6ヶ月目
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その日、私はネジと共に綱手さんに呼ばれていた。
なんでも高槻一族の古い書物が書庫から出てきたらりしく、その内容の一部を私に伝えたいのだという。
「改まって会いに来いなんて、いったいどんな内容なんだろうね。」
私はネジに問う。
「会いに来させるということは、それなりに重要なことなのだろう。とにかく、行ってみれば分かることだ。」
それに頷きながら、火のマークの建物目指して歩いた。
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「は?」
私は呆然として、気の抜けた声を出した。
「すまない。」
綱手さんは深刻な顔つきで私に誤った。
ネジがこちらを横目で伺いながら、綱手さんに問う。
「一度異世界へ渡った高槻一族の者は、もう2度と異世界へ渡る事が出来ない……。つまり、彼女はもう元の世界には帰れない……と、いうことですか?」
「そういうことだ。」
その言葉に私は絶望に近いものを覚えた。
もう戻れない。
いったいどうして。
綱手さんが何かを話しているが全く耳に入ってこない。
私の家族とはもう会えないの?
友達は元々多いほうじゃなかったけど、それでも彼女達とももう2度と会えないの?
そんなの辛すぎる。
さよならも言えないまま一生のお別れだなんて。
今まで元の世界に帰ることだけを励みに辛い修行に耐えてきた。
でも元の世界に帰れないんじゃあ、いったい私は何のために頑張ればいいの。
どうしてこんな辛い思いをしてまで、この世界のために強くならなきゃいけないの。
もう、何もかもがわからない……。
それから、私は気づきたら日向家へ戻っていた。
どうやってここへ帰ってきたのかもあまり覚えていない。
ご飯を食べるいつものちゃぶ台の前でぼーっと座る。
ネジがお茶を淹れてきてくれたらしい。
心配そうにこちらを伺っている。
「大丈夫か。」
そう言いながら、私の左隣に座った。
いつも対面で食事をしているから、これは珍しいことだ。
彼なりに私をどう励まそうかと考えてくれているのかもしれない。
「ネジ…どうしよう。これは……思ったよりキツイかも……ははっ。」
私は無理に笑顔を作って泣きそうなことを誤魔化す。
「……笑うな。」
ふとネジがつぶやいた。
「無理して笑わなくていい。辛いなら。」
彼は私の肩に手を置いてそう言った。
私はその言葉に、思わず涙腺が緩む。
あまりの心細さにどうにかなってしまいそうだ。
ネジの手が私の肩から離れる。
私はほぼ無意識に、その手を名残惜しむように掴んでしまう。
ネジがピクリと動いた。
しかし振り払う素振りはない。
涙はとめどなく溢れてきていた。
左手に感じるネジの手の温もりが、ついに私の本音を曝け出させた。
「……私…寂しい…! もう家族と……会えないっ……っ!」
むせび泣く私の頭を、ネジが自分の肩へと誘導させた。
私は一瞬ためらうも、彼の優しさに少しだけ甘えてしまいたくなった。
「……ありがとう、ちょっとだけでいいから。もう少しこうさせて。お願い。」
私は懇願するようにネジに言う。
「別に、少しじゃなくても、いい。……お前にとって必要なら、好きなだけこうしていろ。」
彼は顔を反対側に向け、少々照れた素振りを見せながらも優しく私に言った。
「ありがとう。」
私は言いながら、彼に身を寄せた。
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どのくらいそうしていただろう。
気付けばあたりは暗くなっている。
「少しは落ち着いたか?」
「……うん。」
そう答えたものの、私はネジの温もりから離れがたい気持ちになる。
「そうか。……今日の晩飯は外で食べるか。」
「……うん、ごめん。」
「気にするな。」
身を寄せ合ったまま会話をする。
いい加減もう甘えるのはよさなくては。
そう思い、名残惜しい気持ちを抑えて私は彼の肩から頭を持ち上げた。
寄せ合っていた体も離れ離れになる。
私は、また心細さに襲われそうになった。
2人の間に沈黙が流れる。
ふと、私は数週間前に見た予知夢を思い出す。
「あ。」
「……? どうした?」
私のあげた声にネジが疑問符を浮かべる。
「前に、ネジとこうして近づく予知夢を見たんだった、と思って。」
「……そうか。」
そう言って、またネジは黙り込む。
「ご飯、食べに行こっか。」
私の一言で、2人はいつも通りの距離感に戻るのだった。