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平和な日常~春~

「学園長先生じゃないっすか。 珍しいっすねこの時間に来るなんて……」

「閉店したのにすまんのう」

「いやいや構わないっすよ。 スイーツの食べ放題はもう無理っすけど」

木乃香達が帰り横島が店内の清掃をしていた頃、近右衛門が一人でふらりと店を訪れていた

閉店の札があったので近右衛門はそのまま帰ろうとしたのだが、横島が一人くらいなら構わないと店内に招き入れていたのだ


「連休も仕事っすか? 大変っすね~」

「本当はさっさと楽隠居したいんじゃがのう。 君はあちこち旅していたとか……、正直羨ましいわい」

メニューを見て僅かにため息をはく近右衛門は少し疲れた表情である

不思議に思った横島が尋ねると、近右衛門は連休中も仕事でなかなか休めないと言う


「地位や名誉があるのも楽じゃないんっすね」

「この老骨をまだ働かせようとする者が多くてのう」

元気がなく酒を頼むとチビチビと飲み始めた近右衛門は、年相応の哀愁が漂っている

その姿はのらりくらりと周りの人間を動かす普段の近右衛門を知る人間ならば、驚くほど力無い姿だった

近右衛門自身は横島を完全に信用してる訳ではないのだが、部下や同僚に弱みを見せれない立場なだけに一番関係がない横島につい愚痴をこぼしてしまったらしい

開店してから近右衛門は何度となく店に来ているが、横島が近右衛門を普通の客と同じく扱って特別警戒も媚びもしないため近右衛門としては来やすかったのだ

魔法協会のトップと麻帆良学園の学園長の肩書きは凄まじく、裏を知る者は近右衛門を警戒するし知らない者は近右衛門に媚びるような者が多かったのである

極端な話をすれば居酒屋で飲んで愚痴る事も出来ないほどの立場は、近右衛門にとって必ずしも嬉しい環境ではなかった


(だいぶ疲れてるな。 責任ある立場も楽じゃないってか)

あまりに元気ない近右衛門の姿に横島は少し同情して、何かいいモノはないかと考えていく


「サーモンの特製ホイル焼きです。 元気が出るんでつまみにどうぞ」

横島が近右衛門に出したのは、魔鈴のオリジナル魔法料理だった

流石に魔法は使わなかったが、体にいいハーブなどを使った特製味噌で味付けした料理である

基本は味噌なのだが、オリーブオイルや複数のハーブによりフランス料理風の味付けになっている一品なのだ


「これはまた初めての味じゃのう」

チビチビと酒を飲んでいた近右衛門だったが、始めて食べたその料理に思わず目を見開き驚いてしまう

近右衛門も今までにいろいろな料理を食べて来たが、それはシンプルながらも今までに食べた事がない完全な創作料理だった


「君が考えたのかね? 木乃香が凄いと褒めるだけはあるのう」

「いや~、知り合いに教わった料理っすよ」

珍しい料理に多少元気になった近右衛門は、しばらく酒を飲んで帰っていく

結局横島が二階の住居スペースに戻ったのはいつもと変わらぬ時間だったようである

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