菜の花の温もり
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「よぉしっ!千寿郎、あそこの角まで兄上と競争だ!」
「きょーそう!!」
「いくぞっ!」
「転ばぬように気を付けるのですよ、二人とも!」
「母上、ご心配なく!」
「…元気ですねぇ~。…お義父様、大丈夫ですか?」
「ん?あぁ問題ない。心配するな。」
さぁ、出発ですというお義母様の号令の下、
私たちは家を出て煉獄家の氏神様であるお社方面に向かって歩いている。
お義母様が大量に拵えた握り飯はすべて、
確実に寝不足状態であろうお義父様の背中に背負われている。
隊服ではなく着流しを着ているお義父様は久しぶりだ。
…というか、私が煉獄家へ来てから初めてかもしれない。
「澪、着きましたよ。」
「ぅ、うわぁあ…すごいです…っ!」
着いたのは、氏神様のお社を超えた先にある煉獄家所有のお山の更に裏手、
明るい黄色に染まった一面の菜の花畑だった。
「こんなにきれいな菜の花畑、はじめて見ました!」
「きれい!きれいねー!」
「うん、ちょうど盛りの時期だな!!」
「三人とも、敷物にお座りなさい。朝食にしますよ。」
「「「はーい!」」」
こんな素敵な場所で、ご飯まで食べられるなんて…っ!
非日常なことの連続で、頬が上気していることが分かる。
「さ、旦那様。」
「あぁ。…コホン、では…」
「?」
楽し気な空気から少し改まった雰囲気になって、
思わず首を傾げていると、
お義父様、お義母様、杏寿郎兄さまが私を見る。
「っえ…?」
「…澪、君を家へ迎え入れられたことを喜ばしく思う。これから宜しく頼む。」
「!?」
「ようこそ、澪。」
「澪!ようこそ、煉獄家へ!」
「ようこそー!」
「えらいな、千寿郎!今日が澪の歓迎の野掛けだということを分かっているんだな!」
「はいっ」
「えっ…あ、あのっ、ありがとうございます…!」
この突然の野掛けの意味が、まさか私を歓迎するためのものだったなんて…
戸惑いからの嬉しさと感動で言葉が詰まってしまう。
「あの、あのっ…至らないこともたくさんありますが、これから頑張ります!!」
「…そんなに気負わずとも良いんだぞ?」
「そうですよ、澪。祝言はまだ先の話ですが、あなたはもう家族なのですからね。」
「その通りだ!澪、これからは遠慮はいらないからな!」
家族…
そっか、お義母様が呼び方を注意するのは、
形からでも早く馴染むようにって
そう思って下さってるからなのかな…ってこの時初めてそう思った。
まだ少しの気恥ずかしさは残るけど、
私を家族として歓迎してくれているその気持ちに
私もきちんと答えていかなくちゃ。
「…はい!千寿郎、杏寿郎さん、お義母様、お義父様、これからも宜しくお願いします!!」
「あぁ、」
ポンとお義父様が優しい笑顔を浮かべて、私の頭を撫でて下さるのを
お義母様も嬉しそうに眺めている。
「母上!腹が減りました!握り飯を下さい!」
「くださいっ」
「…杏寿郎、あなたは少し遠慮というものを知る必要があるようですね。」
「…くくくっ、…まぁいいだろう、さぁ食べよう。澪も食べなさい。」
「はい、頂きます!」
「「いただきますっ!」」
大量の握り飯は、お義父様と杏寿郎さんのお腹にどんどん吸い込まれていくように減っていく。
私たちの楽し気な空気に触れて、鮮やかな黄色の菜の花が風に揺れた。
温かい気候と気持ちに包まれてその時食べた梅の握り飯は、
今までで一番美味しくて、
私にとっては生涯忘れられない味になった。
菜の花の温もり