生き残りの私達
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鳴海が部屋に何かを取りに行く間、麦わら一味とアルベルとの間に微妙な空気が流れる。
その沈黙を破ったのはロビン。
「本当に、もう行くの?」
「あぁ。もともと船に長居するつもりはねぇ。」
「鳴海は、もっと貴方と居たいんじゃないかしら。」
そう言うロビンにサンジが残念そうに言う。
「んな!! ロビンちゃんまで!!」
「でもそうだぞ! 鳴海、ずっとお前のこと心配してたんだ! 会えて嬉しいはずなのに、すぐにまた別れるのか!?」
チョッパーがアルベルに近寄って言う。
「どうも元敵だった奴らの船ってのは居心地が悪くてな。」
アルベルはフッと笑いながら言った。
ーー言葉とは裏腹に、彼はリラックスした様子で座っているが。ーー
そして再び話し続ける。
「それに、別に俺は鳴海を奪いに来た訳じゃねぇ。」
「でもオメェ、アイツのこと好きだからここまで来たんだろ?」
ルフィのまっすぐな言葉に、グッと言葉を詰まらせるアルベル。
そこに、何かを取りに行っていた鳴海が戻ってくる。
その頬の涙はもう乾いていた。
彼女はアルベルに近寄ってあるものを手渡した。
「はいこれ。」
「これは……。」
「私の電伝虫につながる子電伝虫! それと、ビブルカード! あと、今日泊まる宿くらい言ってけよ、この馬鹿アル!!」
「……!! フハッ。」
アルベルは眉を下げて笑った。
「あぁ、悪い。」
そう言って彼女から子電伝虫とビブルカードを受け取る。
「だが今日泊まる宿はまだ決まってねぇ。」
「じゃあ、宿見つけたら連絡して! 絶対! 今夜行くから!」
「え"〜〜〜!! そんなぁ鳴海ちゃ〜〜〜ん!!」
叫ぶサンジを尻目に、アルベルは頷く。
「あぁ、分かった。」
「ったく。分かったなら、行ってよし!」
「またな、鳴海。」
彼はグリグリと鳴海の頭を撫でると、マントのフードを目深に被り、船を飛び立った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜。
皆で食事をしている最中に私の電伝虫が鳴った。
食卓に電伝虫を持ってきておいてよかった。
「もしもし、鳴海だけど。」
私が電伝虫に出るのなどお構いなしに皆それぞれの話をしている。
『俺だ。宿が決まった。西の街にあるスティーブスというホテルだ。』
ドレスローザの西の街はここからさほど遠くない。
飛行していけば10分もかからず着くだろう。
「了解。今食事中だから、食べ終わってから準備して……1時間半後には着くと思う。」
私は到着予想時間を余裕を持って伝える。
『分かった。302号室だ。間違えるなよ。』
「オーケー。じゃあ、あとでね。」
『あぁ。』
ガチャリ。
そして再び食事にありつこうとした時だった。
ナミがこちらをニヤリと見ながら言う。
「朝帰りでも良いのよ?? 鳴海??」
「んな"!!! 何てこと言うんだ、ナミさん!!!」
サンジがガタリと立ち上がる。
「良いじゃねぇか、朝帰りくれぇ。良い大人なんだからよぉ。」
フランキーが言う。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。」
私が笑ってそう言えば、サンジは椅子に倒れ込む。
「そんなぁ……鳴海ちゃんが……俺の…俺の鳴海ちゃんが、朝帰り……??」
賑やかな食事を終えると、私は女部屋に戻りバッグに簡単に荷物を詰めて行く。
変えの下着を入れていくのは、さすがに泊まる気満々で引かれるかな??
でも、もしも本当に泊まることになったら、同じ下着じゃあアルベルに不潔だと思われるし。
えぇ、どうしよう。
悶々としていると、ロビンが部屋に入ってきた。
「あら、どうしたの? そんなに考え込んで。」
「ロビン……いやね、下着を持ってくのを……どうしようかと……。」
ロビンはきょとんとした顔で言う。
「どうって、あなた今日泊まってくるんでしょ?」
「いや、泊まりたいけど! アルからしたら迷惑かもしれないし! 下着持ってって泊まる気満々って思われたらヤダし! だけどもしほんとに泊まるってなったらーー」
「ふふふ。もうすっかり恋する乙女ね。」
「ロビン〜、もう乙女って歳じゃないのよ私〜。」
私は頭を抱えてその場に蹲る。
「良いじゃない、泊まる気満々でも。彼、嬉しいと思うわよ?」
そう言いながら彼女は私のそばに来て肩にポンと手を置く。
「そう……かなぁ……。」
「えぇ、きっとそうよ。」
「じゃあ、とりあえず持ってく……。」
「ふふふ、それが良いわ。」
結局、下着とメイク道具一式をバッグに詰め込んだ。
今日買った背中の開いた可愛いワンピースでアルベルに会いに行くのが、何だか恥ずかしい。
でも、ラフな格好で行って色気がないって思われるのも嫌。
そうよ。さっきだってこの格好で会ったんだもの。
この服で行くのが自然よね。
うん、そうだよ。
私は自分に言い聞かせて、ロビンとナミ、それから船長のルフィにも一応声をかけて船から飛び立った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
スティーブスというホテルに着き、フロントに声をかける。
「すみません、302号室に行きたいんですけど。」
「あぁ、お連れ様ですね。こちらが鍵になります。」
どうやら私が来ることを彼らは知っていたらしい。
鍵を受け取って、私は3階へ向かう。
階段を上がり、すぐのところに302号室はあった。
少しだけドキドキとしてきた。
密室でアルベルと2人きり……。
なんだか邪な気持ちになってくる。
いやいや、今日は夜な夜な募る話をして終わるかもしれないし!
そう思いながら、意を決してコンコンとノックをした。
しばらくすると、ガチャリと扉が開く。
「来たか。入ると良い。」
アルベルは微笑みながら言う。
「ありがとう。」
言いながら部屋に一歩踏み入り、部屋を見渡す。
そこで私はあることに気づく。
「2人部屋……。」
「ん? そりゃあな。今日、泊まってくだろ?」
ニヤリと笑いながらこちらを見るアルベル。私はしばし呆気に取られながらも、なんとか小さな声で返事をした。
「………泊まってく。」
何故か負けた気持ちになりながらも、奥のベッドに荷物をどさりと置いた。
「私、こっちのベッドね。」
「クク。あぁ、良いぜ。」
ここのホテルは長身の種族にも対応しているようで、6メートル以上の大きさのベッドが2つくっついて並んでいる。
アルベルは冷蔵庫からお酒を出して言った。
「飲むだろ?」
私は少し悩むも、うなずく。
「少しだけ。」
ほらよ。そう言いながら彼は私に小さい方の瓶を投げて寄こした。
それをキャッチして、アルベルが先に瓶の蓋を開けるのを待つ。
彼は右手を失ったというのに、器用に左手で瓶を開けて見せた。
オープナーを使った彼が、今度はそれを再び投げて寄こす。
私も再びそれをキャッチして瓶の蓋を開けた。
私がオープナーをベッドの前のテーブルに置くと、アルベルは私のそばに寄り、ベッドに座らず床に座って私に向き直った。
カチンと瓶と瓶をぶつけ合って、そのままグビっと一口飲む。
私はチラリとアルベルを見上げる。
彼はグビグビといい飲みっぷりをしていた。
「……一緒にお酒を飲めるようになって、嬉しい。」
私は素直に思ったことを口にする。
彼はぷはっと瓶から口を離すと、ふっと笑って言う。
「あぁ。昔はガキだったからな。お互い。」
「お酒なんて飲める環境でもなかったしね。」
昔を思い出し、しばしの沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのはアルベル。
「ドレスローザにはどれくらい滞在する?」
「1週間よ。」
「そうか。」
彼はお酒を口に含み、それを嚥下すると再び口を開く。
「知ってたか? 俺たちが脱出したあの時の研究施設の騒動、実はあそこに実験体として入れられていたカイドウさんの仕業だったんだぜ? 侵入者なんかじゃなくてな。」
「え、そうだったんだ。」
私は意外な事実に驚き、アルベルを見る。
「あぁ。あの後、カイドウさんについて行くと決めた俺はお前を島中探し回った。でもどうしても見つけられなくてな。結局海に逃げるしかなかった。悪かったな。」
「謝る必要なんてないよ。今こうして会えてるじゃない。」
「まぁ、な。」
私の言葉に、アルベルは含みを持たせて答える。
その含みが気になって、私は彼に問う。
「何よ?」
「いや。ただ、もっと早く会えていたら……と思っただけだ。」
それについてはお互い思うところあるだろう。
自然と少々重たい沈黙が流れた。
その空気を破るため、私は口を開く。
「私はね、あの後空を飛んで逃げたの。無我夢中で飛んでたら、いつの間にか太陽を克服してた。で、ドラム王国っていうところに身を隠させてもらったの。そこが案外居心地が良くてね、30年も居座っちゃった。」
「ふ、そうだったのか。ドラム王国に居たとは盲点だった……通りでなかなか見つからなかったわけだ。」
アルベルは困った顔で、肩をすくめた。
「ふふ、今はサクラ王国と名前を変えてるけどね。」
「あぁ、そうだったな。」
そう言ってグビっと一口お酒を飲むと、その瓶をテーブルに置き、改まって私に目をやる。
「鳴海。あの日、俺を島から連れ出したのはカイドウさんだ。だが、あの時俺の拘束具を引きちぎって俺を銃弾と瓦礫から守り、逃がしてくれたのは、他でもないお前だ。俺はお前に恩がある。」
彼はまっすぐにこちらを見て言った。
「恩なんて……大袈裟だなぁ。たまたまそうなっただけじゃない。」
ヘラリと笑って言えば、それを否定するかのように即座に彼が口を開く。
「いや、恩だ。カイドウさんにも感謝はしているが、そもそもお前がいなかったら、俺はあのまま焼け死んでいたかもしれない。」
「天下のルナーリア族はそんな簡単に死なないよ。」
「そんな事はない。あの日の俺の耐久実験の火力はそれまでと一線を超えていた。あのままでは危なかったのは確かだ。」
一呼吸つき、アルベルが優しい瞳で私を見つめる。
それはまるで、恋人に向けるようなそれで。
私の胸はドキリと高まる。
「俺はお前に救われたんだ。脱出した時だけじゃねぇ。あそこに入れられて、初めて同じような希少な種族に出会い、お前と触れ合い、俺の心はずっとお前に救われていた。」
その言葉に涙が出そうになる。
「そんな事言ったら、私だってそう。アルの存在に救われてたよ。」
私も声を震わしながら言う。
彼はふわりと笑うと、私の頬をその大きな手で撫でた。
「……なぁ。また、キスしていいか?」
私は頷く。
「うん。して。」
ーー昔みたいに。ーーその言葉は彼のキスによって飲みこまれた。
彼は背中を丸め、ベッドに座る私に噛み付くように私にキスをする。
2人の間には空間が空いていて、その距離すらもどかしい。私は立ち上がるとテーブルに酒瓶を置き、アルベルの側による。
座った彼と、立ち上がった私。
これで2人の顔の高さは同じくらい。
私はアルベルに寄り添ってその首筋に手を回した。
するとまたしても彼の方から熱烈なキスの嵐がやってくる。
彼と舌を絡めていると、だんだんと下腹部が熱を帯びて疼き出す。
昔からそうだった。
アルベルとのキスは、まるで私をその気にさせる魔法のようだ。
彼は一旦私の唇から自身のそれを離すと、ニヤリと悪い顔でこちらを見る。
「知ってたか? ルナーリア族の唾液には、催淫作用があるんだぜ?」
「さい、いん……。」
言葉を理解するのにしばらくかかる。
「え、そうなの!?」
「くくく、その様子じゃあ知らなかったようだな。」
「えぇ。まぁ。」
驚きの新事実を聞き、私の中で今までの事に納得がいく。
「はぁ、どうりで。」
どうりで彼とのキスは刺激が強かったのだ。
「ふ、お前、いつも途中でキスやめたがったもんな?」
「なっ!」
その言葉はまるで、私の心を見透かしているようで。
いや、きっと全て分かっているのだろう。
昔、私が欲にどうにか抗っていたことも、今まさにそうしている事にも。
何だか自分が恥ずかしくなり、顔に熱が集まるのが分かる。
アルベルはわたしのその顔を見て、クツリと笑った。
「まぁ、催淫作用は俺が興奮しねぇと作用しねぇんだがな。」
「……!!」
それはつまり、毎回私が興奮して欲を我慢していたように。
彼も私に興奮してくれていだということだろうか。
それは凄く嬉しい。
彼は私の頬を撫でながら、私を見つめ、ふと視線を下に逸らした。
そして戸惑いがちに言う。
「……なぁ、罪を犯した俺を、許せとは言わねぇ。俺がお前に向けるのと同じだけ俺を想えとも言わねぇ。ただ、もっとお前に触れさせてくれよ。この島に居る間だけで良い。……俺を……拒まないでくれるか?」
それはまるで、夜の誘いのような台詞。
私はドクリと胸が高鳴る。
そしてゆっくりと頷いた。
「……うん、良いよ。拒まない。」
その言葉に、アルベルは心底安堵したような表情を浮かべる。
再び私たちはどちらからともなくキスをした。
さっきよりも体を密着させて。
アルベルの大きな舌が私の口内にねじ込まれ、深い深いキスをした。
そうしてその夜、私たちは会えなかった何十年分の時を埋めるかのように、何度も体を重ねるのだった。