ヨシ!【爆上・玄蕃】
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あの後苦魔獣が出た為一階はもぬけの殻となり、柚葉だけが取り残された。勿論それを知らない彼女はまだかな、と思いながら二階で空になったドリンクを傾けている。
彼女のスマホに連絡が入った。「放置してしまってすまない。苦魔獣を倒したあと、そのまま大也の家に向かうことになったから今日は会えそうにない」。
「え、ええ~…!?私、頑張ってオシャレしたのに…」
再び額をテーブルにくっ付ける柚葉。しかし仕事ならば仕方ないと自分に言い聞かせ、「わかりました。ご無事でよかったです」とだけ返信する。
そしてようやく、「オシャレした自分ともっと喋ってほしかった」という気持ちを自覚した。なんて我儘なんだと自己嫌悪しつつも、脳裏にバーテンダー姿の玄蕃が蘇る。もっと話したかったのは勿論だが、あの姿をもう少しだけ見ていたかった気持ちもあった。
──ダメだなあ、私。地球に来てから、随分我儘になっちゃった。
スマホの画面を暗くし、立ち上がる。グラスを持って二階へ降り、他のメンバーが残していったグラスをカウンターでさっと洗っておいた。戻す場所はわからないのでキッチンペーパーの上で坂さまにしておく。
「……私、思っているより玄蕃さんのこと……」
好きなのかも、と呟きそうになった言葉を飲み込む。認めては、戻れないような気がした。
*
未来と錠が帰り、玄蕃も「そろそろお暇しようかな」と帰る素振りを見せた。しかしそれを「待て」と射士郎が遮り、大也へと目配せする。ただならぬ気配を感じた玄蕃は足を止め、再びソファに腰を下ろした。
「巴柚葉のことで話がある」
「…柚葉のことで?」
「ああ。単刀直入に言うが、地球に巴柚葉という人間は存在しない」
「………は?」
思わず玄蕃も素っ頓狂な声を出してしまった。ついさっきまで話していた柚葉という人間は、地球に存在しない。
取り乱したものの、彼の頭はすぐにこのことを理解した。情報屋をしている射士郎や地球を捨てた先斗、そして故郷を離れた自分のような例もある為、彼女が何かしらの理由持ちであることを察したのである。
「…詳しく聞いても?」
「これは俺独自の情報だ。I.S.Aとの連携はもう少ししてから行うが、俺が調べた限り地球上に彼女の名前をした人間はいなかった。…少なくともこれだけは言える。柚葉は普通の人間ではない」
「…へえ」
「なんだ、意外と驚かないんだな」
「…まあ、さっき話していた始末屋のような例もあるからね。彼女に何か理由があるのも有り得ない話ではない」
飴を舐める手が少しだけ震えた。
「俺からすればお前も彼女同様に胡散臭い男ではあるからな」
「おや、悲しいねえ」
「お前の情報も不明だ。一体どこから来たんだ?」
「企業秘密だ」
ニコニコと笑い、探りを入れてくる射士郎を穏やかに牽制する。自分がブレキ人だということを知られてはいけない。自分の生い立ちやここまでの背景を知られれば、もうブンブンジャーにはいられなくなる。今そうなってしまうのだけは絶対に避けたかった。
「…大也、もし彼女が……ハシリヤンだったらどうする」
「……場合による」
「…調達屋は?」
「……私達や地球に危害を加える存在なら、倒すさ」
「…できるのか、お前に」
「…できるとも」
故郷を奪われた記憶が一瞬だけ蘇った。それまで歩んできた人生の中で最も惨めで、苦しく、怒りを感じた瞬間である。全てを失った。全てをハシリヤンに奪われた。家族も、故郷も、居場所さえも。
もし、柚葉が害をなす存在なら。どれだけあどけない表情で笑っていた可愛らしい彼女でも、玄蕃にとって許すことはできない。その瞬間、彼女は行きつけの店にいる女の子からただの敵になるのだ。
「……大也は、分かっていたんじゃないのか。巴柚葉が普通じゃないことを」
「……何となく、な。でも、事情は人それぞれだ。俺が彼女のハンドルを握る権利はない」
実際、彼は宇宙からやって来たブンドリオを拾っている。流石の器の大きさに玄蕃は驚きを通り越して呆れ、困ったように笑った。射士郎は「そういうと思った」とでも言いたげな顔をしている。
「未来と錠には黙っておこう。あの二人は隠し事が出来ないだろうからな」
「ああ。それに、二人を暗に不安にはさせたくないからね」
「分かりやすく警戒している態度をとるのも駄目だ。彼女がハシリヤンだとは確定してないんだからな」
「……そうだな。まだ泳がせていた方がいい」
*
「くしゅんっ」
船内で大きなくしゃみをした柚葉はティッシュケースを手繰り寄せ、引き出したティッシュで鼻をかんだ。風邪かなあ、とぼやきながらゴミ箱に丸めたティッシュを放り投げる。無造作に放られたティッシュはゴミ箱に吸い込まれて行った。
彼女のスマホに連絡が入った。「放置してしまってすまない。苦魔獣を倒したあと、そのまま大也の家に向かうことになったから今日は会えそうにない」。
「え、ええ~…!?私、頑張ってオシャレしたのに…」
再び額をテーブルにくっ付ける柚葉。しかし仕事ならば仕方ないと自分に言い聞かせ、「わかりました。ご無事でよかったです」とだけ返信する。
そしてようやく、「オシャレした自分ともっと喋ってほしかった」という気持ちを自覚した。なんて我儘なんだと自己嫌悪しつつも、脳裏にバーテンダー姿の玄蕃が蘇る。もっと話したかったのは勿論だが、あの姿をもう少しだけ見ていたかった気持ちもあった。
──ダメだなあ、私。地球に来てから、随分我儘になっちゃった。
スマホの画面を暗くし、立ち上がる。グラスを持って二階へ降り、他のメンバーが残していったグラスをカウンターでさっと洗っておいた。戻す場所はわからないのでキッチンペーパーの上で坂さまにしておく。
「……私、思っているより玄蕃さんのこと……」
好きなのかも、と呟きそうになった言葉を飲み込む。認めては、戻れないような気がした。
*
未来と錠が帰り、玄蕃も「そろそろお暇しようかな」と帰る素振りを見せた。しかしそれを「待て」と射士郎が遮り、大也へと目配せする。ただならぬ気配を感じた玄蕃は足を止め、再びソファに腰を下ろした。
「巴柚葉のことで話がある」
「…柚葉のことで?」
「ああ。単刀直入に言うが、地球に巴柚葉という人間は存在しない」
「………は?」
思わず玄蕃も素っ頓狂な声を出してしまった。ついさっきまで話していた柚葉という人間は、地球に存在しない。
取り乱したものの、彼の頭はすぐにこのことを理解した。情報屋をしている射士郎や地球を捨てた先斗、そして故郷を離れた自分のような例もある為、彼女が何かしらの理由持ちであることを察したのである。
「…詳しく聞いても?」
「これは俺独自の情報だ。I.S.Aとの連携はもう少ししてから行うが、俺が調べた限り地球上に彼女の名前をした人間はいなかった。…少なくともこれだけは言える。柚葉は普通の人間ではない」
「…へえ」
「なんだ、意外と驚かないんだな」
「…まあ、さっき話していた始末屋のような例もあるからね。彼女に何か理由があるのも有り得ない話ではない」
飴を舐める手が少しだけ震えた。
「俺からすればお前も彼女同様に胡散臭い男ではあるからな」
「おや、悲しいねえ」
「お前の情報も不明だ。一体どこから来たんだ?」
「企業秘密だ」
ニコニコと笑い、探りを入れてくる射士郎を穏やかに牽制する。自分がブレキ人だということを知られてはいけない。自分の生い立ちやここまでの背景を知られれば、もうブンブンジャーにはいられなくなる。今そうなってしまうのだけは絶対に避けたかった。
「…大也、もし彼女が……ハシリヤンだったらどうする」
「……場合による」
「…調達屋は?」
「……私達や地球に危害を加える存在なら、倒すさ」
「…できるのか、お前に」
「…できるとも」
故郷を奪われた記憶が一瞬だけ蘇った。それまで歩んできた人生の中で最も惨めで、苦しく、怒りを感じた瞬間である。全てを失った。全てをハシリヤンに奪われた。家族も、故郷も、居場所さえも。
もし、柚葉が害をなす存在なら。どれだけあどけない表情で笑っていた可愛らしい彼女でも、玄蕃にとって許すことはできない。その瞬間、彼女は行きつけの店にいる女の子からただの敵になるのだ。
「……大也は、分かっていたんじゃないのか。巴柚葉が普通じゃないことを」
「……何となく、な。でも、事情は人それぞれだ。俺が彼女のハンドルを握る権利はない」
実際、彼は宇宙からやって来たブンドリオを拾っている。流石の器の大きさに玄蕃は驚きを通り越して呆れ、困ったように笑った。射士郎は「そういうと思った」とでも言いたげな顔をしている。
「未来と錠には黙っておこう。あの二人は隠し事が出来ないだろうからな」
「ああ。それに、二人を暗に不安にはさせたくないからね」
「分かりやすく警戒している態度をとるのも駄目だ。彼女がハシリヤンだとは確定してないんだからな」
「……そうだな。まだ泳がせていた方がいい」
*
「くしゅんっ」
船内で大きなくしゃみをした柚葉はティッシュケースを手繰り寄せ、引き出したティッシュで鼻をかんだ。風邪かなあ、とぼやきながらゴミ箱に丸めたティッシュを放り投げる。無造作に放られたティッシュはゴミ箱に吸い込まれて行った。