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平和な日常~冬~2

同じ頃近右衛門の元には、雪広清十郎と那波千鶴子が訪れていた。

こちらは近右衛門から二人に急遽来てもらったのだが、話はもちろん横島の件と魔法世界の件である。


「いい話と悪い話があるが、どちらを先にする?」

「悪い話から聞こうか」

近右衛門が二人を呼んだのは魔法協会本部がある地下施設であった。

ここならば万が一にも土偶羅以外の第三者や仮に魔法なんかでも覗かれる心配はない。

珍しく近右衛門から急遽呼び出しをされた二人は少し緊張感がある表情であったが、いい話と悪い話のどちらを先にと問う近右衛門に清十郎は悪い話から聞くことを選ぶ。


「魔法世界の限界が最短で十年後に迫っているらしい。 詳しい根拠までは聞いてないが情報の信頼度は高いじゃろう」

悪い話があると聞き心構えをして近右衛門の話を聞く二人だが、その前置きもない爆弾発言には流石に表情が凍りつくのを隠せなかった。

まあ近右衛門達もいずれ訪れる魔法世界の崩壊に向けた準備や対策が必要な件は随分前から話はしていたが、十年はあまりに早く老い先短い近右衛門達ですら生きてる可能性が十分にある。

「いい話の方は横島君の協力を取り付けることに成功したことだが、こちらもまた桁外れの素性でな」

予想より遥かに早い崩壊の情報に凍りつく二人に近右衛門は続けていい話として横島に関する情報を話し始めるが、こちらに関しても二人は静かに聞くだけで特に言葉を発しなかった。

まあそれでもいい話の割に困惑した表情なのは、滅亡した異世界からの亡命者という横島の現状と魔王の遺産を受け継いでるとの話だからだろう。

そもそも横島の素性や秘密はまともに聞くには少し無理がある話で、長い付き合いで近右衛門が冗談を言ってる訳ではないと理解してなかったら二人も笑い飛ばして終わった可能性が高い。


「ということは限界の情報源は彼かしら?」

「そうじゃ。 尤も横島君が直接調べてた訳ではなく、遺産のシステムと管理する人工生命体の者が調べたようじゃがな。 横島君はアスナ君の素性も地下のアレも知っとったよ」

しばし沈黙が辺りを支配したが、考え込む清十郎に対し千鶴子は一つ一つ情報を精査するように尋ねていく。


「常人ではないとは思ったがのう」

横島の素性に関しては一般的な常人でないのは、少し人を見る目があれば分かることである。

本人は平凡な生活を満喫しているようだが、隠しても隠しきれない非凡さが見えかくれしているのに二人も気付いていた。

尤も隠していた事実が予想を遥かに越えたことも確かだったが。


「隠し事はまだある可能性はありますが、全体として嘘をついてる可能性は低いですね」

「それなりに資産もあるし生きていく技術もある。 自分の実力を過小申告するならともかく、わざわざ正気を疑われかねない嘘をつく理由はないな」

千鶴子も清十郎も真っ先に疑ったのは全ては横島の嘘という可能性だが、二人はその可能性がかなり低いと見ていた。

そもそも現状の横島はそれなりの資産もあり、料理人として生きていく技術は十分にある。

わざわざ荒唐無稽な嘘をつく理由がない。

それに明日菜の正体まで知っていたのならば、魔法協会や近右衛門へのスパイや混乱目的の工作の可能性も限りなく薄い。

第一横島は明日菜や木乃香に近いので、余計なことをせずに両者を拉致すれば近右衛門は窮地に追いやられるだろう。


「十年か……」

結局清十郎と千鶴子は横島の素性の真偽はともかく現状では危険性は低いと見て問題視はしなかったが、それよりも問題なのはやはり魔法世界の崩壊の一件だった。


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