色褪せた華
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約束の恋人_色褪せた華
「…さん、瀬尾さんっ?どうしたの、大丈夫っ?」
無意識のまま、視線を巡らせて
その人物を探してしまっていたことに気付く。
来てるかどうかも分からないし、
誰かと来ているのであれば正直その姿は見たくないなと思っていたのに。
「っ!あ、ごめんね山田くん。大丈夫だよ。」
「そう…?で、どうする?」
「え、何が?」
「えっとだから…、一緒に見る?って…、そ、その!もし良かったら、だけど!////」
「あ…えっと…。」
正直、1人で花火を見るのも、
せっかく来たのに見れずにこのまま帰るのも切ないので
誘ってくれたのは嬉しい。
けれど、目の前で顔を赤くしている彼を見てしまうと
そんな理由で安易に彼と一緒に見ることを選択してはいけないのでは…?
という気がして、答えに詰まる。
「…澪、みつけっ!」
「!!」
どうしようか…と悩んでいたら、すぐ近くから友人の声が聞こえた。
「もう~~~っ急にいなくなるからびっくりしたよ~!」
「みんな!」
「良かった、見つかってぇ~こんな美人、1人でいたら絶対ナンパされちゃうし、それが危ないやつだったらどうしようかと思ってめっちゃ焦ったよ、澪~!」
「…わ!ごめん、心配してくれて探してくれてありがとね。」
「…今、絶賛ナンパされてるように見えるけどね?」
「まぁ一応危ないやつではないからセーフじゃない?」
「う~ん…ある意味では危険な男なんだけどなぁ…。」
友人のひとりに抱きつかれ、
澪がそれを受け止めながら他の子たちを見ると
友人たちは澪や山田たちの方と、
少し斜め奥の方とを見比べて何やらボソボソと話をしていた。
「…さっき。…絶対居たよね?絶対見てたよね…?」
「いや、重要なのは私たちが来たところまでちゃんと見てるかじゃない…?」
「…ひ!そこまで見てなかったとしたら…」
「「…、…こわっ!」」
「山田の変、夏の陣…。」
「やめて!」
「みんな、どうしたの…?」
「っううん、何でもない!何でもない!!何でもなくあってほしい!!本当!」
友人たちの様子を不思議に思った澪も、
友人たちが見ていた方と友人たちを交互に見遣るが、
「お友達見つかって良かったね、瀬尾さん!」
「…あ、うん!声かけてくれてありがとう、山田くん。」
「いやいや、キレイな浴衣姿の瀬尾さんに会えて嬉しかったよ!それじゃあ、オレ行くね!」
やっと赤面が落ち着いたらしい山田太郎がそう声を掛け、
爽やかな笑顔で去っていく。
「…いいやつではあるんだよね、山田太郎。」
「そうね。ある意味において、だけ、危険な男なんだけど。」
「キレイだとか会えて嬉しかったとかいう台詞は素で言えちゃうところもなかなか危険だとは思うけどね私は…。」
「もしさっきの山田の変、夏の陣が開戦してたとしたらきっと瞬殺だろうから骨は拾ってあげようね。」
「もう名前も完全モブの名前だもん、瞬殺だよね。」
「ちょっと待って!私はまだ、私たちの合流まで見届けていたという一縷の望みを捨ててないんだけど!」
「ねぇちょっと皆、早く花火見やすい場所まで移動しようよ~!澪、澪はいつもどの辺りで見てる?やっぱ川向うまで行った方が良いかな??」
「えーと、特にいつも場所は決まってないけど…とりあえずあの橋を超えないと下の方の花火見えなくなっちゃうよね。」
「あーそっか!そしたらやっぱ早く向かわないと間に合わなくなっちゃうね、急ご!」
無事に友だちと合流できたことに安心して、
澪はすっかり先ほど視界の端に捉えた色を忘れていた。
「…ぇ、…上、…兄上!」
「っあぁ、どうした?千寿郎?」
「そろそろ父上と母上のところへ戻りましょうと…」
「そうだな、もうこれで食べ物も十分だろう!」
「…あちらの方向に、どなたかお知り合いでもいたんですか?」
「いや!…そろそろ戻らねば打ち上げに間に合わなくなってしまうから戻ろう!」
「はい!」
声を掛けようと思えば掛けられる距離ではあったが、
赤く色付いた口元を緩めて楽しそうに笑っていた澪と、
その澪の目の前で顔を赤くしながら必死に何かを話している彼を見て
声を掛けるのを躊躇った。
そして躊躇ったことで気付く。
澪との3つの約束の中には、
見掛けたら“意識して”声を掛けるという内容があったが
3つのうち、声を掛けるという約束だけは
“意識して”実行したことが無かったな、ということに。
今、初めて“意識して”声を掛けないように止めたことで、
あの約束の後も、あの約束の前も、
いつだって自分は、
澪を見掛けたら必ず声を掛けていたんだということに気付いた。
「杏寿郎、千寿郎。またずいぶんと買い込んできましたね。」
「つい、あれもこれもと目移りしてしまいました!」
「…去年は同じ量を『試合の後でお腹が空いてるから』だと言って買い込んでなかったか?」
呆れたように言う父上の隣に座りながら、
去年澪が目を点にしながら『…本当にこの量食べきれる?本当に…?』と
何度も確認してきたことを思い出す。
「あ、兄上!始まりました!!」
去年と同じ場所で見る、去年と同じ花火大会なのに
先ほど見掛けた、澪の唇を彩っていた鮮やかな赤が頭をかすめ
見上げた花火は、去年より少しだけ色褪せて見えた。
「…さん、瀬尾さんっ?どうしたの、大丈夫っ?」
無意識のまま、視線を巡らせて
その人物を探してしまっていたことに気付く。
来てるかどうかも分からないし、
誰かと来ているのであれば正直その姿は見たくないなと思っていたのに。
「っ!あ、ごめんね山田くん。大丈夫だよ。」
「そう…?で、どうする?」
「え、何が?」
「えっとだから…、一緒に見る?って…、そ、その!もし良かったら、だけど!////」
「あ…えっと…。」
正直、1人で花火を見るのも、
せっかく来たのに見れずにこのまま帰るのも切ないので
誘ってくれたのは嬉しい。
けれど、目の前で顔を赤くしている彼を見てしまうと
そんな理由で安易に彼と一緒に見ることを選択してはいけないのでは…?
という気がして、答えに詰まる。
「…澪、みつけっ!」
「!!」
どうしようか…と悩んでいたら、すぐ近くから友人の声が聞こえた。
「もう~~~っ急にいなくなるからびっくりしたよ~!」
「みんな!」
「良かった、見つかってぇ~こんな美人、1人でいたら絶対ナンパされちゃうし、それが危ないやつだったらどうしようかと思ってめっちゃ焦ったよ、澪~!」
「…わ!ごめん、心配してくれて探してくれてありがとね。」
「…今、絶賛ナンパされてるように見えるけどね?」
「まぁ一応危ないやつではないからセーフじゃない?」
「う~ん…ある意味では危険な男なんだけどなぁ…。」
友人のひとりに抱きつかれ、
澪がそれを受け止めながら他の子たちを見ると
友人たちは澪や山田たちの方と、
少し斜め奥の方とを見比べて何やらボソボソと話をしていた。
「…さっき。…絶対居たよね?絶対見てたよね…?」
「いや、重要なのは私たちが来たところまでちゃんと見てるかじゃない…?」
「…ひ!そこまで見てなかったとしたら…」
「「…、…こわっ!」」
「山田の変、夏の陣…。」
「やめて!」
「みんな、どうしたの…?」
「っううん、何でもない!何でもない!!何でもなくあってほしい!!本当!」
友人たちの様子を不思議に思った澪も、
友人たちが見ていた方と友人たちを交互に見遣るが、
「お友達見つかって良かったね、瀬尾さん!」
「…あ、うん!声かけてくれてありがとう、山田くん。」
「いやいや、キレイな浴衣姿の瀬尾さんに会えて嬉しかったよ!それじゃあ、オレ行くね!」
やっと赤面が落ち着いたらしい山田太郎がそう声を掛け、
爽やかな笑顔で去っていく。
「…いいやつではあるんだよね、山田太郎。」
「そうね。ある意味において、だけ、危険な男なんだけど。」
「キレイだとか会えて嬉しかったとかいう台詞は素で言えちゃうところもなかなか危険だとは思うけどね私は…。」
「もしさっきの山田の変、夏の陣が開戦してたとしたらきっと瞬殺だろうから骨は拾ってあげようね。」
「もう名前も完全モブの名前だもん、瞬殺だよね。」
「ちょっと待って!私はまだ、私たちの合流まで見届けていたという一縷の望みを捨ててないんだけど!」
「ねぇちょっと皆、早く花火見やすい場所まで移動しようよ~!澪、澪はいつもどの辺りで見てる?やっぱ川向うまで行った方が良いかな??」
「えーと、特にいつも場所は決まってないけど…とりあえずあの橋を超えないと下の方の花火見えなくなっちゃうよね。」
「あーそっか!そしたらやっぱ早く向かわないと間に合わなくなっちゃうね、急ご!」
無事に友だちと合流できたことに安心して、
澪はすっかり先ほど視界の端に捉えた色を忘れていた。
「…ぇ、…上、…兄上!」
「っあぁ、どうした?千寿郎?」
「そろそろ父上と母上のところへ戻りましょうと…」
「そうだな、もうこれで食べ物も十分だろう!」
「…あちらの方向に、どなたかお知り合いでもいたんですか?」
「いや!…そろそろ戻らねば打ち上げに間に合わなくなってしまうから戻ろう!」
「はい!」
声を掛けようと思えば掛けられる距離ではあったが、
赤く色付いた口元を緩めて楽しそうに笑っていた澪と、
その澪の目の前で顔を赤くしながら必死に何かを話している彼を見て
声を掛けるのを躊躇った。
そして躊躇ったことで気付く。
澪との3つの約束の中には、
見掛けたら“意識して”声を掛けるという内容があったが
3つのうち、声を掛けるという約束だけは
“意識して”実行したことが無かったな、ということに。
今、初めて“意識して”声を掛けないように止めたことで、
あの約束の後も、あの約束の前も、
いつだって自分は、
澪を見掛けたら必ず声を掛けていたんだということに気付いた。
「杏寿郎、千寿郎。またずいぶんと買い込んできましたね。」
「つい、あれもこれもと目移りしてしまいました!」
「…去年は同じ量を『試合の後でお腹が空いてるから』だと言って買い込んでなかったか?」
呆れたように言う父上の隣に座りながら、
去年澪が目を点にしながら『…本当にこの量食べきれる?本当に…?』と
何度も確認してきたことを思い出す。
「あ、兄上!始まりました!!」
去年と同じ場所で見る、去年と同じ花火大会なのに
先ほど見掛けた、澪の唇を彩っていた鮮やかな赤が頭をかすめ
見上げた花火は、去年より少しだけ色褪せて見えた。