【短編集】
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麦わらのクルーとしてワシより長く船に乗っている彼女は、強い人間の女だった。
最初は勇ましく戦う姿を頼もしく感じた。
しかし、ある日。皆が寝静まった後に、彼女が甲板で1人泣いているのを偶然見つけてしまったのだ。
いつもの勇ましい姿はどこへやら。
膝を抱えて縮こまる後ろ姿に、こんなにも小さかったのかと驚いたわい。
聞けば、どうやら彼女は平和な世界から来たらしく、本当は戦いになど慣れてはいないらしい。
どうにか慰めようとしたワシを、彼女は最初は拒絶した。"こんな姿誰にも見られたくはない"と。だから"あっちへ行って"くれと。
しかしワシはどうにもほっとけんかったんじゃ。
その小さな背中を。
それからだ。ワシが彼女をただの仲間として見れんくなったのは。
あの笑顔を守りとうて、守りとうて、仕方がない。
この命、ルフィを海賊王にさせるために使うと誓った。
しかしそれと同じくらい、この命を彼女を守るために使いたいと思うほど、ワシはーー。
*
とある島に到着した麦わらの一味は、久しぶりの陸におおはしゃぎじゃった。
各々が島を楽しみ、自身の用事を済ませて船に戻ってくる。
しかしその日、夜中になっても彼女は帰ってこんかった。
さすがに嫌な予感がしたワシらは皆で彼女を探すことにした。
ワシは島の住人に聞き込みを開始する。
すると、島の中心部にある研究施設に怪しい男と入っていくのを見たと言う住人がおった。
それを仲間に電伝虫で伝え、ひと足先に研究所へ駆けつける。
その研究所の中でようやく彼女を見つけた時、既に彼女は地にへたり込んだ状態じゃった。
「大丈夫か!! 何があった!!」
ワシがそう問いかけても無反応。
その顔色は絶望した人間のそれだ。
しかし彼女の澱んだ瞳は、どうにか敵を映しておった。
「お前さん、一体何者じゃ!」
ワシは敵に殺気を放ちつつ、問いかける。
「ハハハ! 俺はメカメカの実を食べた兵器人間! そして俺は科学者でもある! この卓越した頭脳を使い、女の世界へ干渉する兵器を作ることに成功した! 俺はこの女が欲しい! しかしコイツは俺のものになるのを拒んだ!」
男は一呼吸おき、話し続ける。
「だからこの女の居た世界の、全ての人間を人質にした。」
「何じゃと!?」
「俺に逆らえば、女の居た世界を跡形もなくすほどの兵器を落とす。」
男は狂気的に笑って言う。
「さぁ、どうする? 家族も、友も、思い出の場所も無くなるぞ!!!」
「貴様ぁ……! 卑怯な手を……!」
「ジンベエ……。」
そのか細い声を聞き逃さんかったワシはチラリと彼女を見る。
「私、どうしたら良い? どうしよう……っ……ジンベエェ……うぅ……。」
彼女は泣きながらワシを見上げる。
その瞳からはボロボロと涙がこぼれ落ちる。
そして彼女はワシの着物の裾を掴んだ。
流石のワシも、自分の中で何かがブツリと切れる音がしたわい。
しかしそれを押し殺し、出来る限り彼女に視線を合わせてしゃがむ。
そして彼女の頬に伝う涙を指で優しく拭う。
「大丈夫じゃ。ワシにまかしておけば問題ない。」
努めて優しく話しかけ、着物を掴む小さな手をゆっくりと引き剥がす。
そしてワシの羽織を震える彼女に羽織らせた。
立ち上がったワシは、敵をでき得る限りの殺気を込めて睨み付ける。
「聞くがのう。その、世界を跡形もなくすほどの兵器とやらのスイッチはどこじゃ。」
「隣の部屋だ。」
男は左側を指差しながら言った。
「そうか。なら問題ないわい。」
「何?」
男がやや狼狽えた。
ワシは間髪入れず前方に向かって技を繰り出す。
「"五千枚瓦生拳"!!!」
「なっ……ぐぁあぁあぁ!!!」
*
奴を倒した後、クルーの皆も彼女を助けに研究所へやってきた。
ウソップが住民に頼んで、ことの顛末を海軍に連絡させた。
もちろん男の身柄は拘束し、研究所のシステムは全てシャットダウンさせた。
これで世界をなくす兵器とやらも使えまい。
ログは溜まった。じきに海軍が男を捕まえにくるだろう。その前にワシらは出航せねばならない。
しかし未だ自身のいた世界を思い不安がる彼女をワシは抱き抱えた。
彼女はその行動に戸惑いの表情を浮かべる。
「ジンベエ……?」
「大丈夫じゃ。あの男はもう動けんじゃろう。ここのシステムもサンジがダウンしてくれた。もう大丈夫じゃ。」
ワシの言葉に、再び涙をこぼす彼女。
「ジンベエ……、助けに来てくれてありがとう……。」
「何、当たり前の事をしたまでじゃ。お前さんが無事で本当に良かった。」
言いながら、彼女を抱き寄せる力をそっと強める。
それに応えるように、細い腕がワシの着物にしがみつく。
「……さ、ワシらの船に帰るぞ。」
「うん。」
ワシはサニー号に着くまで彼女を抱き抱えて歩いた。
そして船に着き彼女を離すとき、とてつもない名残惜しさを感じるのだった。
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