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二年目の春・5

「高畑さん。 変わりましたね。 前は一人で二つの世界を背負いかねないほどだったのに。」

「ナギ達も僕も世界を背負うなんて考えてなかったよ。 クルトは考えてるかもしれないけど。 彼はまた違うから。」

ほんの一年前までは共に世界を駆け回っていた高畑の変わりようにケリーは驚きと寂しさの入り交じった気持ちになる。

根本的なモノまでが変わった訳ではないようだが、明らかに自分の知る高畑とは違い別人のようにも見えてしまう。


「僕としては高畑さんと仕事が出来なくなるのは残念ですけど、これでいいのかもしれないとも思います。 高畑さん一人にみんな期待しすぎちゃいますから。 それに僕達はそろそろ赤き翼から卒業する時期なんだとも思います。 言われてみると滑稽ですよね。 赤き翼としての活動は十年前にサウザンドマスターが行方不明になって以降ないのに未だにみんな期待と警戒してる。」

「詠春さんやラカンさんが何故表舞台から降りたのか、僕はもっと早く気付くべきだったんだ。」

共に世界を駆け回っていた頃が懐かしく感じる高畑は目の前のケリーにかつてならば見せたことがないような、穏やかな笑顔を見せて話をしていた。

そんな高畑にケリーもまた高畑が最前線で戦う役目はもう終わらせた方がいいと考えるようになる。

高畑はあまりに赤き翼を思い起こさせる人間なのだ。

その生き方も活躍も決して赤き翼の後継者に恥じることのない素晴らしいものだが、人々はそれ故に高畑を通してすでに存在しない赤き翼に期待し警戒もしてしまう。

それは決して世界の為にはならないのだと短いながら高畑に学んだケリーはよく理解出来た。


「クルトには気を許すなと代表やみんなに伝えてくれ。 アイツは今追い詰められている。 もしかすれば長年協力してきた悠久の風のみんなをも騙す可能性がある。」

「ええ、代表も似たようなことを言ってましたよ。 ゲーデル議員は追い詰められているから自分達や高畑さんでさえも利用するだろうと。 だからゲーデル議員には気を許すなと伝言も頼まれてました。 ああ、あとはいい機会だからいい加減結婚しろだそうです。 いつか子供の顔を見に行くからそれまでにって。」

高畑は悠久の風に秘密結社完全なる世界と戦う為に加わっていたが、それでも悠久の風の仲間達の多くは高畑を温かく受け入れ共に完全なる世界の残党や信奉者と戦っていた戦友である。

特に代表の魔法使いはメガロメセンブリア公認の立派な魔法使いでもあったが、メガロメセンブリアの枠組みを利用しつつも政治的な介入を最小限にして人々をいかに救うかを努力して来た人物だった。


「そうか。」

「今思えば代表は高畑さんの考えをある程度推測出来てたみたいですね。 まあ他の幹部連中はどうだか知りませんが。」

ただ悠久の風は比較的大きな組織なので個人により価値観も違えばやり方も違う。

今は代表が上手く纏めてるからいいがお世辞にも全員が素晴らしい人間という訳ではなく、自身のキャリアアップの為に腰掛けで在籍してる人間なんかもいる。

人間三人集まれば派閥が出来るとも言うが悠久の風も内情も似たようなものらしい。


「また来ていいですか?」

「ああ、今度はゆっくりしていくといい。 人生が変わるほど美味いものでもごちそうするよ。」

「ありがとうございます。 高畑さん。 また来ます。」

そのまましばらく時間を忘れるように二人はいろいろと話をするがケリーは忙しいらしく今日中に日本を発つらしい。

ケリーにとって高畑は憧れの存在だった。

そんな憧れの高畑の充実したような姿にホッとしつつも、別れの寂しさを滲ませていた。

最後に二人は再会の約束をして別れてそれぞれの生活に戻っていく。


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