ヨシ!【爆上・玄蕃】
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玄蕃が、綺麗な女性と歩いていた。
フェミニンなワンピースを着こなし、ヒールの低いパンプスを履いている。艶のある髪は今のトレンドを押さえた巻き方をしており、エレガントでありつつも上品だった。──私とは、全く別のタイプだ。しかも、着ようとも思わなかったジャンルの服だった。彼は、ああいう女性が好みなのだろうか。
玄蕃の容姿は整っている。パーマのかかった茶色の髪、綺麗な二重、すっと伸びた鼻筋、セクシーな少し厚い唇。そりゃあ、美人を侍らせていても可笑しくはない。というか、絵面が非常に良い。歩く誰もがチラチラと二人に視線を向けていた。
泣きそうになるのを必死に堪え、「もしかしたら仕事かも」と自分に言い聞かせる。そして足音を消して二人を追いかけ、物陰から観察することにした。
二人が入ったのは百貨店の一階にある化粧品を主に取り扱うブランドだった。様々なコスメを手に取って見つめ、時折店員に話しかけられている。端から見れば、完全に恋人同士だ。真剣なおもむきで話し合い、色味を見ている。「彼女のショッピングに付き合っている彼氏もといバカップル」という表現が嫌というほどしっくりきた。
ぐ、とまた涙が零れそうになり──後ろから近付いてくる足音に気付く。パッと振り返れば、幾つかの紙袋を持った大也が立っていた。
「柚葉?どうしたんだ?」
「あ……大也さん…」
「なんだ、今日は玄蕃は一緒じゃ………ああ…」
大也は二人を見て何かを察した。成る程な、と呟き自己完結する。何という理解の早さだ。頭の回転が早すぎる。
「二人をつけていたのか?」
「……すみません」
「謝ることじゃない。気になって付いていくのは誰だって同じだ」
「……そう、ですかね」
何やら考えているようだったが、二人が別のブランドに移動しようとしているのを見た私が「あ」と呟くと「追いかけるぞ」と私の手をとった。
「えっ!?」
「俺は丁度用事が終わったんだ。俺も気になるから付き合わせてくれ」
「えっ、ええっ!?」
*
百貨店を出た二人は暫く歩いたあと、カフェに入った。テラスでケーキセットを注文している。女性はカフェラテとチーズケーキ、玄蕃は紅茶にショートケーキだった。
私達は向かいのカフェに入って適当に注文し、二人を観察する。射殺さんばかりの目をしていたのか、「顔が怖いぞ」と流石に周囲を気にした大也が釘をさしてきた。
「す、すみません…」
「それにしても、玄蕃がデートか」
「…デート……」
「相手は随分な美人だな」
「で、ですね…。玄蕃さん、モテそうですし…」
「そうか…?アイツは女性に声を掛けられるより職質される方が多いと言っていたぞ」
それはそれでどうなのだろうと思い、彼が職質されている様子を想像して少し吹き出してしまった。眉間にシワを寄せて職質をする錠とのらりくらりとしている玄蕃の様子が目に浮かぶ。
「あ、あの。大也さんはどうして百貨店にいたんですか?」
「ん?ああ、珍しい車が展示されていたから見に来ていたんだ。俺は見るだけのつもりだったんだが、資産家だって知られた瞬間色々押し付けられてな」
苦笑いを浮かべる大也。確かに彼の紙袋はどれも車関連だった。
「成る程。流石はオーナーですね」
「…見ろ、二人が何かしているぞ」
「!」
玄蕃のスマホを覗き込む女性。距離が、近い。鼓動が嫌な意味で速くなる。悲しさと怒りが一気に押し寄せ、爆発しそうだ。自分は玄蕃に対して、明確な感情を抱いている訳ではないのに。そんな思いを抱く権利なんてないのに。
凝視していると、スマホを一瞥し「お手洗いに行ってくる」と言って大也は席を立った。それと同時に玄蕃も立ち上がり、彼だけが店内へと消えていく。どうやらあちらもお手洗いのようだ。
今のうちにと思い、女性を目に焼き付ける。次見かけた時に分かるように、顔の特徴を捉える。黒髪、奥二重、泣きホクロ──
「うわあああああ!!」
店外から悲鳴が聞こえてきた。慌てて店から飛び出すと、苦魔獣が人々を襲っている。
「寄越しな、お前らのギャーソリン!」
苦魔獣はネジレッタ達を指揮して被害を拡大させていった。そして三体のネジレッタが玄蕃と共にいた女性をターゲットにしたのか、じりじりと近寄って行く。
──今なら、助けられる距離だ。ネジレッタくらいなら、人間の姿でもどうにかなるかも。
動き出そうとした足を、誰かが止めた。誰かがいる訳ではなかった。私の中の私が、「見殺しにしようよ」と悪気の無い表情で言っていた。
──「この程度で死ぬなら、どうせ放っておいてもその内死ぬよ。弱い方が悪いんだから、この場で見殺しにした方が都合が良いよね?」
「あ……」
見殺しに、する。彼女が死ねば、玄蕃と彼女の関係に悩まされる必要は無くなる。辛い現実を知らずに済む。上手くいけば、彼女を失った玄蕃の心に付け入ることができる。
彼女はネジレッタに取り囲まれて腰を抜かしていた。右を向いても左を向いてもネジレッタがいる。逃げることはできない。恐怖心から大量のギャーソリンを排出していた。
──そのまま死ねばいいのに。
「できない…ッ!!!」
私の足を止める「私」を振り切り、私は走り出した。
彼女を襲うネジレッタの一体に飛び蹴りを食らわせる。残りの二体には正拳突きと背負い投げをお見舞いし、彼女の手をとった。
「早くあっちへ逃げてください!」
「あ…ありがとうございます!」
彼女が逃げるのを見届けると、丁度店から玄蕃が出て来た。「柚葉!?」と驚きつつ、彼は私の後ろに迫っていたネジレッタを見て私の腕を引っ張る。上手く位置を入れ替えて、正面から蹴りを入れていた。
「どうして…」
「あ……あの、さっきの女の人、安全な方に逃がしましたから!」
それだけ言い、私は逃げるようにその場を離れた。「人間」である筈の巴柚葉が戦闘に積極的なのは可笑しい筈だ。それに、苦魔獣との戦闘に持ち込めば少し戦況が苦しくなる。大也と玄蕃の足を引っ張らないうちに逃げた方が賢明だ。
大也が店から飛び出すのを横目で見ながら、私は逃げていく彼女の跡を追った。
フェミニンなワンピースを着こなし、ヒールの低いパンプスを履いている。艶のある髪は今のトレンドを押さえた巻き方をしており、エレガントでありつつも上品だった。──私とは、全く別のタイプだ。しかも、着ようとも思わなかったジャンルの服だった。彼は、ああいう女性が好みなのだろうか。
玄蕃の容姿は整っている。パーマのかかった茶色の髪、綺麗な二重、すっと伸びた鼻筋、セクシーな少し厚い唇。そりゃあ、美人を侍らせていても可笑しくはない。というか、絵面が非常に良い。歩く誰もがチラチラと二人に視線を向けていた。
泣きそうになるのを必死に堪え、「もしかしたら仕事かも」と自分に言い聞かせる。そして足音を消して二人を追いかけ、物陰から観察することにした。
二人が入ったのは百貨店の一階にある化粧品を主に取り扱うブランドだった。様々なコスメを手に取って見つめ、時折店員に話しかけられている。端から見れば、完全に恋人同士だ。真剣なおもむきで話し合い、色味を見ている。「彼女のショッピングに付き合っている彼氏もといバカップル」という表現が嫌というほどしっくりきた。
ぐ、とまた涙が零れそうになり──後ろから近付いてくる足音に気付く。パッと振り返れば、幾つかの紙袋を持った大也が立っていた。
「柚葉?どうしたんだ?」
「あ……大也さん…」
「なんだ、今日は玄蕃は一緒じゃ………ああ…」
大也は二人を見て何かを察した。成る程な、と呟き自己完結する。何という理解の早さだ。頭の回転が早すぎる。
「二人をつけていたのか?」
「……すみません」
「謝ることじゃない。気になって付いていくのは誰だって同じだ」
「……そう、ですかね」
何やら考えているようだったが、二人が別のブランドに移動しようとしているのを見た私が「あ」と呟くと「追いかけるぞ」と私の手をとった。
「えっ!?」
「俺は丁度用事が終わったんだ。俺も気になるから付き合わせてくれ」
「えっ、ええっ!?」
*
百貨店を出た二人は暫く歩いたあと、カフェに入った。テラスでケーキセットを注文している。女性はカフェラテとチーズケーキ、玄蕃は紅茶にショートケーキだった。
私達は向かいのカフェに入って適当に注文し、二人を観察する。射殺さんばかりの目をしていたのか、「顔が怖いぞ」と流石に周囲を気にした大也が釘をさしてきた。
「す、すみません…」
「それにしても、玄蕃がデートか」
「…デート……」
「相手は随分な美人だな」
「で、ですね…。玄蕃さん、モテそうですし…」
「そうか…?アイツは女性に声を掛けられるより職質される方が多いと言っていたぞ」
それはそれでどうなのだろうと思い、彼が職質されている様子を想像して少し吹き出してしまった。眉間にシワを寄せて職質をする錠とのらりくらりとしている玄蕃の様子が目に浮かぶ。
「あ、あの。大也さんはどうして百貨店にいたんですか?」
「ん?ああ、珍しい車が展示されていたから見に来ていたんだ。俺は見るだけのつもりだったんだが、資産家だって知られた瞬間色々押し付けられてな」
苦笑いを浮かべる大也。確かに彼の紙袋はどれも車関連だった。
「成る程。流石はオーナーですね」
「…見ろ、二人が何かしているぞ」
「!」
玄蕃のスマホを覗き込む女性。距離が、近い。鼓動が嫌な意味で速くなる。悲しさと怒りが一気に押し寄せ、爆発しそうだ。自分は玄蕃に対して、明確な感情を抱いている訳ではないのに。そんな思いを抱く権利なんてないのに。
凝視していると、スマホを一瞥し「お手洗いに行ってくる」と言って大也は席を立った。それと同時に玄蕃も立ち上がり、彼だけが店内へと消えていく。どうやらあちらもお手洗いのようだ。
今のうちにと思い、女性を目に焼き付ける。次見かけた時に分かるように、顔の特徴を捉える。黒髪、奥二重、泣きホクロ──
「うわあああああ!!」
店外から悲鳴が聞こえてきた。慌てて店から飛び出すと、苦魔獣が人々を襲っている。
「寄越しな、お前らのギャーソリン!」
苦魔獣はネジレッタ達を指揮して被害を拡大させていった。そして三体のネジレッタが玄蕃と共にいた女性をターゲットにしたのか、じりじりと近寄って行く。
──今なら、助けられる距離だ。ネジレッタくらいなら、人間の姿でもどうにかなるかも。
動き出そうとした足を、誰かが止めた。誰かがいる訳ではなかった。私の中の私が、「見殺しにしようよ」と悪気の無い表情で言っていた。
──「この程度で死ぬなら、どうせ放っておいてもその内死ぬよ。弱い方が悪いんだから、この場で見殺しにした方が都合が良いよね?」
「あ……」
見殺しに、する。彼女が死ねば、玄蕃と彼女の関係に悩まされる必要は無くなる。辛い現実を知らずに済む。上手くいけば、彼女を失った玄蕃の心に付け入ることができる。
彼女はネジレッタに取り囲まれて腰を抜かしていた。右を向いても左を向いてもネジレッタがいる。逃げることはできない。恐怖心から大量のギャーソリンを排出していた。
──そのまま死ねばいいのに。
「できない…ッ!!!」
私の足を止める「私」を振り切り、私は走り出した。
彼女を襲うネジレッタの一体に飛び蹴りを食らわせる。残りの二体には正拳突きと背負い投げをお見舞いし、彼女の手をとった。
「早くあっちへ逃げてください!」
「あ…ありがとうございます!」
彼女が逃げるのを見届けると、丁度店から玄蕃が出て来た。「柚葉!?」と驚きつつ、彼は私の後ろに迫っていたネジレッタを見て私の腕を引っ張る。上手く位置を入れ替えて、正面から蹴りを入れていた。
「どうして…」
「あ……あの、さっきの女の人、安全な方に逃がしましたから!」
それだけ言い、私は逃げるようにその場を離れた。「人間」である筈の巴柚葉が戦闘に積極的なのは可笑しい筈だ。それに、苦魔獣との戦闘に持ち込めば少し戦況が苦しくなる。大也と玄蕃の足を引っ張らないうちに逃げた方が賢明だ。
大也が店から飛び出すのを横目で見ながら、私は逃げていく彼女の跡を追った。