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その二

「年が明けたら、母さん働くわ。」

年末を前に混乱する闘竜寺をよそに母の実家は早くも落ち着きを取り戻していて、何か吹っ切れたような母はすでにこの先を考えて来年から働き始めると言い出している。

それというのも両親はこの先の生活費について何一つ話し合ってなく父から生活費を渡すこともなければ、母から要求することもしてない。

まあここでお金を気遣うような父ならばこんな事にはなってないだろうし、母もこれ以上は父と話す気がないらしい。

離婚すればかおりの養育費や母にも長年の働きによる財産分与の権利があるのでお金が入る可能性はあるが、弓家にはそんなお金はないし下手をすると母が居なくなった闘竜寺の運営に支障が出るだろう。

母としては妻として弓家の嫁として最後にそこまではしたくはないようで、今後の事を考えていて自分が働くつもりだった。


「お金だったら私のバイト代が……。」

「それは貯めておきなさい。 GSになるなら必要なお金でしょう? 心配しなくても大丈夫だから。」

正直闘竜寺にいても実質的に働いていたようなものなので働きに出るのに抵抗感はない。

祖父母からは無理に働かなくても母子二人くらいなら養えるとも母は言われたらしいが、家賃は甘えるにしても生活費くらいは稼ぎたいようである。

一方のかおりは母ほど吹っ切れてなく実家に来てすぐに働きに出る話を始めた母に戸惑っていて、最近の除霊で得た報酬を母に渡そうとするもそれは母に受け取って貰えなかった。


「それより問題はかおりの修行先よね。 寺院系は難しいと思うわ。 闘竜寺は歴史だけは古いしあの人同業者には評判いいから。」

ただお金自体は急を要するほどではなく、それより問題なのはかおりの今後の修行先であった。

具体的にGSを目指すには既存のGS免許を持つ人の元で修行して試験を受けねばならないが、闘竜寺のお家騒動に同じ寺院系のGSは特に関わりたがらないのは二十年近くオカルト業界に居た母はよく理解している。

一部例外は居るが基本的にオカルト業界も男社会であり寺院系の霊能者もそれは同じな上、メンツや立場を必要以上に気にする性質が昔からあった。

闘竜寺の後継者として育てられたかおりが父親と喧嘩別れのような形で他の師匠を探すとなると、闘竜寺と父のメンツを潰さぬようにと周囲が必要以上に気を使うため面倒なようだ。

正直どちらが悪いという問題ではないが師匠に逆らい出ていく霊能者は嫌われるのが昔からある。


「女で寺院系のGSを敵に回す可能性があるとなれば、六道理事長に頼みにいくしかないかしらね。」

父は自分からかおりの妨害はしないだろうが守ってもくれないだろうし、他の寺院の系GSは親であり師匠である父親に逆らう娘に容赦はしないだろう。

となるとオカルト業界の寺院系の派閥の影響が及ばぬ勢力のGSを探さねばならないが、現状のかおりが一番無難で頼みを聞いてくれそうなのは六道女学院に通うという関係から六道家であった。

元々古き慣習を捨てオカルト業界の近代化をしてきたのが六道家だという歴史があるし、その過程で地位が低かった女性霊能者の地位向上をさせたのも実は六道家である。

六道女学院の霊能科に何故女性しか入れないのかと言うのも、男社会で男性優位なオカルト業界に女性でも気軽にGSを目指せるようにとの目的があったからなのだ。

そもそも寺社などの古い慣習が残る霊能者は女性に霊能者の修行自体させないところも多く、闘竜寺も元々は男しか受け入れてなくかおりは弓式除霊術の後継者として父が特別に修行させていたという事情がある。

最終的に力になってくれるかは不明だが下手に噂になる前に相談に行くべきだと母は考えたようで、六道家にアポを取り近々相談に乗って欲しいと連絡を入れることにしていた。




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