藤紫の覚悟 -side杏寿郎-
お名前の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
最後の夜、鬼に折られた刀を握りしめ震えている同い年の少年と会った。
その時の鬼も狩ることができ、俺も彼も大きな怪我はなく済んだ。
俺が鬼を斬った様子を見て彼は
「貴方のように強くなりたい」と言ってくれたのに、
いつもなら言える筈の“頑張ろう”が
一瞬詰まってするりと出てこなかったのは、
彼が
どうしてか死んでしまいそうだったからだ。
笑顔で家路に着いた彼を見て、
もしかしたら彼はあの時、鬼に喰われ死んでいたかも知れず
そうしたらもう彼は家に帰ることも、
家族に会うことも出来なかったのだと思った。
彼に、「一緒に頑張ろう」と伝えることで
俺が、
他でもない俺自身が、
彼を死に追いやってしまうような気がした。
これまでも頭では理解していたつもりであったのに
鬼殺の任が、死に直結するものなのだということを
改めて眼前に突き付けられた思いだった。
その時ふと父上が俺と千寿郎に冷たくなった理由を考え
“死なせたくないから”というのが頭に浮かんだ。
そして、母上を失った時の父上の様子を思い出し、
父上が澪に冷たくなった理由は、
“喪う痛みを味わわせたくないから”なのではないかと思った。
父上の目には俺が、
俺から見た彼のように見えているのだろうか。
稽古を付けることで、
激励をすることで、
俺を死に追いやるような心地がするのだろうか。
もし俺が死んだら、澪はどうなるのだろうか。
俺は煉獄家に生まれ、鬼を滅することが出来る力を持って生まれた。
母上が仰ったように、この力を持って生まれた以上、
俺の使命はこの力で鬼を狩ることだと思っている。
例えそれで命を喪ったとしても、それで良い。
命を使う、それが使命だ。
…だが、澪は。
澪の祖父は先々代の風柱殿で、
叔父や兄も鬼狩りだが、
澪には、澪の姉のように鬼狩りではない男の元に嫁ぐという
生き方だってあるはずだ。