一年生
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9と3/4番線
ホームの隙間から差し込む陽の光を浴びて
深紅色に輝く、ホグワーツ特急と書かれた機関車が
定期的に蒸気を吐き出し、出発を今か今かと待ち侘びている
今日から新学期。
ホームは、ホグワーツの学生とそれを見送る保護者でごった返していた。
まだ幼さの残る新入生達は、パンパンに詰め込んだトランクを一生懸命持ち上げて、ヘトヘトになりながら汽車に詰め込んだり、両親と別れるのが嫌で泣き出してしまう子がいたり、それを横目に上級生達は要領良くコンパートメントを確保して、友人に会いにいったり、家族との別れを惜しんだりと、各々出発までの時間を過ごしていた。
そして、その中の1人にシオン・ガーネスはいた。
シオンは、早々に荷物をコンパートメントの中に詰め込んだあと、おじのグレイソンとおばのイブリンが2人の息子で、今年からホグワーツに入学するエリオットと別れの挨拶をしている隣で、全く興味がないかのようにその光景を見ていた。
度々、近くを通った家族らがシオン達を不躾に見たり、遠巻きに見ながらヒソヒソと話しているのを見かけた。
失礼極まりないが、シオンはそうなる理由を知っていた。
なぜなら、シオンが10年前の行方不明事件の当事者であり、2年前にガーネス家に引き取られてから一度も、外に出たことがなかったからだ。
ガーネス家には息子しかいない、そう知っている人ならば、ガーネス一家の側で佇んでいる少女こそが、例の女の子であると気付くのは容易い。
しかし、だからと言ってジロジロ見られるのも気分が良いものではない。
シオンは一切を無視することに決めた。
しかし、シオンは知らなかった。
見られる理由がそれだけではない事を。
肩まで伸びた艶やかな黒髪に、陶器のように白く滑らかな肌。伏せがちな目には長いまつ毛が影を落とし、その奥には深海の如く深い青色の瞳が隠れている。まだ幼さを残す顔立ちだが、その表情は憂いを帯びており、11歳らしからぬ雰囲気と遠目から見てもわかるほど整った容姿が、周りの人の注目を集めている大きな原因であった。
そうこうしている間に、グレイソンがエリオットに激励を送り、イブリンは息子の成長に感極まって、しばらくハグをしたまま離れなかったが、エリオットが嫌がり汽車に逃げ込んだ事で、ガーネス家の別れの挨拶は終了した。
イブリンは汽車に乗り込む息子に手を振り見送ったかと思うと、隣でボーッとしていたシオンの方に向き直った。
そして、
「良いですか、シオン。何度も言いますが、本来であれば貴女は入学できなかった身でした。しかし、ホグワーツ校長のご厚意と我が主君の尽力によって成り立った入学です。ガーネス家に感謝して、またガーネス家という自覚を持って勉強なさい」
と先程エリオットと話していた甘い声とは一変し、厳しい口調でそう言った。
エリオットとはあまりにも違う対応も、シオンにとっては慣れたものだったので、イブリンを生気のない目で見つめ返し
「はい、イブリンおばさま」
と答えた。
「それと、ガーネス家は代々レイブンクローの卒業生。ガーネス家の一員として必ずレイブンクローに入りなさい」
「はい、おばさま」
「わかったならば早くお行きなさい」
「はい、今回の入学を許可していただき誠にありがとうございます。おばさま達の期待に応えられるよう、励んで参ります」
と機械的に且つこの2年間で徹底的に教え込まれた貴族的な返答をした。
その返答が正解だったか不正解だったかはわからないが、眉間にグッと皺を寄せたイブリンは、そのまま無言で立ち去り、グレイソンのところへ戻っていった。
それを目で追っていたシオンは、その先にいるグレイソンがシオンを見ていることに気づいた。
実のところ、シオンはこのグレイソンという男が苦手だった。
グレイソン・ガーネスという男は、
見た目からして厳格が服を着て歩いているような男で、間違った事をすれば、息子のエリオットにも容赦しないような人だった。
しかし、シオンの事を、当主の役目を放棄した兄の子供として嫌悪するわけでもなく、無関心であるかと思えば、一族の反対を押し切ってホグワーツに入学させたのも、このグレイソンなのだ。
何か裏があるのではと疑いながらも、ガーネス家に引き取られてからの3年間、事務的な事以外会話が無かった為、その真意は掴めないでいる。
無表情で見つめるグレイソンに
イブリンおばさんのようにわかりやすい悪意を向けられた方がまだマシだな、と思いながらシオンはグレイソンにお辞儀をして、汽車に乗車した。
そして、荷物を積んだコンパートメントに座った所で汽笛が鳴り響いた。
出発の合図だ。
ほとんどの生徒が汽車に乗り込み、通路の窓から身を乗り出して、見送る人達に手を振っている。
ガタンと動き出した汽車に外の声が段々と小さくなっていった。
次第に駅が遠ざかって見えなくなったのか、通路に出ていた生徒がゾロゾロとコンパートメントへ戻ってくる。
従兄弟のエリオットもシオンと同じ部屋に荷物を置いていた為、戻ってきたが、シオンがすでに窓側に座っているのを見ると、聞こえるように大きく舌打ちをし、向かいの席の通路側にドカッと荒々しく座った。
「何で俺がこんな奴と一緒に…」
とエリオットがぶつくさ文句を言っているのが聞こえたが、いつも通りなので気にしない事にした。
シオンは窓枠に頬杖をつき、外の流れる景色を見ながら、
今よりマシな生活が出来ればいいなとちょっとした期待を胸に、ゆっくりと目を閉じた。
ホームの隙間から差し込む陽の光を浴びて
深紅色に輝く、ホグワーツ特急と書かれた機関車が
定期的に蒸気を吐き出し、出発を今か今かと待ち侘びている
今日から新学期。
ホームは、ホグワーツの学生とそれを見送る保護者でごった返していた。
まだ幼さの残る新入生達は、パンパンに詰め込んだトランクを一生懸命持ち上げて、ヘトヘトになりながら汽車に詰め込んだり、両親と別れるのが嫌で泣き出してしまう子がいたり、それを横目に上級生達は要領良くコンパートメントを確保して、友人に会いにいったり、家族との別れを惜しんだりと、各々出発までの時間を過ごしていた。
そして、その中の1人にシオン・ガーネスはいた。
シオンは、早々に荷物をコンパートメントの中に詰め込んだあと、おじのグレイソンとおばのイブリンが2人の息子で、今年からホグワーツに入学するエリオットと別れの挨拶をしている隣で、全く興味がないかのようにその光景を見ていた。
度々、近くを通った家族らがシオン達を不躾に見たり、遠巻きに見ながらヒソヒソと話しているのを見かけた。
失礼極まりないが、シオンはそうなる理由を知っていた。
なぜなら、シオンが10年前の行方不明事件の当事者であり、2年前にガーネス家に引き取られてから一度も、外に出たことがなかったからだ。
ガーネス家には息子しかいない、そう知っている人ならば、ガーネス一家の側で佇んでいる少女こそが、例の女の子であると気付くのは容易い。
しかし、だからと言ってジロジロ見られるのも気分が良いものではない。
シオンは一切を無視することに決めた。
しかし、シオンは知らなかった。
見られる理由がそれだけではない事を。
肩まで伸びた艶やかな黒髪に、陶器のように白く滑らかな肌。伏せがちな目には長いまつ毛が影を落とし、その奥には深海の如く深い青色の瞳が隠れている。まだ幼さを残す顔立ちだが、その表情は憂いを帯びており、11歳らしからぬ雰囲気と遠目から見てもわかるほど整った容姿が、周りの人の注目を集めている大きな原因であった。
そうこうしている間に、グレイソンがエリオットに激励を送り、イブリンは息子の成長に感極まって、しばらくハグをしたまま離れなかったが、エリオットが嫌がり汽車に逃げ込んだ事で、ガーネス家の別れの挨拶は終了した。
イブリンは汽車に乗り込む息子に手を振り見送ったかと思うと、隣でボーッとしていたシオンの方に向き直った。
そして、
「良いですか、シオン。何度も言いますが、本来であれば貴女は入学できなかった身でした。しかし、ホグワーツ校長のご厚意と我が主君の尽力によって成り立った入学です。ガーネス家に感謝して、またガーネス家という自覚を持って勉強なさい」
と先程エリオットと話していた甘い声とは一変し、厳しい口調でそう言った。
エリオットとはあまりにも違う対応も、シオンにとっては慣れたものだったので、イブリンを生気のない目で見つめ返し
「はい、イブリンおばさま」
と答えた。
「それと、ガーネス家は代々レイブンクローの卒業生。ガーネス家の一員として必ずレイブンクローに入りなさい」
「はい、おばさま」
「わかったならば早くお行きなさい」
「はい、今回の入学を許可していただき誠にありがとうございます。おばさま達の期待に応えられるよう、励んで参ります」
と機械的に且つこの2年間で徹底的に教え込まれた貴族的な返答をした。
その返答が正解だったか不正解だったかはわからないが、眉間にグッと皺を寄せたイブリンは、そのまま無言で立ち去り、グレイソンのところへ戻っていった。
それを目で追っていたシオンは、その先にいるグレイソンがシオンを見ていることに気づいた。
実のところ、シオンはこのグレイソンという男が苦手だった。
グレイソン・ガーネスという男は、
見た目からして厳格が服を着て歩いているような男で、間違った事をすれば、息子のエリオットにも容赦しないような人だった。
しかし、シオンの事を、当主の役目を放棄した兄の子供として嫌悪するわけでもなく、無関心であるかと思えば、一族の反対を押し切ってホグワーツに入学させたのも、このグレイソンなのだ。
何か裏があるのではと疑いながらも、ガーネス家に引き取られてからの3年間、事務的な事以外会話が無かった為、その真意は掴めないでいる。
無表情で見つめるグレイソンに
イブリンおばさんのようにわかりやすい悪意を向けられた方がまだマシだな、と思いながらシオンはグレイソンにお辞儀をして、汽車に乗車した。
そして、荷物を積んだコンパートメントに座った所で汽笛が鳴り響いた。
出発の合図だ。
ほとんどの生徒が汽車に乗り込み、通路の窓から身を乗り出して、見送る人達に手を振っている。
ガタンと動き出した汽車に外の声が段々と小さくなっていった。
次第に駅が遠ざかって見えなくなったのか、通路に出ていた生徒がゾロゾロとコンパートメントへ戻ってくる。
従兄弟のエリオットもシオンと同じ部屋に荷物を置いていた為、戻ってきたが、シオンがすでに窓側に座っているのを見ると、聞こえるように大きく舌打ちをし、向かいの席の通路側にドカッと荒々しく座った。
「何で俺がこんな奴と一緒に…」
とエリオットがぶつくさ文句を言っているのが聞こえたが、いつも通りなので気にしない事にした。
シオンは窓枠に頬杖をつき、外の流れる景色を見ながら、
今よりマシな生活が出来ればいいなとちょっとした期待を胸に、ゆっくりと目を閉じた。
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