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平和な日常~冬~2

「さて仕事をしようか。 横島が約束した情報は持参したが、秘密結社完全なる世界はこちらで完全に監視してるので問題はない。 そして問題は連中ではなく別にある」

土偶羅が本音を語り近右衛門と穂乃香も僅かだが緊張感が緩むと、土偶羅はいよいよ本題に入っていた。

横島が約束した完全なる世界の情報はもちろん持参したが、正直言って完全なる世界は横島と土偶羅は脅威ではないので重要度は低い。


「問題は別じゃと……」

「一番の問題は魔法世界の限界が貴方達が考えるより遥かに早い。 最短で十年であそこは崩壊する」

まるで世界の全ての情報を抱えるような横島と土偶羅が問題だと語る何かがあるという事実に、近右衛門と穂乃香は再び張り詰めたような緊張感に包まれる。

そして土偶羅が何の前置きもなく魔法世界の崩壊に関する情報を口にすると、二人は固まってしまい思考が止まってしまった。

ただし近右衛門には改めて考えると幾つか思い当たることもある。

まずは真実を知るメガロメセンブリアの対応で、二十年前の戦争の時に真実を知る特権階級の者達のほとんどが地球側に逃げ出していたこと。

そしてナギ達が戦争を終わらせた後もメガロは魔法世界を根本から救おうとしたナギ達の邪魔をすることはあっても、協力すらしようとせずに真実を徹底的に隠して無視したこと。

結局メガロメセンブリアは戦争の行く末に関係なく魔法世界の限界が近いことを、かなり以前から知っていたのではと近右衛門は思う。

そうだとするならばメガロメセンブリアが地球側の魔法協会に対する影響力を高めている事実も納得がいく。

恐らくメガロは特権階級と優秀な魔法使い達や技術者などを選別して地球に帰還するつもりなのだろう。


「どうやらわしは引退出来ぬようじゃな」

「お父様……」

そして近右衛門は昨夜に横島が何故土偶羅と話すように言ったのかを理解した。

最早問題は完全なる世界への対応では済まないことを横島は知っていたのだと確信する。


「引退? 寿命を伸ばすくらいなら簡単だぞ。 心配するな、この先も苦労は多いだろうが楽隠居するくらいの時間は必ず用意する」

この時近右衛門は自身が引退することを諦めようと覚悟を決めてしまい、穂乃香はそんな近右衛門を複雑そうな表情で見つめた。

しかし二人は土偶羅がそんな近右衛門に何気なく語った寿命を伸ばすという言葉に、目を見開き驚くことになる。


「ん? もしかして若返りもしたいか? ならば若返りプラス不老不死の方がいいか。 心配するな、どちらにしろわしと横島なら朝飯前だ。 あの男は普段はあんな感じだが、偶然や運だけで終わりゆく世界を生き残った訳ではない。 それに受けた恩は必ず返すから心配するな」

寿命を伸ばすと簡単に言い切る土偶羅に驚きのあまり言葉を失う近右衛門と穂乃香に、土偶羅はどうせなら若返りもしたいかと勘違いしてしまい寿命を伸ばすのではなく若返りプラス不死不死にしようかと簡単に変更してしまう。

正直今のいままで近右衛門と穂乃香は土偶羅は常識を持った存在なんだと考えていたが、そもそも土偶羅の常識はスケールが違うのだとこの時ようやく理解する。


「近衛近右衛門。 貴方はまだまだ必要な人だ、引退など早い。 この街を……、いやこの国の人々を守りたいのだろう? 選べる選択肢はわしが必ず増やしてやる。 それが貴方達が横島を受け入れた覚悟への返答だ」

驚き戸惑い驚愕など様々な感情が交錯する近右衛門と穂乃香だが、自分達はとんでもない者を受け入れたのだなと改めて感じた。

十年というタイムリミットに完全なる世界の存在など今まで自分達が知らなかった課題は山積みだったが、それ以上に得た仲間の存在の大きさにただただ驚くしか出来ない。

そして近右衛門は横島と土偶羅が語る全てが真実なのだと、この時ようやく確信が持てた気がする。

結局近右衛門は土偶羅に対し雪広家と那波家との会合を緊急で開くので、横島と一緒に加わって欲しいと頼み土偶羅はそれを横島次第だと付け加えるも基本的に了解することになる。

最早近右衛門と穂乃香の二人で手に負える問題ではなかった。



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