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平和な日常~冬~2

その後、日が暮れると木乃香は再び近衛邸で祖父と母と一緒の夕食を取る為に近衛邸を訪れていた。

流石に毎日は難しいが穂乃香が麻帆良に滞在中は出来るだけ夕食くらいは一緒にしたいと、近右衛門もスケジュールをやり繰りして空けているのだ。


「早くも木乃香の方が上手くなっちゃったわね」

この日は近右衛門のスケジュールの都合で少し遅い夕食になり先日と同じく親子水入らずで料理をする穂乃香と木乃香だったが、穂乃香は木乃香が料理する姿に少し苦笑いを浮かべている。

元々穂乃香も亡き母から料理を習ってはいるが、京都の近衛本家には専属の料理人も居るのでさほど料理をする機会がある訳ではない。

そもそも近衛本家は関西呪術協会の総本山でもあるので、常に多数の術師達が近衛本家に居る。

彼らは表向きは巫女や神主として近衛本家に居るが、長い伝統から近衛本家では彼らに食事や寝所を提供することが慣例として残っていた。

従って近衛本家には先代の頃から雇われ続けている年配の料理人がいる。

穂乃香自身は分家の娘として育てられたので母も娘が結婚後に困らないようにと料理を教えはしたが、流石に近衛本家では当主の嫁が自ら料理をしたことなど過去にはほとんど実例がない。

尤も趣味の一貫として料理やお菓子作りをした者が全く居なかった訳ではないので穂乃香も過去には木乃香に料理を教える為に料理したし、時には近衛本家の人々に振る舞ったりもするがあくまでも趣味の範囲に収まっていた。

元々裏の近衛本家も表の近衛本家から過去に分かれた分家ではあるが、皮肉なことに表の近衛本家が時代の流れに合わせて変わったことと裏腹に裏の近衛本家は古くからの伝統がかなりの部分で生きている。

それでも先代である近右衛門の兄夫婦が時代に合わせて数多あった慣例をだいぶ廃止したのでまだ穂乃香達は良かったが、流石に多くの人が集まる近衛本家の維持は人に使っていた。

穂乃香と詠春は関西入りしてからも慣例をほとんどそのまま踏襲せねばならなかったので、最近でも穂乃香は料理をする機会はあまりない。

結果的に横島の影響で驚異的に成長している木乃香の方が得意な料理が増えている。


「そんなことないと思うけど……、お母様は時々しか料理せえへんからな」

「京都の家は特殊なのよ。 古くからの伝統ある家だから。 家事をしなくていいのは楽なんだけどね」

まさか中学生の娘に料理で越えられるとは思わなかった穂乃香だが、木乃香からすると流石に母を越えたとの自覚はない。

ただ趣味のように時々料理する程度の母と、毎日料理してる自分の違いはあるかもしれないとは思う。

まあ穂乃香も別に上げ膳据え膳で遊んでいる訳ではないが。

基本的に呪術協会の運営には口を出さない穂乃香だが、近衛本家当主の妻としての仕事や付き合いは多く決して暇な訳ではない。

同じ呪術協会の女達のまとめ役とならねばならないし、当然古くからある名家なんかとの付き合いも当然せねばならないのだ。

根本的に立場が上なのであからさまにイジメられたりはしないが、下手なことをすると影で何を言われるか分かったものじゃない。

実のところ穂乃香と詠春が木乃香に魔法を隠し一般人として育ててるのにも当然批判はあるし、あわよくば木乃香の婿に収まりたいと考える人間は少なくなかった。

ただ近衛本家の娘として本格的に育てると、木乃香は自分の将来も夫となる相手さえも自由に決められなくなる可能性も高かったのである。

結果的に悩みに悩んだ夫婦が選んだのは娘を一般人として育てることだった。

関西に来て以来過去の慣例を踏襲して来た夫妻が初めて慣例を破ったのが、この木乃香の教育方針なのである。

無論これだけで木乃香が後継者候補筆頭から外れる訳ではないが、下手に木乃香を後継者候補から外すと詠春の後継者争いが起きる可能性があった。

元々詠春は東西の統合が前提の長なので近衛家の家督はまだ近右衛門のもので立場が少し弱く、近衛家の次代をどうするかは近右衛門にも発言権がある。

ただこれに関しては木乃香の麻帆良行きもやがて東西を統合する布石の一つだという名目にもなってるので、決してマイナスばかりではないのだが。


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