8ヶ月目
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翌朝。目が覚めて、私は夢の内容をネジに報告した。
彼はいつも通り冷静に私の話を聞き、綱手さんに報告に向かった。
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その日の夕食作り。
私は元の世界に戻れる可能性をとりあえず頭の隅に追いやり、料理作りに精を出していた。
なぜなら今日はネジの誕生日だからだ。
この前なんとなく聞いてみたら、何と今日だというではないか。
いつもお世話になっているのだし、それなら何かしなくては。
そう思い、最初はプレゼントを考えた。
しかし彼が喜ぶものが何なのかよく分からない。
だから結局、いつもより豪華な料理とデザートでも作ろうという結果になったのだ。
まぁ、綱手さんから借りているお金で買った食材だから私からのお祝いというには少し無理もあるが。
しかし要は気持ちの問題だ。そう、気持ちが大事なはずだ。
そう言い聞かせながら料理を作り進めていく。
「俺の誕生日だからって、そんなに手の込んだものを作らなくてもいいんだぞ。」
ふとネジの声が聞こえる。
彼はキッチンの入り口にもたれてこちらを見ていた。
「またには良いじゃん。こういう日くらいさ。それにメインはニシンそばだから、そんなに凝ってるわけじゃないよ。」
「だが、その副菜の量……今日だけで食べ切れるか?」
そう、メインはニシンそばだが、それ以外のおかずをたくさん作っているのだ。
ネジは作られたそれらを見ながら困ったように笑った。
「いいの、いいの! 余ったら明日食べれば良いんだし。 ちなみに今デザートも作ってる!」
「まだ増えるのか。これは消費が大変そうだな。」
彼は言いながら微笑んだ。
「あっちで待ってて! もうすぐ出来るから!」
「……あぁ。」
ネジは頷くも、まだこちらを見ている。
「どうしたの?」
「……いや、何でもない。」
そう言うと、彼は振り返って茶の間の方へ行く。
その横顔が一瞬気落ちしたように見えたのは気のせいだろうか。
「……?」
私はネジを追おうか迷いつつも、今は手の離せない作業をしている事を思い出しそれを踏みとどまる。
「(料理じゃあんまり嬉しくなかったかな…。)」
そんな事を思いつつ、デザート作りを続けた。
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「いただきます。」
そう言ってニシンそばに手を伸ばすネジ。
彼はニシンを箸でほぐし、それと一緒にそばを口に運ぶ。
「どう?」
ニシンそばなんて初めて作ったものだから、わたしは彼の反応が気になる。
「あぁ。美味い。」
「良かった〜。」
一応その言葉に安心する。
きっとお店のものと比べると味は劣るだろうが、それでも食べれるのなら良かった。
私も箸を持ってニシンそばにありつく。
うん、悪くない。
普通に美味しいと思う。
そのほかのおかずも特に失敗はしてないようだし、まぁお祝い成功と言っても良いのではないだろうか。
そんな事を思いながら箸を進めていると、ふとネジが箸を置く。
まさか美味しくないものでもあったのだろうかと、私は焦る。
しかし、彼は私を見て柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。いつも料理を作ってくれて。」
「どうしたの、急に。」
その改まった姿勢に私まで思わず箸を置く。
「いや、ただ伝えたいと思っただけだ。お前の料理は嫌いじゃない。鳴海がこちらに来て何年かぶりに誰かと食卓を囲んだが、やはり良いものだな。」
ネジの言葉にしんみりした空気になってしまう。
彼はきっと私には計り知れないほどの寂しさと悲しさを抱えているのだろう。
いつもは気丈に振る舞っているけど、まだ少年の彼も、もしかしたら1人の夜に押しつぶされそうになる時があるのかもしれない。
そう思った私は冗談まじりに彼に問う。
「ネジ。今日一緒に寝てあげようか?」
私はてっきり"ふざけるな"と一括されると思っていたのだが、彼の反応は予想外のものだった。
「……あぁ、それも良いかもな。」
何と微笑みながら言うではないか。
「……えっ、……へ!? ちょっ、冗談だったんだけどな……。」
逆に焦ってしまった私に彼はクツクツと笑う。
「分かっている。」
そして、再び箸を持った。
「さぁ、早く食べるぞ。せっかく作ってくれた蕎麦が冷めたらもったいない。」
「え、あ。うん。」
そうして、2人で雑談なんかをしながら料理を食べ進めていく。
思ったよりもネジはこのお祝いに満足してくれたようで、良かったと思う。