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平和な日常~冬~2

「結局、協力することにしたんだって?」

その夜は近右衛門から木乃香の件を話し合うように言われた刀子が木乃香達と入れ違いで店を訪れていた。

横島は酒が飲めないからか先程からコーヒーの新しいブレンドを試していたが、刀子から協力という言葉を聞くと少し苦笑いを浮かべる。


「学園長先生が一枚も二枚も上手だったってことですかね。 正直組織ってのにはあんまりいい思い出がないんですけど」

この先のことを総合的に考えると遅かれ早かれ協力は必要だったし、別々に動いて生じる問題を考えると協力が必要だったことは横島も重々理解していた。

ただ本心では組織という形に対して横島の印象が改善した訳ではなく、現状では近右衛門や穂乃香を信頼するといった程度である。


「どこまで聞きました?」

「貴方が協力するってことしか聞いてないわ。 詳しくは貴方に聞いてほしいって。 私が言われたのはお嬢様の警護を貴方と話し合って欲しいってことだけよ」

刀子に協力の話が伝わるのは横島も予測済みだったが、詳しくは何一つ聞かされてないと知ると横島は僅かに悩む表情を見せた。

出来れば組織内での情報管理に関しては近右衛門にやって欲しかったのだが、立場的にどこまで真相を話すべきか難しい刀子を丸投げされたのだから横島が悩むのは当然だろう。


「ちょっと話が長くなるんで、先に店じまいして来ますね」

しばし悩む横島を刀子は静かに見つめていたが、元々深く考える習慣がない横島は割とあっさりとどうするか決めたらしく話をする前に店じまいの準備をしていく。

一方の刀子は今まで最低限の距離を保って来た横島が魔法協会に関わることに多少複雑な心境を感じるが、同時に魔法協会に加わるか明言しなかった近右衛門の様子を思い出しその訳を考えていた。

何か横島の過去に関わる話でも聞けるかもしれないと感じる刀子は、期待と不安の入り混じった複雑な心境のまま横島を待つことになる。


「どっから話しましょうかね」

横島を気遣かってかそれとも仕事の話をする為かは分からないが、この夜は酒を飲まない刀子は紅茶を飲みながら話を聞く。

まずは何をどこから話すか悩む横島だったが、とりあえず自分の麻帆良に来る前のことから話し始めることにする。


「まずは俺の出身なんっすけど、この世界でも魔法界でもない全くの異世界なんです」

「……はい?」

横島の話は期待通り自身の過去に関してだったが、何の前置きもなく異世界出身だと言われた刀子は驚きを通り越して反応出来なかった。

いつもの横島ならば話を盛り上げる冗談だろうと笑っただろうが、今の横島は真剣なのだから笑えない。

過去の横島を次々に思い出しては今の言葉の意味を考える刀子だが、正直理解出来ないというのが本音である。


「俺が生まれた世界は魔法というか科学以外の力が秘匿されてない世界だったんですよ。 この世界との一番の違いはそこですかね。 歴史もこの世界と大筋では同じで日本という国はもちろんありました」

無反応で理解出来ない様子の刀子に横島は当然の反応だよなと思いつつ説明していくが、それはSFや物語のような荒唐無稽な話である。

刀子はそんな話をただ聞いていくしか出来なかった。



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