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平和な日常~冬~2

この日の作業は夜八時頃に終わり、残りは明日の朝から再開する予定で横島達は帰宅することになった。

明日は横島の店も新堂の店も休む予定で正午から始まるパーティーまでには、スイーツ作りを終えて会場に運ぶ計画である。

時間的にすっかり乗客が少ない路面電車に乗って近くの麻帆良学園中央駅まで移動する横島達だが、横島はただ漠然と車窓から街を眺めていた。


「横島さん?」

「いつの間にか冬になったな」

静かに街を見てる横島が何となく気になった木乃香は声をかけてみるが、横島は少し遠くを見るような様子で意味があるのかないのか分からない言葉で返す。

その言葉の意味を考える木乃香とのどかであったが、夜の街を歩いていると横島はふと昔を思い出してしまう瞬間がある。

かつてのGSという仕事の性質上、横島は夜の街を嫌というほど出歩いた経験があった。

昼とは違う顔を見せる夜の世界を、横島は人よりも少しだけ知っているという自覚がある。

太陽の光を浴びて幸せに生きてる人が居れば、夜の闇に隠れるように生きてる存在もいた。


「本当に賑やかな一年だったな。 将来木乃香ちゃん達が大人になったらこの一年をどう思うのかなって……」

改めて麻帆良に来てからの月日を思い出すと、本当に賑やかで楽しい日々だったと夜の街を見るとシミジミと感じる。

お金や食事に困ることもなく人に嫌われることもない生活は、かつての理想の一つだったかもしれないと思うと感慨深いものがあった。

やがて大人になり社会に出てそれぞれの人生を歩むだろう木乃香達が、この一年を将来どう思うんだろうと考えると横島は思わず笑ってしまいそうになる。


「どうって、どうなんやろ?」

「うーん、記憶には残る一年でしょうね」

近くに居るのに少し遠く感じる横島に二人は微かな不安というか不満を感じながらも、横島の言葉に合わせるように将来どう思うのか考えてみるが流石によく分からないというのが二人の答えだった。

恐らく忘れられない一年にはなるだろうが、過去をどう感じるか理解するには少し若すぎる。

というか木乃香達からすると今年もまだ十日以上ある今日この日に、何故一年の締めを考える横島がイマイチ理解出来ない。

また何か過去でも思い出してるのかなとは思うが、二人からすると正直辛い過去なら辛いと話して欲しいとも思うのだ。

美砂達が横島の子供扱いに不満をこぼしていたが、実は木乃香達も程度の違いはあれど子供扱いは不満な部分がある。


「そういやクリスマスみんな家に来るんだって? 実家に帰らなくていいんか?」

「クリスマスが終わったらみんな帰るんよ。 タマちゃんともクリスマスには家でパーティーしようって約束したんや」

横島の微妙な心の変化を感じつつも自分達からそこに触れない木乃香達だが、しばらくすると横島は思い出したようにクリスマスイブの話に変えていた。

横島としては学校も冬休みに入ることから帰省する子も多いかと思ったが、横島の周りはクリスマスまでは居る子がほとんどである。

以前から木乃香達と美砂達がクリスマスパーティーをしたいと言っていたが、最終的にはタマモも乗り気になり横島の家でパーティーをすることにしたらしい。



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