蘇芳の導き
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「ねぇ千寿郎、この前一緒に泥団子作ったのを覚えてる?」
「…はぃ…っ」
「あの時、千寿郎がはじめに作ったお団子さんはすぐに崩れちゃったでしょう?」
「…(こくん)、」
「でも、その後一緒に作ったお団子は硬くて丈夫に出来たわよね?…何度も何度もお砂かけて丸めて、を繰り返して…」
「ぃっ、ぴ、…ぴか、…ぴかになりましたっ」
「ふふっ、あのお団子と同じよ?」
「おなじ…?」
「そう、簡単にできるものは簡単に崩れてしまうの。だから…できるまで時間がかかってしまっても、何度も何度も繰り返して簡単には崩れないようにすることの方が大事なのよ。それが“身に付いた”ということなんだから。」
(…っ、)
あぁ、そうだな…澪。
簡単にできるものは、確かに簡単に崩れ去る。
一朝一夕で出来るようになった技は、簡単に破られるだろう。
焦ってできるようになっても
それはきっと単なる付け焼刃で、“身に付けた”技術ではない。
そんな力より
どんなに時間がかかって、
遠回りに思えてしまっても、
急がず、焦らず、着実に
一つ一つ積み重ねて得たものの方がよほど強く、
自分の力となるだろう。
分かっていたつもりだったのに、
焦りと不安から見えなくなってしまっていたようだ。
肩の力が抜けたのが、
自分でも分かった。
『弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です』
母上の言葉が、俺のやるべきこと
果たすべき使命、進むべき道を決めたとしたら
澪の言葉が
澪の存在そのものが
いつも俺の背中を押し、迷いや不安から掬い上げ
俺を導いてくれる。
なんと、愛おしく
尊い存在なのだろうか。
「…さぁ、お夕飯の支度の続きに戻りましょう、千寿郎。」
「はぃっ、あねうえ!」
「…っ!き、杏寿郎さん、お戻りだったんですね。すみません、まだ夕飯の支度が…」
「…。」
部屋から出て、俺に気付くと
ふにゃりと眉を下げて謝ってくる澪の方に手を伸ばし、
指先で、その頬に触れた。
「!?な、なななにをっ//////」
「…、…ふっ」
途端、目を零れんばかりに開いて焦り出す澪に、
俺の笑いの方が零れた。
「っ、はは!いや、すまない!ただいま、澪、千寿郎!」
「えぇ…?いゃ、あの…はぃ、お帰りなさい…」
「あにうえ!おかえりなさい!!」
蘇芳の導き