青鈍の光
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それから数日の間、俺はそこで過ごした。
杏寿郎はその間、なぜかずっと俺と同じ部屋で寝て
同じ部屋で食事をした。
はじめはこの口を見られたくなくて、食べることを拒んでいたが
『さぁ、食べよう!』
『澪の作る煮込みはとても美味しいのだ!』
『嫌いなものがあるのか?』
『何が好きだ?』
『少しでも食べないと身体が強くならない!』
ととにかくしつこく、辟易としたため
一度見たらもう言ってこなくなるだろうと包帯を取って
食事に口を付けた。
その様子を見た杏寿郎は驚いて目を見張っていたが
『どうだ、美味いだろう!?』と言ってきて
この口に驚いたのではなく、あれほど拒んでいた俺が
食事をしたということに驚いたのだということが分かった。
それ以後は、拒む方が面倒だったので
一緒に食べた。
だが、それだけだった。
どんなに杏寿郎に一緒に鍛錬しようと誘われても
俺はその部屋を一歩も出なかった。
それは、確かにあの女の子を近くで見て
また苦しい思いをしたくない、という気持ちもあったが
それよりもあの眩しいほど温かい景色を
俺という存在で壊したくなかったからだろうと思う。
従兄妹の言葉で得た傷は、呪縛となってじくじくと俺を苛んでいた。
数日後、煉獄槇寿郎から俺を引き取ってくれるという家を紹介され
俺はそこを出た。
引き取ってくれたのは水の呼吸を使う育手の家だった。
きっと初日と、それからの俺の様子を見て
自分の家では俺の精神(こころ)が休まらないと思ったのだろう。
水の呼吸の育手の家は、完全な男所帯だった。
それは正しい処置だったと、今でも心からそう思う。
俺にとっても。
彼女にとっても。
その数日の間、俺が部屋から頑なに出なかったように
彼女もその部屋の周りには頑なに近付かないようにしてくれていたのだと
気付いていた。
洗濯は庭でやらざるを得ないから、
それを目にすることはあっても、
それ以外で彼女の姿を目にすることは無かったから。
初対面の男が、自分を見た瞬間に倒れた
その事実はきっと彼女を傷つけただろう。
二度と同じことが起きないように、と気を付けながらする生活は
不都合も多かっただろう。
だから、そこを出たことは正しいことだったと
心からそう思っているのだ。
それから数年、育手の元で鬼殺の技を磨き
鬼を滅し続けた。
その中で、女性を見て倒れることも無くなった。
従兄妹の言葉の呪縛は決して消えないまま
俺を苛み続けているが、
鬼から助けた人々の感謝の言葉と
そして何よりも過ぎ去った時間が
過去の呪縛を薄めてくれたのも事実だ。
だから、考えても詮無いことと分かっている。
分かってはいるが、どうしても考えてしまう時がある。
あの時、勇気を出して
あの部屋から一歩でも外に出られていたなら。
驚かせてごめんと、あの子に謝ることが出来ていたなら。
俺は、あの眩しい光の中で生きることが出来たのだろうか、と。
青鈍の光
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