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二年目の春・10

結局ほとんど寝て一日を異空間アジトで休んだ一行は、昼夜の逆転をしないようにしつつ来た時間に合わせる形で麻帆良に帰っていた。

時間は早朝だったので少女達は寮に帰るなり横島宅で仮眠するなり様々であったが、横島自身はのんびりと開店準備をして久々に店を開けることになる。


「おはようさん。いつもの頼むよ」

開店直後の朝一のお客さんはいつもの常連の年配者で、決まった席に座り朝食とコーヒーを頼む。

麻帆良祭も終わりこの日は振り替え休日ということもあって、前日までのばか騒ぎが嘘のように静かな朝だった。

すでに役目を終えた麻帆良祭の看板や飾り付けが町の至るところに残っていて、それがなんとも言えない寂しさを感じさせている。

有線放送の音楽が微かに流れる店内に集まってくる常連の年配者達は、いつものように将棋や囲碁をしたり本を読んだりとそれぞれが好きな時間を過ごしていく。


「マスター。 何かあったかの?」

「ん? どうかしました?」

「いや。 なんとなく晴れやかな顔をしてる気がしたのでな。」

開店してしばらくすると通勤前に朝食を食べに来るお客さんなんかで賑わい横島は忙しく働いていたが、それも過ぎると横島は自分で入れたコーヒーでのんびりとしていた。

ふと常連の一人が、そんな横島の様子を気になったらしく声をかけてくる。


「麻帆良祭も終わりましたしね。 他にも悩みが少し解決したんっすよ。」

横島自身に自覚はないが、過去を明かした事で多少なりとも気が楽になったのは確かだろう。

少女達や刀子がどう受け止めるかは気になるが、少なくとも第三者により下手に知らされる事は無くなった。

正直こんな事にならなければ話す気はなかったが、これもこれで良かったのではと思える。


「そうか。 それは良かったの。」

常連の年配者はそれ以上深く聞くことはなかった。

ただ若い横島が一つまた前に進んだように彼には見えていて、人生の先輩としてそれを素直に喜んでいる。

何か過去に訳ありなのではないか?

それは魔法や裏とは関係ない年配者も感じた事がある者もいる。

まあ人間それなりの歳になれば過去の一つや二つあるが、横島の場合は見た目が若いことと他の人とは違う雰囲気から少し心配していた者も少なくない。


「おはようございます!」

「おお、今日も元気じゃの。」

「うん! げんきだよ!!」

そんなのんびりとした時間が流れている店内も、タマモや横島宅で仮眠していた少女達が降りてくると賑やかになる。

流石に昨日の今日で学生のお客さんは多くないが、他にもお昼頃になると食事やスイーツを目当てにポツポツとやって来ると、いつもと変わらぬ雰囲気にあっという間に変わってしまう。

横島は以前と変わらなかった。

相変わらず女子中高生に振り回されていて、若い少女達のパワーに圧倒されている。

この日店を手伝っていた木乃香と夕映は、そんな横島を見てホッとしたように笑みを溢した。



かつての世界を救った過去も。

神々や悪魔達を相手に戦った過去も。

今のこの瞬間も。

きっとどれも横島の一部なんだろうなと思うのかもしれない。



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