長春の告白
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翌日、私が切らしてしまった味噌を買いに行こうとすると
彼女が『お世話になっている礼』だとか『足の怪我の回復訓練がてら』などと
理由を並べ、私の代わりに三河屋へ出向いてくれると言う。
はじめはお客様にそのようなことは…と固辞していたけれど
さすがに昨日の騒ぎがあった上で、
杏寿郎さんがおらずお義父様が在宅という今の状態は
彼女も気が休まらないのだろう、とお任せすることにした。
「っしょ、と。…ふぅ。」
せっかく買い物を代わって頂いたので、
この機会に布団をまとめて干してしまおう…と、
杏寿郎さん、千寿郎、自分の使っている布団に加え、
すっかり彼女の部屋と化している部屋から彼女の布団も運び出して
庭の日当たりの良い場所に干し終わる。
(お義父様の分は…今日は無理そうね…)
昨日のご様子では、下手にお声がけしない方が良いだろうと判断し
次は…久しぶりにゆっくりと庖丁でも砥ごうかしら、と
台所へ向かうため振り返る。
「っ…ひゃ!」
と、ほぼ真後ろに人が立っていることに驚き声を上げてしまう。
「あ…すみません。お戻りだったのですね。三河屋さんの場所はすぐにお分かりになりましたか?」
「…ぁ、」
「…どうされました?お顔の色が、」
「あ、貴女!煉獄さんの妹ではなかったの!?」
「!?」
後ろにぼんやりと立ち尽くしていたのは、
味噌を買いに出ていた女性隊士で。
何やら顔が強張っている上に、色も悪く、もしかして遣いに出ている間に
体調でも悪くなったのか?
杏寿郎さんから任されていたのに、取り返しのつかないことをしてしまったか…と
内心少し焦りつつ、もし体調が良くないのであれば
すぐに今干している布団ではない新しい布団を用意して…と
この後の算段にも頭を巡らせ始めていると
我に返ったような彼女が、悲鳴のように声をあげた。
「貴女っ、だって!義姉上とっ…、なのに…!い、許婚って、」
そこまで聞いて、すぐに理解をする。
あぁ、この人は私のことを杏寿郎さんの妹だと勘違いしていて、
きっと三河屋さんとの会話の中で
それが勘違いであり、私が杏寿郎さんの許婚であることを知ったのだと。
同時に、そういえば彼女に『妹か』と問われ、違うと伝えることが出来なかったことも思い出す。
杏寿郎さんにそっくりな千寿郎から“あねうえ”と呼ばれ、
杏寿郎さんにそっくりな炎柱のことを“おとうさま”と呼ぶ。
その“音”だけを聞いて義理の姉、義理の父ということを理解できるはずもない。
彼女が勘違いしても仕方のないことだっただろう。
そして…もうひとつ、理解する。
あぁ、この人は杏寿郎さんのことを好いているのだ、と。
思い出すのは、彼女が最初にこの家に来た時のこと。
杏寿郎さんの腕の中におさまった彼女は、
杏寿郎さんの首に回す手に力を込め
静かな目でじっと私を見つめていた。
あれは、好きな人の側に存在する女を探る妬心が篭った視線だったのだ。