「俺って、本当に何も知らなかったんだな」

エミの事や地獄組に関して自分より詳しい雪之丞を見て、横島は改めて自分は何も知らなかったのだと実感していた

令子を信頼していたという事もあるが、横島本人が社会や周りを知ったかぶってナメていたのもあると思うと複雑な気分になる


「俺はママが亡くなってから、ほとんど一人で生きてきたからな。　　いろいろ経験してるのさ」

横島とは違うが雪之丞もまた複雑な気分だった

力と心と言うのは簡単だが、雪之丞には強くなった先が見えない

ＧＳに成りたいとは思うが、雪之丞にはその先がまだ見えてなかったのだ


この日エミが話したＧＳの裏側は、横島と雪之丞に新たな課題を示していく

横島は自分の無知と世間の難しさを改めて知り、雪之丞はＧＳに成ったその先という新たな道を探すことになる



一方横島達がエミの事務所で勉強している頃、魔鈴の店では魔鈴とタマモとシロが店を営業していた


「ひまね～」

昼食の忙しい時間が過ぎた午後、店は客が途絶えてタマモ暇そうにあくびをする

もう少しすれば学生達が学校帰りに来たりする時間だが、ちょうど合間の暇な時間もあったのだ


「こうかしら？」

「そうでござるな。　拙者もあまり詳しくはないでござるが、それが基本でござる」

少し眠そうなタマモの視線の先では、魔鈴がシロに剣術を習っていた

まあ習うというか、基本的な型と動きの一部を教わっているだけだが……

本格的に習うというほどではないが、ちょっとした空き時間を使って魔鈴は剣術をシロに習っているのだ


「難しいですね。　一応見習いの時に神通棍の使い方は習いましたが、ほとんど使った事ないですから……」

狭い店の裏で確認しながら覚えるように動く魔鈴だが、その動きは素人と大差がない

だいぶ前から戦う力を求めて試行錯誤しているが、実際はほとんど成果がないのだ

以前令子の一撃を防いだが、あの一撃が限界である

今の魔鈴では令子と打ち合うどころか、二撃目に反応すら出来ないだろう


「無理しすぎなんじゃないの？」

ちょっとした空き時間でも何かを始める魔鈴に、タマモは心配そうに声をかける

無論横島や雪之丞のように身体を壊すほど無理はしてないが、それでもタマモから見れば働きすぎな気がしていた


「大丈夫ですよ。　ちょっとした運動の変わりですからね」

心配そうなタマモに魔鈴は笑顔で答える

最近は店の営業以外は、雪之丞の勉強や魔法の研究などで体を動かす時間が少なかったのだ

横島達が住む前は密かに体力作りや神通棍などの戦闘修行もしていたのだが、横島達が住み着いた後からは時間が無くてあまり身体を動かしてない

なかなか身体を動かす時間は作れないが、魔鈴としては剣術の基礎を知るシロから型を習うくらいはしたいと思っていたのだ


（精神的な問題かしらね……）

常に何かをしている魔鈴に、タマモは精神的な焦りが見えていた

その原因はおおよそでしかわからないが、タマモでも解決出来ない


（私も強くならなきゃダメかもね）

あまり力には興味がなかったタマモだが、魔鈴を見ていると手助けする存在が必要だと感じていた