青鈍の光
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「…父上!宜しいでしょうか!」
「…。」
伺うようにこちらを見る煉獄槇寿郎に
少し驚き、
戸惑いながら三度頷く。
「杏寿郎か、何だ?」
「失礼します!!」
スパンッ!!
派手な音を立てて、障子が開き
何かがふわっと香った。
傍らの煉獄槇寿郎を見遣ると、
俺の手を握っていない方の手を額に当て
わずかに俯いている。
「杏寿郎。俺は用向きを問うたのに、いきなり障子を開け放つやつがあるか!」
「相済みません!粥をお持ちしました!」
「…全く。(ため息)…君。確か、伊黒小芭内と言ったな。粥は食べられそうか?」
「…。」
ふるふる、と首を振る。
食べ応えが出るようにと、無理に食べさせられた過去から
食べることそのものに忌避感がある。
その上、化け物のような…鬼のような
この口を晒したくない。
「そうか、分かった。杏寿郎、盆をそこに置いていけ。あとで俺が片そう。お前はもう寝なさい。」
「分かりました!では、失礼します!!」
「…!?」
「…!?おい、何をやってるんだ?」
「布団を敷いております!」
杏寿郎という少年は粥が乗った盆を廊下に置いたと思ったら
よいせっという掛け声とともに、
室内に布団を持ち込み、
俺の布団から数歩離れた場所にその布団を敷き始めた。
「それは見れば分かるわ!馬鹿者!何故いきなり布団を敷いていると聞いているのだ!」
「?父上がもう寝なさいと仰られたので!!」
「だから…っ、何故お前がお前の布団を客間に敷いておるのだ!」
「しばらくの間、俺もここに寝ることにしました!!」
「!?」
「何を勝手に決めているんだ、お前は…っ」
そうして、しばらく父と子で
やいのやいのと言い合いが続いたが、
結局杏寿郎が折れることはなく
疲れたように槇寿郎が
「すまないが、我慢してやってくれ」と言いながら
盆を持って部屋から出て行った。
「伊黒小芭内!俺は煉獄杏寿郎だ、杏寿郎と呼んでくれ!君のことは小芭内と呼んでいいだろうか!」
自分で敷いた布団にあぐらをかきながら
にこやかにこちらを見下ろすその少年の勢いに
小さく頷いて返す。
「ありがとう!…さて、では寝るとしよう!障子は開けておいた方が良いか?閉めた方が良いか?」
そう問われ、開け放たれたままの障子から見える外を眺める。
開かれた時に香った香りが、まだ香っている。
粥の匂いなのかと思っていたが、違ったようだ。
何の香りなのだろうか…とぼんやり考えていると、
その視線の意味を、杏寿郎は開けておいて欲しいと捉えたようだ。
「うん、では障子は開けておこう!ではな、小芭内!お休み!!」
そう言って、布団に入ってしばらくすると
隣の布団からはすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきた。
夜の闇は苦手だ。
それに、誰かとこんな風に同じ空間で
床に着いた経験など無く
すぐ近くに人の気配がする中で
なかなか寝付くことが出来ず
俺は月明りの入る庭をしばらく眺め続けていた。
だが、一定の調子で隣から聞こえてくる寝息に誘われ
いつの間にか俺も深い眠りについていた。