若紫の恋恥
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若紫の恋恥
「おやすみ、千寿郎!」
「はい、おやすみなさい!あにうえ!」
薄掛けの布団を整え、千寿郎の部屋を出る。
その朗らかな声に
(…本当に大きくなったものだ)
と感慨深くなる。
チリン…
微かに風鈴の音がした。
(そうか…またもうすぐ夏が来るのだな。)
思い出すのは、二年前の夏に亡くなった母の姿だ。
母が亡くなった頃は、まだ母を恋しがって泣いていた千寿郎も
今では当たり前のように独り寝が出来るようになった。
母を恋しがって泣くことも、もう無い。
もちろん寂しくは思っているだろう。
時おり、町中で手を繋いで歩く母子をじっと見つめていることがある。
だからといって駄々をこねることも、もう無い。
千寿郎は、千寿郎なりに
母がいない寂しさに対して折り合いを付けているのだろう。
その、重ねてきた日々の成長が誇らしく、嬉しい。
自然と口角があがるのを感じながら、
縁側から昇り始めたばかりの月を眺める。
…ふわ、ん
「…ん?」
視界の端に柔らかな光がよぎった。
「…蛍か。」
(母上だろうか…?)
二年前、澪と二人、
庭を眺めていた際に観た季節外れの蛍を思い出す。
今は初夏、季節外れというわけではないが
たった一匹で
ふわり、ふわり
と飛ぶ蛍に、あの夜を思い出す。
情けなくも、その身にすがった俺を
包んでくれた澪の温かさを、思い出す。
柔らかな光をまとったまま、ふわりと舞う
蛍を目で追っていたら
蛍が飛び向かう先に、縁側柱に寄りかかった澪がいた。
「眠っているのか…?」
近付いてみると、
その手には父上の隊服、
横には俺の道着と、千寿郎の足袋が置いてある。
「繕い物をしていたのか。」
どうやらほころびのある箇所をまとめて繕おうとしているうちに
縁側でうたた寝をしてしまったらしい。
その手に針を持ったまま寝ていることに気付き、
眉を寄せる。
(危険だろう!明日、言って聞かせねばな!)
そう思いつつも、
その小さな体でこの家のことを一手に引き受け
疲れているのだろう澪に申し訳なさと感謝の想いが溢れた。
「おやすみ、千寿郎!」
「はい、おやすみなさい!あにうえ!」
薄掛けの布団を整え、千寿郎の部屋を出る。
その朗らかな声に
(…本当に大きくなったものだ)
と感慨深くなる。
チリン…
微かに風鈴の音がした。
(そうか…またもうすぐ夏が来るのだな。)
思い出すのは、二年前の夏に亡くなった母の姿だ。
母が亡くなった頃は、まだ母を恋しがって泣いていた千寿郎も
今では当たり前のように独り寝が出来るようになった。
母を恋しがって泣くことも、もう無い。
もちろん寂しくは思っているだろう。
時おり、町中で手を繋いで歩く母子をじっと見つめていることがある。
だからといって駄々をこねることも、もう無い。
千寿郎は、千寿郎なりに
母がいない寂しさに対して折り合いを付けているのだろう。
その、重ねてきた日々の成長が誇らしく、嬉しい。
自然と口角があがるのを感じながら、
縁側から昇り始めたばかりの月を眺める。
…ふわ、ん
「…ん?」
視界の端に柔らかな光がよぎった。
「…蛍か。」
(母上だろうか…?)
二年前、澪と二人、
庭を眺めていた際に観た季節外れの蛍を思い出す。
今は初夏、季節外れというわけではないが
たった一匹で
ふわり、ふわり
と飛ぶ蛍に、あの夜を思い出す。
情けなくも、その身にすがった俺を
包んでくれた澪の温かさを、思い出す。
柔らかな光をまとったまま、ふわりと舞う
蛍を目で追っていたら
蛍が飛び向かう先に、縁側柱に寄りかかった澪がいた。
「眠っているのか…?」
近付いてみると、
その手には父上の隊服、
横には俺の道着と、千寿郎の足袋が置いてある。
「繕い物をしていたのか。」
どうやらほころびのある箇所をまとめて繕おうとしているうちに
縁側でうたた寝をしてしまったらしい。
その手に針を持ったまま寝ていることに気付き、
眉を寄せる。
(危険だろう!明日、言って聞かせねばな!)
そう思いつつも、
その小さな体でこの家のことを一手に引き受け
疲れているのだろう澪に申し訳なさと感謝の想いが溢れた。