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番外編・動き出す心

「あんた、うちにいらっしゃい」

その言葉にタマモは食べかけのうどんを止めてしまい、横島も信じられないような表情で令子を見つめる


「あんたは私が退治した事になってんの。 無事だと分かれば私もあんたもやばいのよ。 横島クンじゃ常識教えるの無理っぽいし、しばらくうちで現代社会を勉強しなさい」

タマモの話や横島の対応を静かに見守っていた令子だが、やはり横島に任せるのは不安なようだった

かといって横島が助けた妖怪を自分が退治するのは令子としては出来ない

それがかつての令子と横島の関係であり、信頼の形でもある

タマモの命というよりは横島と自分の形を壊すのを極度に嫌う令子には、横島が助けた以上退治するという選択肢はなかった


(何故……?)

令子の真意を探るタマモは、静かに令子を見つめる

助けるにはそれなりに理由があるはずだが、まさか横島との関係を壊したくないから助けたという事実はさすがのタマモにも見抜けない


「美神さん? 本気っすか? なんからしくないような……」

一方横島はビクビクしながらも、半分冗談っぽく令子を疑うような視線を向ける


「仕方ないでしょ! あんたみたいな非常識な奴にこの子教育なんて無理でしょ!!」

疑うような視線が気に入らなかったのか、横島を一発殴った令子は不愉快そうだった

令子としては横島のために面倒な事を抱え込むのに、肝心の横島の疑うような視線は冗談半分でも笑えない


トクン……

トクン……


まるで漫才のように令子と会話を進める横島に、タマモは不思議な感覚を感じた

それは彼女の霊感であり自分の運命を左右する決断を告げるものだったと、タマモは後になって気付く事になる


「とりあえず、いらっしゃい。 せっかく助かった命無駄にしたいなら別だけど」

「わかった」

説得など苦手なため少し困ったように説得する令子に、タマモは静かに従った

少なくとも大人しくしてれば殺されない環境である事だけは感じている

それにこれを拒否すれば自分は退治される可能性があるのも理解していた

令子はタマモと自分にとってやばいと言ったのだ

ここで敵対や拒否をすれば、自分は遅かれ早かれ殺されるだろう事は簡単にわかる

タマモにとって、数少ない選べる未来だった


「お前いいのか? よく考えろ」

簡単に美神の元に行くと決めたタマモに、横島は心配そうに声をかける

人間を恨むタマモが人間と暮らすのは、決して望む事ではないし楽しいはずもない

それに令子の元にタマモを置くのは危険以外のなにものでもないのだ

隣にはオカルトGメンがあるし、いつか正体がバレたら令子は退治する道を選ぶだろう

しかも危険な依頼も多く事務所を襲撃された事も何度か過去にあるだけに、決して安全とは言えない


「少なくとも私が、人間を知らなきゃならないのはわかったわ」

心配そうにしながらも戸惑いの表情が僅かに見えている横島に、タマモは気付いていた


(それに…… 私はあなたを知りたい。 ただの馬鹿なのか、それとも……)

人間が嫌いなのは変わらないが、横島には興味があった

人間を裏切ってまで金毛白面九尾を助けた横島が、今また自分を心配している

その現実に僅かに喜びを感じていたのも事実だった

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