一斤染の自覚
お名前の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「杏寿郎、澪。お前たちを言ひ名付けてはどうか、という話があがっている。」
「…。」
「「!?」」
風呂で汗を流してさっぱりした杏寿郎兄さまと、
先日歩き始めたばかりの千寿郎のお部屋で千寿郎と遊んだり、
千寿郎が眠ってしまってからは、
この前お父様に頂いた「キャラメル」なる菓子がどれほど美味しかったかをお話したり、
前回お会いした時より杏寿郎兄さまがどれだけ長く走ることができるようになったかを聞いたりして過ごしていたら、お昼過ぎに、槇寿郎様がご帰宅された。
そして、杏寿郎兄さまと一緒に居間に呼ばれて、いきなりこのように言われて仰天した。
隣の杏寿郎兄さまを盗み見ると、兄さまも零れそうなくらい目を見開いている。
「いずれ、お前たちが夫婦になるということだ。…どうだ?」
驚きが隠せない私と杏寿郎兄さまと違って、槇寿郎様も瑠火様も静かで落ち着いた顔をしている。
「家同士は何も問題ない。が、お前たちももう十二と十だから当人の意見も聞こうということになってな。」
先ほど、瑠火様がお話されていた意味はこのことだったのか…
そう思って瑠火様のお顔を見ると、杏寿郎兄さまを見ていた瑠火様の目がこちらに向いた。
そして、そんな瑠火様につられるように杏寿郎兄さまにそっくりな槇寿郎様のお顔もこちらを向く。
「…っ」
「お、俺は…!」
思わず息を飲んでいたら、隣の杏寿郎兄さまが声をあげた。
いつもより、だいぶん小さくかすれたお声だったけれど、静かな居間にはしっかりと響いて
同時に槇寿郎様も瑠火様も、そして私も、杏寿郎兄さまを見つめる。
「俺に否やはありません!澪ならば、澪とならばきっと良き夫婦になれるとそう思います!」
「…そうか。」
思わぬ言葉に、私はこれまで以上にじっと隣の杏寿郎兄さまのお顔を見つめてしまう。
私が見ていること、杏寿郎兄さまなら気付いているはずなのに、
杏寿郎兄さまは真っすぐ正面の槇寿郎様と瑠火様の方向を見据えている。
そして再び槇寿郎様と瑠火様が私の方を向いた。
「…っ」
「澪。何も今日、今すぐに答えを出せと言っているわけではない。五日後に瀬尾殿に依頼している品を受け取りにお前の家へ出向くから、その時にでも聞かせてくれれば良い。分かったな?」
「…は、はいっ!」
「…澪、先ほど瀬尾の家に烏を飛ばしました。今日は、こちらに泊まっていきなさい。」
「え、…でも…そんな急に…」
「問題ありません。…到着したばかりの頃から少し頬が赤いですよ。移動をして疲れが出たら熱が出てしまうかも知れません。」
「いえ、それはっ」
「いいから、そうなさい。分かりましたね?」
「は…はい、分かりました…。」
えーと…先ほど頬が赤かったのは、瑠火様に「お母様みたい」と言ってしまって、恥ずかしかったからだし、
今、赤いのは槇寿郎様と杏寿郎兄さまが言ったことにびっくりしたからで…
と思ったけれど、瑠火様の有無を言わさない迫力の前に私のお泊りが決定したのでした。