珊瑚の祈り
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桃の節句当日
「ははうえ、ははうえ!せんも!せんもかしたべます!」
「えぇ、千寿郎にもちゃんとあげますから少しお待ちなさい。澪が先です。」
「…え!そ、そんな大丈夫ですよ。」
「うん、今日の主役は澪だからな!澪が先だ!」
「良いから、ホラ食べなさい。」
そう言って、お義父様が私の皿の上に菱餅を置いて下さる。
「ありがとうございます…っ、いただきます。」
「千寿郎、良いですか。あの餅には魔除け、浄化、健康という意味があるのです。女子が食べるとそれらを得ることが出来るのですよ。」
「まよけ…?じょうか?けんこう??」
「澪が元気に生きていくための菓子ということだ、千寿郎!」
「!…はいっ、あねうえ!」
お義母様と杏寿郎さんの説明を聞いた千寿郎は慌てた様子で
私の皿にもう1つ菱餅を置いてくれる。
「まぁ…自分の分も澪にあげるのですか?千寿郎。」
「はい!」
「千寿郎…ありがとう!優しい子だね、千寿郎は…っ。でもこれは千寿郎の分だから、千寿郎がお食べ。皆で一緒に食べた方が嬉しいから、一緒に食べてくれた方が私も元気になるよ!」
「はははっ!では皆で食べよう!はい、父上も、母上もですよ!」
「うん?お、俺もかっ?」
「はい!澪が皆で一緒にと申していますので!!」
「はい!お義父様、一緒に召しあがりましょう!」
「ふふっ、では旦那様、頂きましょう。」
「そ、そうか。分かった、頂こう。」
「いただきますー!」
皆で一つずつ、一緒に美味しいね、と言いながら菱餅を食べ終わると
お義母様から「澪、少し良いですか?」と声を掛けられた。
「はい、何でしょう…?」
「…これを。」
お義母様が懐から出して渡して下さったのは、
珊瑚の帯留めだった。
「これはっ…」
「…これから先、きっと災いから澪を守ってくれるでしょう。」
「…っ、…、」
珊瑚は、親から子へ、特に母から娘へと受け継がれていく
厄除けの守り石だ。
私の母の実家は、それほど裕福ではない家だったため
受け継ぐような石など無い。
ということは必然的に、
目の前のこの石は、
お義母様が娘時代にお母様から譲られたお品だろう。
「澪ったら…何をそんなに、泣くのです。」
「だ、…っだ、だって、…ぃっく、だって…このようなっ大切な、お品を…っ」
「大切な品だから、澪へ贈るのです。私の、曾祖母から受け継いできたものです。長い年月、母が娘(こ)を想う祈りが込められています。きっと澪のことも守ってくれましょう。」
「…ぅ、っく…ふぇ…ありっ、…ありがとうございますっ、」