珊瑚の祈り
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まだまだ私は幼くて、
ただの許婚で、
未だ杏寿郎さんの妻にはなっていないのに
これまでも煉獄家の皆さまは私のことを
本当の家族として接して下さっていて
それだけでも心強くて、
胸が温かかったのに。
私を家族として受け入れて下さる、
お義父様、お義母様、杏寿郎さん、千寿郎
全員の気持ちが固まって形になったように、
温かい色をした珊瑚が綺麗で
ぽろぽろと涙が溢れてしまって止まらない。
「あねうえ、いたい…?…ふぇっ(泣)」
「あらあら、千寿郎まで…」
「大丈夫だ、千寿郎!澪は痛くて泣いているわけではないからな!」
「ふっ…ぅっく、…う゛ぅ…っ」
「ふえぇ~、…ぇっ、」
「やれやれ…千寿郎はもう眠いのだろう。もう寝かせてこよう。」
「お願いできますか、旦那様。私は後片付けをしてまいりますので…。杏寿郎、あなたは澪の涙がおさまるまで付いていておやりなさい。」
「!?よもや、俺ですか?母上の方が適任なのでは…っ」
「そうしたら誰が片付けるのです?家中の皿を割られるのは御免です。お前の許婚なのだから、しっかりなさい。」
そうして居間に残され、
なかなか涙がおさまらない私を
杏寿郎さんはあの手この手で必死に慰めようとしてくれて…
その様子がおかしくて、
ついクスクス笑ってしまうのに、
それでもその温かい涙はしばらく止まらないままだった。
「っく…、ふぅ、…ふふふっ…、」
「!?おい、澪!君、今笑わなかったか!?」
「ふっ…、っく、…だ、だって杏寿郎さんが必死でおかしくて…っ、…ひぅ、っく、」
「…泣きながら笑うなんて器用だな、君は!…しかし、澪…いい加減、涙を止めてくれないか!目が溶けてしまいそうだ!」
「…グスッ…、目が溶けるなどと…ッ。そんなことは、あり、ません!私は、鬼ではないのですよ!…ぅっく、…、」
「まったく…ほら、澪。こちらに顔を向けて…」
「いっ、いぃいいいたい、いたい痛い!杏寿郎さん、痛いですっ…!もう少し優しく拭って下さいぃ~」
「む?そんなに力を込めてなどいないぞ!」
「ふぇ…っ、い痛くて、また涙が出てきましたっ…」
「…よもや!やはり母上に変わって頂くべきだろうか…」
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数年後
「義姉上、こちらの菱餅をどうぞ!」
「ありがとう、千寿郎。頂きますね。…うん、美味しい!」
「それは良かったです!これで今年も義姉上が健康に過ごせますね。」
「あら、それには千寿郎も一緒に食べてもらわなくては。…はい。」
「はい、頂きます!…兄上がちょうど任務になってしまい、残念でしたね。」
「ふふっ…お出かけになる前に一つお渡ししておきましたから、今頃彼の地で召し上がってるでしょう。まだ陽は落ちていませんからね。」
「そうですか!それなら良かったです!!あ、でも父上は…ちょうど今朝方、任務から戻られていますが、また部屋に篭ってしまわれていますね…。」
「大丈夫よ。後で、こっそりお部屋に菱餅をお届けしておきましょう。…今日だけは、きっと召し上がってくれるわ。」
目の前で菱餅を食べながらしょんぼりしている千寿郎に
腰元の珊瑚の帯留めを撫でながら、明るく笑って返事を返す。
節会の人数は減ってしまって寂しいけれど、
どうせ桃の節句を行うのも
今年か来年が最後だろう。
あの頃のようにまだまだ至らないことも多いけど、
きっと大丈夫だ。
私には、この祈りの込められた
珊瑚の守り石がついているから。
珊瑚の祈り