭う。傷口に手が当たる痛みなんて気にもならなかった。私より、蜷咲┌縺嶺ココの方が余程怖かった筈だ。
知らない土地で、もうすぐ出発できるという時に殺されたのだ。怖かったに違いない。苦しかったに違いない。耳や目を傷付けられた苦しみを考えると吐き気がした。それでも、込み上げてくる胃液や腹に収めた食料を飲み込んだ。泣いても、怒っても、吐いても、殺しても、死んでも、彼は蘇らない。埋葬された死体は動かない。
宇宙船のことは誰にも言わなかった。今思えば、使い方を聞いていたのはファインプレーだった。そのおかげで地球に来れたのだから。
宇宙船には、私が生活している匂いだけが染みついている。蜷咲┌縺嶺ココの匂いは既に消えた。もう跡形もない。ただ引き出しに入っていた社員証だけが、彼との最後の繋がりだった。
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