夏の夜の焔
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約束の恋人_夏の夜の焔
「澪~?今日は浴衣着るんでしょう?そろそろ着付けてあげるからこっちに来なさい。」
「わ、もうそんな時間!?ありがとう、お母さん!」
「…ふふふっ、今年は浴衣着ていくだなんて…もしや今日はデートなの?」
「ちっ、ちがうよ!女の子の友だちばっかりだよ!皆で浴衣着て写真撮ろうって言ってて…。」
「あら、なんだ~高校生になったら早速彼氏が出来たのかと思ってたのに。」
「…彼氏いたら夏休みこんなに毎日家にいないでしょ。」
「それもそうね。嫌だわ、せっかくこんなに可愛く産んであげたのに…ちゃんと青春楽しまないとダメよ?」
「はいはい、ありがとう!」
(ごめんね、お母さん。彼氏と花火大会に行ったのは去年です…)
この付近で1番大きな花火大会の日。
去年は、たまたま同じ日に杏寿郎の部活の練習試合があり、
澪はその応援に一緒に行っていた煉獄家の面々と
試合後にそのまま花火を見に行った。
もちろん試合を終えた杏寿郎も一緒だった。
今年も杏寿郎は家族と一緒に花火大会へ行くのだろうか…と考えながら、
もしかしたら誰か女の子と行くかもしれないとつい想像してしまって
ツキンと胸が痛むのを感じた。
今日の花火大会、澪はいろんな男子生徒から
直接的にしろ遠回しにしろ、誘いを受けたが
杏寿郎も同じようにたくさんの女生徒から声を掛けられただろう。
今年は練習試合の日ともかぶっていないことは風の噂で知っている。
そう、風の噂で。
高等部に入って、杏寿郎から声を掛けられた試合は春の新人戦の時だけだ。
それ以降、インターハイの予選も練習試合もあったが
特に声は掛けられなかった。
そもそも以前、応援に行っていたのも、
普段杏寿郎から練習の成果を聞く等といった、
話の流れから次の試合の予定を知り、
自然な会話の流れで応援に行くという話になっていたため
以前ほど細かに連絡を取り合うことがなくなった以上、
応援に行く機会がないのもまた自然なことであった。
右小手からの面を取りにいく時に
踏み込みがどうしても甘くなってしまうのが課題だと言っていたけど、
杏寿郎のことだからその課題ももうとっくに克服しているのだろう。
杏寿郎と話をするようになるまで、
剣道のことなど全く知らなかったのに
自分もずいぶんと詳しくなったものだ…と思う。
「…よし!はい、終わり!」
ぼんやり考えていたら、いつの間にか浴衣の着付けだけでなく
澪の母は髪までまとめてくれていた。
「うん、可愛い可愛い!ウチの子が1番可愛い!」
「何言ってるの(笑)親バカなんだから…。」
紺の地に、大きな赤い椿の柄が映える浴衣だ。
帯は椿のおしべの色に合わせた鮮やかな黄色で、
その色の組み合わせが誰かを彷彿とさせやしないか
ということに購入後自宅で戦利品を母に見せている時に気付いて
思わず赤面してしまった。
(全体は紺地がメインだし…皆別に変に思わないわよね。)
黒髪を染めることもなく、目はパッチリとしていながらも、
どちらかと言うと和風な顔立ちをしている澪に
浴衣はよく似合っていた。
せっかくなら浴衣に合わせて思いっきり大人っぽくしましょ
と少女のように張り切った母に赤いリップを塗られた澪は、
「は、派手すぎない…?」
と少し及び腰だったが、大丈夫、可愛いからみんな振り向くわよ!!
というまたしても親バカ全開の母に太鼓判を押され、
その勢いのまま家を出された。
「「「うわっ…」」」
「び、美の暴力…。」
浴衣美人、男が放っておかない、危険人物、と友人たちからも、
一部褒められているのやら微妙な評も混じっているものの、
総じて似合うと言ってもらい
明るいうちに…と皆でたくさん写真を撮った。
色合いについては誰からも何も言われなかったので
ホッと胸を撫で下ろす。
段々と込み合ってきた会場の中を、
屋台を見ながらそぞろ歩いていると辺りはいつの間にか暗くなっていた。
「食べるものはこんなもんでいいかな?」
「私、トイレ行っておきたいなぁ…。」
「あぁ、でも最早行列がすごくて打ち上げ時間までに終わるか微妙そうだよ…」
「…あ、イタっ!…うーん、もう人混みもどんどんやばくなるし、とにかく見る場所に移動しようか?ね…あ、あれっ?澪…っ?澪、どこ!?」
「えっ?澪いないの!?」
「さっきまで隣にいたのに…うそっ」
「澪――――っ!!」
(完全にはぐれてしまった…。)
皆で歩いていたはずが、前方から逆方面に向かう団体に押し流され、
どうにかこの流れから外れようと横へ横へ避けているうちに、
人垣で友人が全く見えなくなった。
携帯を出してみるも、この人混みのせいか接続が弱く連絡が取れない。
花火を見る場所も細かく決めていたわけではないので、
どこへ向かえばいいかも分からない。
(うーん…詰んでしまった…。)
えーん、まさかこのまま花火を1人で見る羽目になるの~?と少し泣きそうになる。
高校生にもなって情けないことだが、
少しばかり派手に見えるくらい気合を入れた浴衣姿であるからこそ、
1人でいることが心細くて仕方ない。
心なしか、じろじろと見られている気さえしてくる。
気のせいだとは思うけど…。
あーあ、せっかくなのに残念だけど…
もうこのまま帰ってしまおうか?
それとも皆と向かっていた方向にとりあえず歩いてみるべきか…
「瀬尾さん!?」
人の往来を邪魔しない隅っこで思い悩んでいると、
斜め正面からものすごい勢いで澪に声を掛ける青年がいた。
「?…あ。山田くん…。」
「うわぁっすっごい綺麗!びっくりしたー!すごい綺麗な人がいるなぁって思って見たら瀬尾さんだったから!」
「あ、えと…あ、ありがとう。」
「こんな所で会えるなんてめっちゃ嬉しい!浴衣姿、まじで綺麗!…て、あれっ!?瀬尾さんまさか1人??」
「ううん、友だちと来たんだけどちょっとはぐれちゃって。山田くんは…?」
「え、うそ大丈夫!?合流できそう??オレはクラスの奴らと…、…ってあれっ?いないっ!!」
「え、だ、大丈夫?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!集合場所決めてるんだ!『お前迷子になりそうだから先に集合場所決めておこうぜ』って最初に言われて…ヒドいと思わない!?」
「…ふっ、で、でも言われた通り迷子になってるじゃない(笑)」
「…!ホントだ…!」
「あははっ!(笑)」
目を見開いて、今気づきました!という顔をする山田を見て
思わず声を出して笑ってしまう。
と、その時、視界の端に、
自宅の鏡で浴衣を見ながら思い浮かべた色合いがかすめた気がした。
「澪~?今日は浴衣着るんでしょう?そろそろ着付けてあげるからこっちに来なさい。」
「わ、もうそんな時間!?ありがとう、お母さん!」
「…ふふふっ、今年は浴衣着ていくだなんて…もしや今日はデートなの?」
「ちっ、ちがうよ!女の子の友だちばっかりだよ!皆で浴衣着て写真撮ろうって言ってて…。」
「あら、なんだ~高校生になったら早速彼氏が出来たのかと思ってたのに。」
「…彼氏いたら夏休みこんなに毎日家にいないでしょ。」
「それもそうね。嫌だわ、せっかくこんなに可愛く産んであげたのに…ちゃんと青春楽しまないとダメよ?」
「はいはい、ありがとう!」
(ごめんね、お母さん。彼氏と花火大会に行ったのは去年です…)
この付近で1番大きな花火大会の日。
去年は、たまたま同じ日に杏寿郎の部活の練習試合があり、
澪はその応援に一緒に行っていた煉獄家の面々と
試合後にそのまま花火を見に行った。
もちろん試合を終えた杏寿郎も一緒だった。
今年も杏寿郎は家族と一緒に花火大会へ行くのだろうか…と考えながら、
もしかしたら誰か女の子と行くかもしれないとつい想像してしまって
ツキンと胸が痛むのを感じた。
今日の花火大会、澪はいろんな男子生徒から
直接的にしろ遠回しにしろ、誘いを受けたが
杏寿郎も同じようにたくさんの女生徒から声を掛けられただろう。
今年は練習試合の日ともかぶっていないことは風の噂で知っている。
そう、風の噂で。
高等部に入って、杏寿郎から声を掛けられた試合は春の新人戦の時だけだ。
それ以降、インターハイの予選も練習試合もあったが
特に声は掛けられなかった。
そもそも以前、応援に行っていたのも、
普段杏寿郎から練習の成果を聞く等といった、
話の流れから次の試合の予定を知り、
自然な会話の流れで応援に行くという話になっていたため
以前ほど細かに連絡を取り合うことがなくなった以上、
応援に行く機会がないのもまた自然なことであった。
右小手からの面を取りにいく時に
踏み込みがどうしても甘くなってしまうのが課題だと言っていたけど、
杏寿郎のことだからその課題ももうとっくに克服しているのだろう。
杏寿郎と話をするようになるまで、
剣道のことなど全く知らなかったのに
自分もずいぶんと詳しくなったものだ…と思う。
「…よし!はい、終わり!」
ぼんやり考えていたら、いつの間にか浴衣の着付けだけでなく
澪の母は髪までまとめてくれていた。
「うん、可愛い可愛い!ウチの子が1番可愛い!」
「何言ってるの(笑)親バカなんだから…。」
紺の地に、大きな赤い椿の柄が映える浴衣だ。
帯は椿のおしべの色に合わせた鮮やかな黄色で、
その色の組み合わせが誰かを彷彿とさせやしないか
ということに購入後自宅で戦利品を母に見せている時に気付いて
思わず赤面してしまった。
(全体は紺地がメインだし…皆別に変に思わないわよね。)
黒髪を染めることもなく、目はパッチリとしていながらも、
どちらかと言うと和風な顔立ちをしている澪に
浴衣はよく似合っていた。
せっかくなら浴衣に合わせて思いっきり大人っぽくしましょ
と少女のように張り切った母に赤いリップを塗られた澪は、
「は、派手すぎない…?」
と少し及び腰だったが、大丈夫、可愛いからみんな振り向くわよ!!
というまたしても親バカ全開の母に太鼓判を押され、
その勢いのまま家を出された。
「「「うわっ…」」」
「び、美の暴力…。」
浴衣美人、男が放っておかない、危険人物、と友人たちからも、
一部褒められているのやら微妙な評も混じっているものの、
総じて似合うと言ってもらい
明るいうちに…と皆でたくさん写真を撮った。
色合いについては誰からも何も言われなかったので
ホッと胸を撫で下ろす。
段々と込み合ってきた会場の中を、
屋台を見ながらそぞろ歩いていると辺りはいつの間にか暗くなっていた。
「食べるものはこんなもんでいいかな?」
「私、トイレ行っておきたいなぁ…。」
「あぁ、でも最早行列がすごくて打ち上げ時間までに終わるか微妙そうだよ…」
「…あ、イタっ!…うーん、もう人混みもどんどんやばくなるし、とにかく見る場所に移動しようか?ね…あ、あれっ?澪…っ?澪、どこ!?」
「えっ?澪いないの!?」
「さっきまで隣にいたのに…うそっ」
「澪――――っ!!」
(完全にはぐれてしまった…。)
皆で歩いていたはずが、前方から逆方面に向かう団体に押し流され、
どうにかこの流れから外れようと横へ横へ避けているうちに、
人垣で友人が全く見えなくなった。
携帯を出してみるも、この人混みのせいか接続が弱く連絡が取れない。
花火を見る場所も細かく決めていたわけではないので、
どこへ向かえばいいかも分からない。
(うーん…詰んでしまった…。)
えーん、まさかこのまま花火を1人で見る羽目になるの~?と少し泣きそうになる。
高校生にもなって情けないことだが、
少しばかり派手に見えるくらい気合を入れた浴衣姿であるからこそ、
1人でいることが心細くて仕方ない。
心なしか、じろじろと見られている気さえしてくる。
気のせいだとは思うけど…。
あーあ、せっかくなのに残念だけど…
もうこのまま帰ってしまおうか?
それとも皆と向かっていた方向にとりあえず歩いてみるべきか…
「瀬尾さん!?」
人の往来を邪魔しない隅っこで思い悩んでいると、
斜め正面からものすごい勢いで澪に声を掛ける青年がいた。
「?…あ。山田くん…。」
「うわぁっすっごい綺麗!びっくりしたー!すごい綺麗な人がいるなぁって思って見たら瀬尾さんだったから!」
「あ、えと…あ、ありがとう。」
「こんな所で会えるなんてめっちゃ嬉しい!浴衣姿、まじで綺麗!…て、あれっ!?瀬尾さんまさか1人??」
「ううん、友だちと来たんだけどちょっとはぐれちゃって。山田くんは…?」
「え、うそ大丈夫!?合流できそう??オレはクラスの奴らと…、…ってあれっ?いないっ!!」
「え、だ、大丈夫?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!集合場所決めてるんだ!『お前迷子になりそうだから先に集合場所決めておこうぜ』って最初に言われて…ヒドいと思わない!?」
「…ふっ、で、でも言われた通り迷子になってるじゃない(笑)」
「…!ホントだ…!」
「あははっ!(笑)」
目を見開いて、今気づきました!という顔をする山田を見て
思わず声を出して笑ってしまう。
と、その時、視界の端に、
自宅の鏡で浴衣を見ながら思い浮かべた色合いがかすめた気がした。