ヨシ!【爆上・玄蕃】
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玄蕃と一緒にいた女性の元に行き、「お怪我はありませんか?」と声をかけた。
「は、はい。ありがとうございます…。…良かった、これが無事で…」
「?それは…」
女性は先程百貨店で購入した化粧品が入った紙袋を抱きしめていた。それを見て胸がチクりと痛み、しかしそれを悟られないように平静を装う。
「これ…さっきまで一緒にいた人と選んだんです。プレゼントに、って」
「プレゼント…」
嫌な予感がした。まさか、本当に「彼氏」である玄蕃から「彼女」への贈り物なのではないかと。そうだとしたら。もし、本当に二人が恋人関係なら。
頭に血が上りそうになるのを必死に理性で抑え付けた。感情が暴力に直結するのは種族の特性上仕方ないのだが、それにしたって限度がある。
「あの人、玄蕃さんって言うんです。実はいつもお世話になっている調達屋の人で」
「…はい」
「普段からお世話になっているから何かお礼をしたいと言ったら、一緒にプレゼントを選んでほしいと言われて」
「…はい?」
「柚葉さん、ですよね?アイス屋さんの」
彼女はふふ、と上品に微笑んだ。──どうして、私の名前を?この人は私と初対面の筈…。
「以前写真を見せてもらったんです。さっきも柚葉さんのお顔を確認していました。すみません、私だけ一方的に知っていて」
「えっ…え?」
「普段からオシャレな柚葉さんにプレゼントがしたいって言っていたんです。だから色々見ていて…まあ、こうなっちゃったんですけど」
あはは、と彼女が苦笑すると「そういうコト」と後ろから声がした。ドクン、と高鳴る鼓動を抑えながら恐る恐る振り返ると、笑いを堪えている大也といつも通り飄々とした玄蕃が立っている。
「この前、君を店に置いて行ってしまっただろう?そのお礼さ」
「あ…」
玄蕃は彼女から紙袋を受け取ると、私に差し出した。開けるよう促されたので中身を取り出すと、黒くて小さな細い箱が入っている。手にとって文字を読んでみるが、生憎日本語以外は読めない。私が苦戦していると、クスリと微笑んだ彼女が「リップです。オレンジ色の」とフォローしてくれた。
「お写真を拝見したところ、イエローベースの方だと思ったのでコーラルピンクやベージュなどの暖色系をピックアップしたんです。そしたら、玄蕃さんがオレンジは似合うだろうかって聞いてきて」
「…」
黒い服にオレンジ色のアクセントを加えた服装をしている玄蕃はそっぽを向いている。頬が少し赤いような気が、した。
「ちょっと冒険だったかもしれないですけど…店員さんも、絶対似合うって言ってくれたので購入したんです。気に入っていただけると嬉しいんですけど…」
「…あ、ありがとうございます…。…あの、これってカラー名とかわかりますか?」
「もちろん。これは沢山ある種類の中の一つで、29番…”acceleration”です。意味は”加速”。もっと素敵な自分になるって意味なのかもしれませんね」
箱を手に取って惚けていると、「コホン!」とわざとらしく玄蕃が咳をした。私に向き直った彼の頬はやはり少し火照っている。──ああ、どうして人は…彼は、こんなに可愛いのだろう。
「受け取ってもらえるかい?」
「は、はい!勿論です!ありがとうございます…!」
「また今度、一緒に出掛けようか。その時に是非これをつけてきておくれ」
「わ、わかりました。精一杯オシャレします…!」
小さな箱がまるで宝箱のように見えてくる。眩しくて、あたたかくて、愛おしくて堪らない。使うのが勿体ないくらいだ。
プレゼントを貰った。ただ買っただけではない。沢山悩んで選んでくれたプレゼント。次のお出かけの約束までしてもらえた。こんなに幸せなことがあるだろうか。
私達のやり取りを見ていた彼女は「あのー」とそっと手を挙げた。
「お二人はお付き合いをされているんですか?」
「え」
「だって、口紅を贈るのって”キスがしたい”って意味ですよね?」
「え」
パッと玄蕃の方を振り向く。即座に顔を背けられた。
「……玄蕃さん?」
「い、いや…その…柚葉は普段からオシャレだから、身に着ける物を贈った方が喜ばれるかもしれないと思っただけで、その、深い意味は…」
「…そ、そうですよね。だ、だって私達そんな…お付き合いなんてしてませんし……玄蕃さんが気を使ってくださっただけですよね…」
「あ…いや、その…」
珍しくモジモジする玄蕃。それを見た彼女は「玄蕃さん…なんて情けない…」と呟き、やれやれといった風に肩をすくめた。そしてようやく見守っていた大也が前に出て話に加わってくる。
「まあまあ。プレゼントが成功したならそれでいいじゃないか」
「大也ぁ…」
「はは、今日の玄蕃は珍しく余裕が無いな」
「君まで私をいじめないでくれ…」
「柚葉、彼女を助けてくれただろ?ありがとう、助かったよ」
「あ…」
──「そのまま死ねばいいのに」。
大嫌いな「私」が頭を過った。一瞬でも、そんなことを考えてしまう自分がいた。最低だ。こんなの、ハシリヤン以下だ。損得勘定で命の価値を決めようとしたなんて、自分が合わないと切り捨てたエン人の価値観そのものじゃないか。
大也も、彼女も、玄蕃も、そのことは知らない。私がそんな考えに至ったなんてことは考えもしていないだろう。
「…いえ……体が、動いただけですから…」
「君は強いな。もし縁があったらブンブンジャーになっていたかもしれない逸材だ」
「…私、そんなに良い人じゃありませんから…」
「?」
私は視線を落とし、大也の視線から逃げた。
「よし、苦魔獣も倒したことだし今日はお開きとするか。玄蕃、ガレージに戻るぞ」
「オーライ。君も、選ぶのを手伝ってくれてありがとう」
「いえいえ。これからもよろしくお願いします、調達屋さん」
「こちらこそ、どうぞこれからもご贔屓に」
彼女は優雅に立ち去っていく。長い髪が風に揺れて、夕陽に照らされて輝いていた。
──私、やっぱり最低だ。
拳を握りしめ、爪を手に食い込ませた。最低なことを考えた自分が許せなかった。弱くて脆い人間を、己の感情だけで切り捨てようとした。こんなの、こんなの──
「柚葉」
「…玄蕃さん」
「予定が決まったらまた教えておくれ。…それと、何か悩んでいるようなら遠慮なく相談してほしい」
「……はい。ありがとうございます」
やはりエン人である限り、暴力からは逃げられない。いくら人々を守ることのできる力になるといっても、思考がこれでは意味がない。
玄蕃は手のひらにできた、食い込んだ爪の跡に気付いていた。しかし私は彼に気付かれたことに意識は向かず、ただ己の醜悪さを恥じていた。
「は、はい。ありがとうございます…。…良かった、これが無事で…」
「?それは…」
女性は先程百貨店で購入した化粧品が入った紙袋を抱きしめていた。それを見て胸がチクりと痛み、しかしそれを悟られないように平静を装う。
「これ…さっきまで一緒にいた人と選んだんです。プレゼントに、って」
「プレゼント…」
嫌な予感がした。まさか、本当に「彼氏」である玄蕃から「彼女」への贈り物なのではないかと。そうだとしたら。もし、本当に二人が恋人関係なら。
頭に血が上りそうになるのを必死に理性で抑え付けた。感情が暴力に直結するのは種族の特性上仕方ないのだが、それにしたって限度がある。
「あの人、玄蕃さんって言うんです。実はいつもお世話になっている調達屋の人で」
「…はい」
「普段からお世話になっているから何かお礼をしたいと言ったら、一緒にプレゼントを選んでほしいと言われて」
「…はい?」
「柚葉さん、ですよね?アイス屋さんの」
彼女はふふ、と上品に微笑んだ。──どうして、私の名前を?この人は私と初対面の筈…。
「以前写真を見せてもらったんです。さっきも柚葉さんのお顔を確認していました。すみません、私だけ一方的に知っていて」
「えっ…え?」
「普段からオシャレな柚葉さんにプレゼントがしたいって言っていたんです。だから色々見ていて…まあ、こうなっちゃったんですけど」
あはは、と彼女が苦笑すると「そういうコト」と後ろから声がした。ドクン、と高鳴る鼓動を抑えながら恐る恐る振り返ると、笑いを堪えている大也といつも通り飄々とした玄蕃が立っている。
「この前、君を店に置いて行ってしまっただろう?そのお礼さ」
「あ…」
玄蕃は彼女から紙袋を受け取ると、私に差し出した。開けるよう促されたので中身を取り出すと、黒くて小さな細い箱が入っている。手にとって文字を読んでみるが、生憎日本語以外は読めない。私が苦戦していると、クスリと微笑んだ彼女が「リップです。オレンジ色の」とフォローしてくれた。
「お写真を拝見したところ、イエローベースの方だと思ったのでコーラルピンクやベージュなどの暖色系をピックアップしたんです。そしたら、玄蕃さんがオレンジは似合うだろうかって聞いてきて」
「…」
黒い服にオレンジ色のアクセントを加えた服装をしている玄蕃はそっぽを向いている。頬が少し赤いような気が、した。
「ちょっと冒険だったかもしれないですけど…店員さんも、絶対似合うって言ってくれたので購入したんです。気に入っていただけると嬉しいんですけど…」
「…あ、ありがとうございます…。…あの、これってカラー名とかわかりますか?」
「もちろん。これは沢山ある種類の中の一つで、29番…”acceleration”です。意味は”加速”。もっと素敵な自分になるって意味なのかもしれませんね」
箱を手に取って惚けていると、「コホン!」とわざとらしく玄蕃が咳をした。私に向き直った彼の頬はやはり少し火照っている。──ああ、どうして人は…彼は、こんなに可愛いのだろう。
「受け取ってもらえるかい?」
「は、はい!勿論です!ありがとうございます…!」
「また今度、一緒に出掛けようか。その時に是非これをつけてきておくれ」
「わ、わかりました。精一杯オシャレします…!」
小さな箱がまるで宝箱のように見えてくる。眩しくて、あたたかくて、愛おしくて堪らない。使うのが勿体ないくらいだ。
プレゼントを貰った。ただ買っただけではない。沢山悩んで選んでくれたプレゼント。次のお出かけの約束までしてもらえた。こんなに幸せなことがあるだろうか。
私達のやり取りを見ていた彼女は「あのー」とそっと手を挙げた。
「お二人はお付き合いをされているんですか?」
「え」
「だって、口紅を贈るのって”キスがしたい”って意味ですよね?」
「え」
パッと玄蕃の方を振り向く。即座に顔を背けられた。
「……玄蕃さん?」
「い、いや…その…柚葉は普段からオシャレだから、身に着ける物を贈った方が喜ばれるかもしれないと思っただけで、その、深い意味は…」
「…そ、そうですよね。だ、だって私達そんな…お付き合いなんてしてませんし……玄蕃さんが気を使ってくださっただけですよね…」
「あ…いや、その…」
珍しくモジモジする玄蕃。それを見た彼女は「玄蕃さん…なんて情けない…」と呟き、やれやれといった風に肩をすくめた。そしてようやく見守っていた大也が前に出て話に加わってくる。
「まあまあ。プレゼントが成功したならそれでいいじゃないか」
「大也ぁ…」
「はは、今日の玄蕃は珍しく余裕が無いな」
「君まで私をいじめないでくれ…」
「柚葉、彼女を助けてくれただろ?ありがとう、助かったよ」
「あ…」
──「そのまま死ねばいいのに」。
大嫌いな「私」が頭を過った。一瞬でも、そんなことを考えてしまう自分がいた。最低だ。こんなの、ハシリヤン以下だ。損得勘定で命の価値を決めようとしたなんて、自分が合わないと切り捨てたエン人の価値観そのものじゃないか。
大也も、彼女も、玄蕃も、そのことは知らない。私がそんな考えに至ったなんてことは考えもしていないだろう。
「…いえ……体が、動いただけですから…」
「君は強いな。もし縁があったらブンブンジャーになっていたかもしれない逸材だ」
「…私、そんなに良い人じゃありませんから…」
「?」
私は視線を落とし、大也の視線から逃げた。
「よし、苦魔獣も倒したことだし今日はお開きとするか。玄蕃、ガレージに戻るぞ」
「オーライ。君も、選ぶのを手伝ってくれてありがとう」
「いえいえ。これからもよろしくお願いします、調達屋さん」
「こちらこそ、どうぞこれからもご贔屓に」
彼女は優雅に立ち去っていく。長い髪が風に揺れて、夕陽に照らされて輝いていた。
──私、やっぱり最低だ。
拳を握りしめ、爪を手に食い込ませた。最低なことを考えた自分が許せなかった。弱くて脆い人間を、己の感情だけで切り捨てようとした。こんなの、こんなの──
「柚葉」
「…玄蕃さん」
「予定が決まったらまた教えておくれ。…それと、何か悩んでいるようなら遠慮なく相談してほしい」
「……はい。ありがとうございます」
やはりエン人である限り、暴力からは逃げられない。いくら人々を守ることのできる力になるといっても、思考がこれでは意味がない。
玄蕃は手のひらにできた、食い込んだ爪の跡に気付いていた。しかし私は彼に気付かれたことに意識は向かず、ただ己の醜悪さを恥じていた。