気付いたら、私はいつもの夢の中にいた。

「よぉ。やっと話せるようになったか？」

「……！　貴方は……？」

以前と違い、今度はこちらからも話しかけられるようだ。
私は目の前のマッシュヘアの男性に問いかける。

「俺は高槻悠人。お前と同じ高槻一族の末裔だ。」

「……！」

私は驚く。私以外にも、高槻一族の末裔がいたなんて。

「お前に一つ、謝らなければならないことがある。」

唐突な悠人の申し出に疑問符が浮かぶ。

「謝るって？」

「お前を電車が迫るホームに突き落としたのは俺だ。」

「！！」

それを聞き、彼が敵なのか味方なのか分からなくなってくる。

「……なぜ、そんなことを？」

私は彼に問いかける。

「話せば長くなる。ここでの時間は無限にある、まぁ、ゆっくり行こうや。」

その悠長な様子に、若干拍子抜けする私。

「高槻一族が、自分たちの能力を危険と判断しこちらの世界に身を隠していたことは、お前も知っているな？」

「知ってる。」

私は頷きながら言う。

「実は高槻一族の末裔をそっちの世界に戻す日時は決められていた。未来が見えていたガクガンが決めていたことだ。」

「……！　日時が決められていたって……そんな事可能なの…！？」

「あぁ。何十年と先を見ることのできたガクガンならではだな。それは俺の家系で代々伝えられてきた。しかしその事実を病に侵された親から聞かされた時、同時に俺は自分が異世界へ行くほどのチャクラ量を持っていなかったことを知ったんだ。自分で行くことが叶わないと判断し、代わりに大量のチャクラを有したお前をなんとか見つけ、あちらへ行ってもらうことにした。」

「……。」

「これがお前の問いへの答えだ。」

話を聞き、さらなる疑問が浮かんでくる。

「どうして……。」

「ん？」

「どうして私だったの？　チャクラをたくさん持っていたから？」

悠人は少し何かを思い出すような素振りをし、話出す。

「……。高槻の末裔がそっちに行く約束の日を、俺が親に聞かされたのは、約束の日のちょうど１０年前だった。だから１０年かけて日本中を探し回ったよ。高槻の家系の者を。……その上で言うが、恐らく高槻の末裔は俺とお前、2人しか残っていないという結論に至った。」

「……そう。2人しか残っていないから、少しでも異世界へ行ける可能性のある私を選んだ。」

「と、いうより、選ばざるを得なかった、という感じだな。しかもお前を見つけたのは約束のその日、当日だった。」

その言葉に私は驚く。

「当日！？　私が言うのもなんだけど……よく見つけたね……。」

「だろ？　俺も半分はもうダメかと思ってたよ。当日だったから説明もろくにできず、お前の火事場の馬鹿力に頼るしかなかった。悪い。」

「そうだったんだ。……でも、よく諦めなかったね、１０年も。いくらご先祖が残した遺言だったとしても…、私だったら諦めてたかも。」

「まぁ、な。……俺の嫁が言ったんだよ。俺にどこかの誰かを救える可能性があるなら、やるべきだと。」

やや照れながら言う悠人。

「…そっか。」

なんだか悠人という人間の人となりが少し分かった気がした。

「それと、もう一つ。今日はお前に言いたいことがあってここへ来た。前の話の続きだ。」

「……！　それって！　私が元の世界に帰れるっていう！？」

「そうだ。お前の莫大なチャクラ量なら、ギリギリ2回まで"飛飛万象（ひひばんしょう）・改（あらため）"を使える可能性が高い。」

聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。

「飛飛万象、あらため……？」

「つまり異世界を渡ることだ。」

「それじゃあ…！」

「あぁ。そっちの世界で役目を果たして、戻ることも出来る。ただ、リスクもある。"飛飛万象・改"はその副作用で10歳若返る。今のお前より、更に10歳若返る可能性も否めない。」

さらに10歳若返るということは、9歳ということになる。
かなり大きなリスクだ。
その状態で元の世界に戻っても、家族や友達が受け入れてくれるだろうか。

思考する私に、悠人は話し続ける。

「それに今まで2回も"飛飛万象・改"を使った者がいないため、それ以外の何らかの反動があるかどうかも分からない。それを知った上で、これからどうするか決めると良い。」

私は思わず黙り込む。

「お前にそれだけ言いたくてな。ようやく夢の中で会話出来るようになって良かったぜ。」

ふと彼の言葉に、今まで思っていた疑問を思い出す。

「そういえば、そもそもこの夢の空間は一体何なの？」

「あぁ、俺たち高槻一族は時空間忍術を得意としてるだろ？　"お前の夢の中"という時空間に俺のチャクラを送って話をしてるんだ。俺がお前とコンタクトを取るためにどうにか編み出した新技だ。」

話を聞く限り、彼もたくさん努力してくれていたのだろう。

「そうだったの。……その、なんかありがとう……。貴方も、大変だったんじゃない？」

「まぁな。つか、悠人でいいぜ。高槻の生き残り同士、仲良くやろうや。また何か分かったら夢で連絡する。」

「うん、ありがとう、悠人。」

悠人は私の言葉に微笑みながら手を上げると、パッと消えて居なくなった。