長春の告白
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長春の告白
「…ぁ、兄上!?」
「…澪!澪はいるか!?」
「!?は、はいっ、ただ今!」
朝食の仕上げをしていると、
表門の方から千寿郎の驚いた声と
杏寿郎さんが私を呼ぶ声が響き、慌てて玄関口へ向かう。
パタパタパタッ
「…っ、その方は…!?」
玄関先には、戸惑ったように杏寿郎さんの背中を見つめる千寿郎と
艶やかな黒髪を頭の高い位置で一つに括った女性を
横抱きに抱えて立つ杏寿郎さんが居た。
「…澪、すまないがすぐに使える客間はあるか!?」
「っ、はい!南廂の間へ…お庭から周って頂いた方が早いです!…千寿郎、湯と布を!」
「ぁ…、は、はいっ義姉上!」
その状況と、
慌てふためいている杏寿郎さんと比べると違和感を覚えるほど
静かな瞳をしたその女性の腕がきゅっと強く杏寿郎さんの首に回されていた様子を見て
一瞬反応が遅れてしまったが
その女性の隊服と、杏寿郎さんの羽織に染みた血が視界に入ると同時に
澪はすぐに動き出した。
「医者(せんせい)には、要が…?」
「あぁ、もう向かってくれてはいるだろうが、途中まで出迎えに行ってくる!」
「かしこまりました。」
「すまないが、後はしばらく頼んだぞ、澪!」
杏寿郎さんへ伝えた南廂の間に、
その女性が横になるために布団を大急ぎで敷いている最中に
そのような会話を交わすと、杏寿郎さんは彼女を布団に横たえ
すぐにまた家を飛び出して行った。
その間中、その女性はただひたすらに
私の方を見つめていた。
その事に改めて違和感を覚えつつ、着替えとなる襦袢を箪笥から出す。
「…義姉上っ、湯と布をお持ちしました!」
「…ぁ、あ…ね…」
「?…ありがとう、千寿郎。念のため、医者(せんせい)がいらっしゃるまでの間に薬箱も持って来てくれる?」
「はいっ!」
先ほど、彼女が小さく何かを口にしたように思ったが
あまりにもその呟きは小さく、何を言ったかまでは分からなかった。
この後の算段を頭に思い描きながら、追加のお願いを千寿郎に伝えると、
バタバタと千寿郎が立ち去る足音を聞きながら、私は彼女の方を振り返った。
「傷むのは、右足だけですか?」
「…ぁ、…えぇと、右足と、右の手首が…」
「分かりました。では、私がお支えしますので…お医者様がいらっしゃるまでの間にお召し変えをしましょう。」
「…う゛、」
「すみませんっ、大丈夫ですか?」
「はい…」
そうして、介助をしながらどうにか隊服から
襦袢へと着替えてもらうと同時に
千寿郎が用意してくれた湯と布で身体と傷口を拭う。
足の傷からはまだ血が滲んでいたので
患部を綺麗にしたあと、強めに布を縛って簡易的な止血をする。
見たところそれほど傷は深くなさそうだ。
だからこそ、杏寿郎さんは直接病院ではなくここへお連れする判断をしたのだろうと推測する。
手術が必要なほどの傷であれば、さすがに煉獄家では何も出来ない。
手首の方は赤く腫れあがっていたが傷などはなく
また骨には異常が無さそうなので、捻挫かもしれないとあたりをつけ、
捻挫用の塗布薬の在庫はあったかしら…と頭で考える。
「…あの、貴女は、煉獄さんの…、」
「…え?」
「貴女は煉獄さんの、妹さんでしょうか?」
意識を完全に、今、千寿郎が運んでいるであろう薬箱へと向けていると
目の前の女性から声を掛けられた。
視線を向けると、やけに真剣で強い眼差しにぶつかる。
「…えぇと、私は、」
「澪!医者(せんせい)がいらっしゃった、開けても良いだろうか!」
「!あ、はいっ…」
妹ではなく、許婚で…と説明しようとした
ちょうどその時、杏寿郎さんがお医者様を連れて戻ったため
襖を開け、お医者様だけを招き入れる。
そのまま、ちょうど同じ頃合いに戻った千寿郎から
薬箱を受け取り、
医者の診察を横で見ながら
「あの薬はあるか」「固定するための手巾はあるか」といった
問いかけにお答えするうちに、先ほどの彼女の質問はすっかり私の頭の中から消え去っていた。
「…ぁ、兄上!?」
「…澪!澪はいるか!?」
「!?は、はいっ、ただ今!」
朝食の仕上げをしていると、
表門の方から千寿郎の驚いた声と
杏寿郎さんが私を呼ぶ声が響き、慌てて玄関口へ向かう。
パタパタパタッ
「…っ、その方は…!?」
玄関先には、戸惑ったように杏寿郎さんの背中を見つめる千寿郎と
艶やかな黒髪を頭の高い位置で一つに括った女性を
横抱きに抱えて立つ杏寿郎さんが居た。
「…澪、すまないがすぐに使える客間はあるか!?」
「っ、はい!南廂の間へ…お庭から周って頂いた方が早いです!…千寿郎、湯と布を!」
「ぁ…、は、はいっ義姉上!」
その状況と、
慌てふためいている杏寿郎さんと比べると違和感を覚えるほど
静かな瞳をしたその女性の腕がきゅっと強く杏寿郎さんの首に回されていた様子を見て
一瞬反応が遅れてしまったが
その女性の隊服と、杏寿郎さんの羽織に染みた血が視界に入ると同時に
澪はすぐに動き出した。
「医者(せんせい)には、要が…?」
「あぁ、もう向かってくれてはいるだろうが、途中まで出迎えに行ってくる!」
「かしこまりました。」
「すまないが、後はしばらく頼んだぞ、澪!」
杏寿郎さんへ伝えた南廂の間に、
その女性が横になるために布団を大急ぎで敷いている最中に
そのような会話を交わすと、杏寿郎さんは彼女を布団に横たえ
すぐにまた家を飛び出して行った。
その間中、その女性はただひたすらに
私の方を見つめていた。
その事に改めて違和感を覚えつつ、着替えとなる襦袢を箪笥から出す。
「…義姉上っ、湯と布をお持ちしました!」
「…ぁ、あ…ね…」
「?…ありがとう、千寿郎。念のため、医者(せんせい)がいらっしゃるまでの間に薬箱も持って来てくれる?」
「はいっ!」
先ほど、彼女が小さく何かを口にしたように思ったが
あまりにもその呟きは小さく、何を言ったかまでは分からなかった。
この後の算段を頭に思い描きながら、追加のお願いを千寿郎に伝えると、
バタバタと千寿郎が立ち去る足音を聞きながら、私は彼女の方を振り返った。
「傷むのは、右足だけですか?」
「…ぁ、…えぇと、右足と、右の手首が…」
「分かりました。では、私がお支えしますので…お医者様がいらっしゃるまでの間にお召し変えをしましょう。」
「…う゛、」
「すみませんっ、大丈夫ですか?」
「はい…」
そうして、介助をしながらどうにか隊服から
襦袢へと着替えてもらうと同時に
千寿郎が用意してくれた湯と布で身体と傷口を拭う。
足の傷からはまだ血が滲んでいたので
患部を綺麗にしたあと、強めに布を縛って簡易的な止血をする。
見たところそれほど傷は深くなさそうだ。
だからこそ、杏寿郎さんは直接病院ではなくここへお連れする判断をしたのだろうと推測する。
手術が必要なほどの傷であれば、さすがに煉獄家では何も出来ない。
手首の方は赤く腫れあがっていたが傷などはなく
また骨には異常が無さそうなので、捻挫かもしれないとあたりをつけ、
捻挫用の塗布薬の在庫はあったかしら…と頭で考える。
「…あの、貴女は、煉獄さんの…、」
「…え?」
「貴女は煉獄さんの、妹さんでしょうか?」
意識を完全に、今、千寿郎が運んでいるであろう薬箱へと向けていると
目の前の女性から声を掛けられた。
視線を向けると、やけに真剣で強い眼差しにぶつかる。
「…えぇと、私は、」
「澪!医者(せんせい)がいらっしゃった、開けても良いだろうか!」
「!あ、はいっ…」
妹ではなく、許婚で…と説明しようとした
ちょうどその時、杏寿郎さんがお医者様を連れて戻ったため
襖を開け、お医者様だけを招き入れる。
そのまま、ちょうど同じ頃合いに戻った千寿郎から
薬箱を受け取り、
医者の診察を横で見ながら
「あの薬はあるか」「固定するための手巾はあるか」といった
問いかけにお答えするうちに、先ほどの彼女の質問はすっかり私の頭の中から消え去っていた。