欲しかったのは君の言葉
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約束の恋人_欲しかったのは君の言葉
個人戦、杏寿郎は順調に勝ち上がり、準決勝も無事に一本を取ることが出来た。
「…ふぅ。」
面を外して、汗を拭っていると1学年上の先輩に声を掛けられる。
「よ!煉獄、調子良いみたいだな!1年なのにやっぱお前すげぇよ。このまま優勝いけるんじゃないか?」
「ありがとうございます。次も全力を尽くします!」
「おぉ頑張れよ!…あ、そういえばお前気付いてたか?今日、澪ちゃん応援に来てるぞ!ホラ、あの応援席の端っこ。」
そう促されて見上げた先に、1人ちょこんと腰掛けている澪の姿が見える。
休日なのに制服姿なところが澪らしくて、…ふっと杏寿郎は笑みをこぼした。
「…!」
(…え、今こっち見た、よね?決勝戦前のこのタイミングで気付かれた…?)
久しぶりの試合を見て、ふわふわと高揚感の中にいた澪が
突然の出来事にドギマギしているうちに、
あっという間に個人戦の決勝戦が始まった。
相手は去年の優勝者でもある3年生で、
体格は杏寿郎の1.5倍くらいに見えるのに、
足さばきの巧みさと技のスピードが武器の選手だ。
杏寿郎もスピードには優れているが、
技そのものはどちらかというとスピードよりも一撃必殺のパワーが武器だ。
2人が共に中学生だった3年前に対戦した時は、
さすがにパワー及ばず杏寿郎が敗戦していたことを澪は覚えていた。
3年前と比べ、下半身も強化され益々パワーに磨きがかかった杏寿郎と
どちらが勝つのか予測がつかず、ドキドキしながら見守る。
何度か打ち合いもあったものの、今は剣先が触れ合う距離を維持したまま、
足を前後左右にすべらせながらお互いに間合いとタイミングをはかっている。
と、相手の剣先がほんのわずか沈んだ瞬間。
杏寿郎が気勢を吐きながら、
相手の右小手を打ち据えてから面を取りに行った。
「!!」
相手はその面をスルッと右に交わすと同時に、大きく踏み込んで胴を打ちに来た。
バッ
「…っ一本!」
審判が相手方の旗を上げると共に、主審が一本を叫んだ。
…っふう、と知らず知らずのうちに詰めていた息を澪は吐き出す。
相手方の選手たちが盛り上がり、
キメツ学園の部員たちは少し残念そうにしながらも拍手で健闘を讃える。
会場中に拍手が広がる中、杏寿郎と相手が静かに礼をして離れるのを眺め、
澪も静かに拍手を送った。
「煉獄くん!…その、…残念だったね!あと1つで優勝出来たのに…」
「あぁ、いや!力が及ばなかったな、これから益々精進せねば!」
表彰式までの間、身なりを整えながら部員たちと話していると
今日差し入れを持って来てくれたクラスメイトでもある友人の女生徒が少し気まずそうに声を掛けてきたが、杏寿郎はカラリとした笑顔でそれに応じた。
部員たちをはじめ、決勝戦以降、本日、もう何度も行ったやり取りだった。
杏寿郎が笑顔で応じると、相手は少し安心したように
「次も頑張ってね。」と声を掛けて去って行く。
その先に、出口に向かう澪の姿が見えた。
「っ先輩、すぐに戻ります!」
「あ!?おい、煉獄!」
道場から走り出て、辺りを見渡すと校門方面に向かう人の流れとは違う
校舎方面へ向かう方向に澪の華奢な背中が見えた。
「…澪っ!」
「!?れ、煉獄くん…」
「もう帰るのか?」
「えっと…、図書館に借りてた本を返却に行こうと思って、」
なるほど、だから人気のないこちらを歩いていたのかと合点がいく。
「あの…。煉獄くん、おめでとう!」
「…!」
「最後の試合、すごかったね。…前に言ってた右小手から面取りの時の踏み込み、ちゃんと深くいってたもんね。こんな短期間で克服しちゃうなんて…さすが煉獄くんだね。」
そう言って、少し頬を上気させながら
満面の笑みをこちらに向けてくれる澪を見て
一拍反応が遅れる。
「っ、ありがとう!彼には通用しなかったようだが、実戦であれほど上手くいったのは初めてだったので俺も満足しているんだ。」
「まさかあれを避けられちゃうなんて思わないよねぇ…。」
そう言って、クスクスと楽しそうに澪は笑った。
「そうだな!あの足さばきには目を見張った。彼とはまた戦ってみたいものだ!」
「うん、私もまた見たいな。あの人と煉獄くんの試合。これからもきっと機会はあるよ。…楽しみだね。」
そう…、そうだな。
彼は3年で高校の部活としてはもう引退だろうが、
互いに剣道を辞めなければきっとこれからも戦うことはできるだろう。
今日も負けは負けで悔しさがないとは言わないが、
それよりも自分の課題を克服できた実感とその満足感の方が強かったし、
強者と全力で戦い切った清々しさを感じていた。
だが、会う人会う人に敗戦の慰めの言葉をもらい、
自分でも気付かぬうちに
自分の心の中に少しずつ灰が溜まっていくような心地がした。
その灰を、
第一声で「おめでとう」という言葉をかけてくれた澪が、
目の前の澪の笑顔が、
スッと払ってくれたように感じた。
決勝戦での敗戦、準優勝という表面の出来事ではなく、
試合内容や自分の感情といった内面を見てくれた、
ということが澪のくれた言葉で分かったから。
「…あぁ、ありがとう。」
今日初めての、心からの笑顔で、杏寿郎はそう答えた。
個人戦、杏寿郎は順調に勝ち上がり、準決勝も無事に一本を取ることが出来た。
「…ふぅ。」
面を外して、汗を拭っていると1学年上の先輩に声を掛けられる。
「よ!煉獄、調子良いみたいだな!1年なのにやっぱお前すげぇよ。このまま優勝いけるんじゃないか?」
「ありがとうございます。次も全力を尽くします!」
「おぉ頑張れよ!…あ、そういえばお前気付いてたか?今日、澪ちゃん応援に来てるぞ!ホラ、あの応援席の端っこ。」
そう促されて見上げた先に、1人ちょこんと腰掛けている澪の姿が見える。
休日なのに制服姿なところが澪らしくて、…ふっと杏寿郎は笑みをこぼした。
「…!」
(…え、今こっち見た、よね?決勝戦前のこのタイミングで気付かれた…?)
久しぶりの試合を見て、ふわふわと高揚感の中にいた澪が
突然の出来事にドギマギしているうちに、
あっという間に個人戦の決勝戦が始まった。
相手は去年の優勝者でもある3年生で、
体格は杏寿郎の1.5倍くらいに見えるのに、
足さばきの巧みさと技のスピードが武器の選手だ。
杏寿郎もスピードには優れているが、
技そのものはどちらかというとスピードよりも一撃必殺のパワーが武器だ。
2人が共に中学生だった3年前に対戦した時は、
さすがにパワー及ばず杏寿郎が敗戦していたことを澪は覚えていた。
3年前と比べ、下半身も強化され益々パワーに磨きがかかった杏寿郎と
どちらが勝つのか予測がつかず、ドキドキしながら見守る。
何度か打ち合いもあったものの、今は剣先が触れ合う距離を維持したまま、
足を前後左右にすべらせながらお互いに間合いとタイミングをはかっている。
と、相手の剣先がほんのわずか沈んだ瞬間。
杏寿郎が気勢を吐きながら、
相手の右小手を打ち据えてから面を取りに行った。
「!!」
相手はその面をスルッと右に交わすと同時に、大きく踏み込んで胴を打ちに来た。
バッ
「…っ一本!」
審判が相手方の旗を上げると共に、主審が一本を叫んだ。
…っふう、と知らず知らずのうちに詰めていた息を澪は吐き出す。
相手方の選手たちが盛り上がり、
キメツ学園の部員たちは少し残念そうにしながらも拍手で健闘を讃える。
会場中に拍手が広がる中、杏寿郎と相手が静かに礼をして離れるのを眺め、
澪も静かに拍手を送った。
「煉獄くん!…その、…残念だったね!あと1つで優勝出来たのに…」
「あぁ、いや!力が及ばなかったな、これから益々精進せねば!」
表彰式までの間、身なりを整えながら部員たちと話していると
今日差し入れを持って来てくれたクラスメイトでもある友人の女生徒が少し気まずそうに声を掛けてきたが、杏寿郎はカラリとした笑顔でそれに応じた。
部員たちをはじめ、決勝戦以降、本日、もう何度も行ったやり取りだった。
杏寿郎が笑顔で応じると、相手は少し安心したように
「次も頑張ってね。」と声を掛けて去って行く。
その先に、出口に向かう澪の姿が見えた。
「っ先輩、すぐに戻ります!」
「あ!?おい、煉獄!」
道場から走り出て、辺りを見渡すと校門方面に向かう人の流れとは違う
校舎方面へ向かう方向に澪の華奢な背中が見えた。
「…澪っ!」
「!?れ、煉獄くん…」
「もう帰るのか?」
「えっと…、図書館に借りてた本を返却に行こうと思って、」
なるほど、だから人気のないこちらを歩いていたのかと合点がいく。
「あの…。煉獄くん、おめでとう!」
「…!」
「最後の試合、すごかったね。…前に言ってた右小手から面取りの時の踏み込み、ちゃんと深くいってたもんね。こんな短期間で克服しちゃうなんて…さすが煉獄くんだね。」
そう言って、少し頬を上気させながら
満面の笑みをこちらに向けてくれる澪を見て
一拍反応が遅れる。
「っ、ありがとう!彼には通用しなかったようだが、実戦であれほど上手くいったのは初めてだったので俺も満足しているんだ。」
「まさかあれを避けられちゃうなんて思わないよねぇ…。」
そう言って、クスクスと楽しそうに澪は笑った。
「そうだな!あの足さばきには目を見張った。彼とはまた戦ってみたいものだ!」
「うん、私もまた見たいな。あの人と煉獄くんの試合。これからもきっと機会はあるよ。…楽しみだね。」
そう…、そうだな。
彼は3年で高校の部活としてはもう引退だろうが、
互いに剣道を辞めなければきっとこれからも戦うことはできるだろう。
今日も負けは負けで悔しさがないとは言わないが、
それよりも自分の課題を克服できた実感とその満足感の方が強かったし、
強者と全力で戦い切った清々しさを感じていた。
だが、会う人会う人に敗戦の慰めの言葉をもらい、
自分でも気付かぬうちに
自分の心の中に少しずつ灰が溜まっていくような心地がした。
その灰を、
第一声で「おめでとう」という言葉をかけてくれた澪が、
目の前の澪の笑顔が、
スッと払ってくれたように感じた。
決勝戦での敗戦、準優勝という表面の出来事ではなく、
試合内容や自分の感情といった内面を見てくれた、
ということが澪のくれた言葉で分かったから。
「…あぁ、ありがとう。」
今日初めての、心からの笑顔で、杏寿郎はそう答えた。