First impression -his-


「…初めまして。瀬尾澪です。好きなことは、読書とお菓子を作ることです。部活はまだどこに入るか決めていません。…よろしくお願いします。」


緊張しているのか、少し強張った顔でそう挨拶した瀬尾が
軽くお辞儀をするとサラ、とその長い黒髪が顔にかかり
その髪の動きがやけに杏寿郎の目に焼き付いた。


パチパチパチ


挨拶を終え、ほっとしたのか
口元をゆるめ表情を和らげた彼女に視線を向けて拍手をしながら
男女関係なく数人がひそひそと話す声が聞こえる。

『ちょ～美人～…』


瀬尾澪は確かに整った顔立ちをした少女だ。


だが、杏寿郎は
（美人、というより可愛らしいという印象だな）
と思った。

同級生たちや、近所の人などから
“美人”だと評される自身の母と比べると
年齢が幼いから…という理由もあるかも知れない。

また、どちらかと言うと切れ長な母の瞳と比べ
瀬尾はぱっちりとした目だからという理由もあっただろうと思う。


でも杏寿郎が“可愛らしい”という印象を受けた
その１番の理由は、
彼女の瞳がキラキラと好奇心に煌めき、
クルクルと楽し気に動きながら
次から次へと挨拶するクラスメイトたちの方を見ていたからだった。


瀬尾は視線だけでなく、
何ならその身体まで挨拶するクラスメイトの方へ向けている。

そんな少女を杏寿郎は
（素直で誠実そうな子だな！）
と好意的に見つめつつ、
（あぁでも…確かに瀬尾の髪は“美し”かったな…）
と先ほどの挨拶を思い返しながら思ったのだった。