希望融け滲む夏の夕暮れ
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「去年練習していた新しい技が出来るようになったので、ぜひ澪さんにも見てもらいたいんです!」
「え、ほんとっ?わぁすごいね、千寿郎くん!あ、じゃあ…学年も上がったしそろそろ昇級試験なのかな?」
「はい!次の試験を受けられるように、練習しています!」
「そっか、そっか~上手くいくといいね。頑張ってね。」
純粋な笑顔が眩しい…。
これまで、杏寿郎が澪のことを家族に何と言って紹介していたのかは分からないが、
少なくともまだ幼い千寿郎には単なる友人だと言っていただろうことは想像がつく。
その千寿郎に対して、急に来なくなった澪の説明も何と言うべきか、
きっと杏寿郎は苦慮したのだろうな…と、
杏寿郎にも、そして千寿郎にも申し訳なく思った。
「ありがとうございます!澪さんも、勉強頑張ってください!…と言っても、今学期澪さん学年5位だったんですよね。すごいです!おめでとうございます!!」
「!…よく知ってるね、千寿郎くん…。ありがとう。」
キメツ学園はテストごとではなく、
学期ごとに学年上位30位までのみを成績優良者として
掲示板に名前を貼り出して発表している。
文武両道を謳っているため、
部活動等で活躍した生徒の貼り出しを行って称えるのと同様、
勉学に励んでいる生徒もその成果を称えようという方針だからだ。
澪は、中等部時代からずっと成績優良者であった。
調子が悪かった時でも17位に入っていたが、
今回の5位は今までの最高順位だった。
とは言え、澪は毎日活動があるわけではない園芸部の所属で、
勉強する時間は取れる状態なので
自分ではそれほど大した話ではないと思っている。
澪より、朝夕の部活動に加え、
道場での鍛錬にも励んでいるはずの杏寿郎が(澪より順位は低いながらも)
同じく必ず成績優良者に入っていることの方が余程すごいと本気で思っていた。
今回も杏寿郎の名前は、
春の新人戦優勝と成績優良者の19位で同じ掲示板に貼り出されていた。
ちなみに。
いろんな意味で入学後すぐに、
学年中に認知されることになったかの山田太郎氏が
何と学年3位の成績をおさめていたことに、
またしても学年中が驚かされたのは余談である。
キメツ学園の編入試験はレベルが高いという話なので何も不思議はないのだが、
彼の言動やキャラクターがそれを感じさせないものであったため
皆失念していたのだった。
「おーい!煉獄~!!帰ろうぜ~!」
「!!あ、行かなくちゃ。それじゃあ澪さん、僕はこれで失礼します!今度お時間があるときにまた道場いらして下さいね!」
「あ、えと…うん。気を付けて帰るんだよ?またね。」
「はい!」
パタパタと元気よく走って友人たちの元へ戻っていく千寿郎の背中を見送りながら、
澪はつい同じ色合いを持つ杏寿郎の姿を思い浮かべた。
(煉獄くん、私の名前、見てくれたんだ…)
千寿郎が澪の順位を知っていたということは、
そういうことだろう。
キメツ学園の成績優良者発表のことは煉獄の家族も皆知っているから、
家庭の中でその話が話題になるのは自然なことだ。
そこでどういう話の流れがあって澪の名前が出たのかは分からないが…
順位まで千寿郎が承知していたということは、
掲示板で貼り出された際に杏寿郎がそのリストから澪の名前見つけ、
それを記憶していて、
それを家族にも話した、ということだ。
杏寿郎は澪のことを友人だと思っているのだから、
友人の順位を見ているのは当たり前のことかもしれないが…
そんなことを言ったら杏寿郎は成績優良者リストのうち
山田以外のほぼ全員の順位を記憶しなくてはいけなくなってしまうだろう。
それほど杏寿郎の“友人”は多いのだから。
だが、さすがの杏寿郎も30人分の名前と順位を記憶していることはないだろう。
「…勘違い、しちゃいそうになるよ…。」
澪が漏らした小さな独り言が、
夏の夕暮れにポツンと浮かび
誰に聞かれることも無いまま融けて消えていった。