楝の温もり
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「貴方ほどの力があれば、無傷で戻ってくることだって容易かったはずです。新婚なのですから、あまり澪さんに心配をかけないようにしてあげてください。」
先ほど、この蝶屋敷に茶会に来ていた彼女を迎えにきた彼を見た瞬間に一瞬、顔を強張らせた澪さんの顔を思い出す。
すぐにふわっと微笑って「お帰りなさい、杏寿郎さん。」と声をかけていた彼女を見て
もう何年も前、姉さんを亡くした直後、私に笑顔を取り戻させてくれたきっかけになった
澪さんの泣き顔と笑顔も、同時に思い出し、
思わず拳を握りしめる。
ちょうど、澪さんのご実家である瀬尾家から、布や薬品などの物資が届いたこともあって
ご夫君の怪我の手当を私にお願いして、澪さんはそちらの手伝いに向かっていった。
瀬尾家は、鬼殺隊にも多くの物資を提供してくれているかなり大きな商家で
この蝶屋敷にもいつも様々な物資を届けてくれている。
今日はどうやら澪さんの二番目の兄である次期ご当主もいらしているようで
澪さんはその兄に会いに行ったのだろう。
あの時、澪さんに看取られた隊士は、彼女に一番歳の近い、三番目の兄だった。
哀しみや、心の不安をおして、兄の願いを守り、
怪我をした夫君にも笑顔を見せる彼女は――――――――
「…強い女(ひと)です。ですが、強いからと言っても、傷付かないというわけでもないのですから。」
一体何度、不安な夜を過ごしたのだろう。
何度、失った痛みで涙を流したのだろう。
もうこれ以上失いたくないと、願っただろう。
私には耐えられない。
動いていないと、独りの夜を超えるのが、未だこんなにも苦しい。
首を斬れないにも関わらず、鬼殺を辞めないのは
そんな理由だって無いとは言えない。
だけど彼女は、今も、毎日。
独りの夜を超えて、
朝焼けの空を見上げ、報せ(烏)を探しているのだろう。
待って、待って、待ち続けて、
そして、当然のような笑顔で彼を迎えるのだろう。
苦しさの片鱗も見せることなく。
大切な人を、大切に想う強さをもとに。
…ぽむち