藪の蛇は突くなかれ
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「そんなことより澪、暇ならオレと公園デートするか!」
「そんなことよりって…、先輩!」
「何ならさっきあいつらに言った“オレの女”っての本当にしてやってもいいぞ?ははっ」
1歳上の先輩は、中等部の頃から剣道部の練習試合などで
澪が顔を出すたびに『煉獄止めてオレの彼女になるか?澪』だとか
『よぉ、澪。今度オレとデートしようぜ!』とか
カラカラと楽しそうに笑いながら挨拶のように揶揄ってくるのが常だった。
その時も、今も、そんなことを言いながら笑う姿は年上に思えないくらい子どものように無邪気で、
「またそんなこと言って…冗談ばっかり…」
「…冗談じゃないって言ったら?」
「…っ、!?」
かと思えば、こんな風に時折スッと真顔を見せると
年齢以上にとても落ち着いて大人びていて、
どこか達観したように見える不思議な人だ。
「なぁ、澪。冗談じゃない、って言ったらお前…オレの女になるか?」
「な、何を言って…」
いつの間にか腕を捕えられ、グッと引き寄せられながら
間近に先輩の静かな目が迫る。
「せ、先輩、…ちょ、はなして」
ぐいっ
「いててててて!ちょ、ちょっと待て!落ち着け煉獄!!」
「っ杏寿郎くん、」
澪の後ろから伸びてきた腕が、
澪の腕を掴んでいた先輩の腕を捻り上げ
先輩が悲鳴をあげると同時に澪が振り返ると
そこには先ほどまでの先輩の目と同じくらい静かな顔をした杏寿郎がいた。
「ぉい!冗談だろ!煉獄が近付いて来てんの見えてたから、いつもみたいに揶揄っただけだろうが!放せって!」
確かに先輩の位置からなら、
自分の背後から近づいて来る杏寿郎がかなり早くから見えていただろう。
それを分かっていてあのようなことをするなんて、質が悪い。
そう思って、澪がため息を吐くと同時に、
澪の隣で杏寿郎もため息を吐きながら先輩の腕を解放する。
「冗談だと分かってはいるが…それでもダメです!」
「イチチ…、悪かったって!お触り厳禁だもんな。それ破ったオレが悪かったよ!」
「俺ではなく澪に謝って下さい!」
「あーハイハイ。」
「先輩!」
「分かった!悪かった、澪、悪ふざけが過ぎた!もうしない!」
“お触り厳禁”とは一体…?
先輩の口から出た、どこぞのキャバクラのルールのようなワードを疑問に思いながら見守っていると
謝罪を叫ぶ先輩と杏寿郎の目が自分に向いた。
「あっ、えっと…はい。大丈夫です。冗談だって分かってましたし…」
そう、確かに先輩の真顔と急に掴まれた腕に
少し心臓がバクバクしたのは事実だが
杏寿郎も言っていたように先輩の台詞は冗談だと分かっていた。
碓井先輩は、軽薄そうにチャラチャラして見えるが
その実とても後輩想いで面倒見がいいことを剣道部の面々はよく知っている。
(本人は眉を顰めそうな評だが)
だからこそ、本人以外の満場一致の推薦で副部長になっているし
そんな彼だからこそ後輩の恋人である澪とどうこうなろうという思いなど
持っていないということを澪も杏寿郎もよく理解していた。
「ホラ澪もこう言ってるんだから、もーいいだろっ」
「…今日は先輩、全試合で先鋒ですから!」
「…は!?ちょっと待て!ぉい!!冗談じゃねーぞ!そもそもオレは澪が絡まれてたところ助けてやったんだからな!?」
「澪のことは関係なく、ウォーミングアップをサボった罰だと先生が!…しかし、絡まれていた…とは?」
「!!あ、あのっもう試合始まる時間なんじゃないかな!?杏寿郎くん!だから先輩呼びに来たんでしょう?ねっ?」
結果的に何もなかったのに、ナンパ?されかけていた話を暴露されてしまったら
もう練習試合会場などで自由に行動出来なくなってしまうかもしれないと思い
澪は慌てて2人を試合会場へと促す。
それでも話の詳細を聞こうとする杏寿郎だったが
とても良いタイミングで応援のためやって来た千寿郎に声を掛けられ
その話を有耶無耶に出来たことに澪はホッと息をつく。
“お触り厳禁”とは何のことだと聞きたい気持ちは山々だが
その話を出すと藪蛇となることは確実なので
これは絶対に杏寿郎には聞かないでおこうと澪は決意した。