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平和な日常~冬~2

「木乃香ちゃんに初めて会った時から、いつかこうなる気はしてたんですけどね」

自分は詰めが甘いなとしみじみと感じる横島は、ふと木乃香に初めて会った時のことを突然語り出す。


「出会いは本当に偶然でしたし、俺から深入りするつもりはありませんでしたよ。 ただ、俺と木乃香ちゃんには深い縁があるのは最初に占った時にちらっと見えたんです。 正直本気で占うと見えすぎるんで常に加減してるんですけどね」

酒をぐいっと飲み淡々と出会った時の話を語る横島は、見た目以上に幼く見えた。

いつかこうなる気がしたとの本音を語る横島に、近右衛門と穂乃香は一切の驚きもなく逆に納得してる部分もある。

特に穂乃香は横島の霊感の一端を感じていただけに、木乃香が横島に惹かれたように横島も木乃香に惹かれたのだろうと事前に予測出来ていた。


「俺はこの世界の存在じゃないんですよ。 生まれ育った世界が滅びたんで次元を越えて渡って来たんです」

横島は相手の考えや感情を感じるが、それでも駆け引きでは近右衛門には敵わない。

それをあっさりと認めた横島は自身の過去を素直に語り始める。


「本当は人と深く関わる気もなかったんですけどね。 木乃香ちゃん達が意外に押しが強くて……」

麻帆良に来た頃のことを思い出す横島は苦笑いが出るのを抑えられない様子だったが、考えてるようで何も考えてなかったのだろうと過去の自分を語る。


「そうか……」

「貴方も大変だったのね」

それはあまりに荒唐無稽な話なのだが、近右衛門と穂乃香は驚くほどアッサリとしたというか淡泊な反応だった。

まあ今の言葉だけで完全に信じれる話ではないのかもしれないが、嘘なら嘘でも構わないし騙されても構わないとの覚悟はある。

それに魔法世界の真実を知る二人からすると、自分達の世界以外に世界が存在しないと考えるほど頭が固くはない。

加えてこの期に及んで横島が中途半端な嘘をつく程度の人間ならば、近右衛門も穂乃香もこれほど悩みはしなかっただろう。


「では芦社長も君と同じ滅亡世界の生き残りか? 正直な話、君達のような生き残りがあちこちに来てるとなると確かに厄介じゃが」

「そうですね。 生き残りです。 まああいつは厳密に言えば生物じゃないんっすけど。 そもそもあいつはアシュタロスが造り出した遺産管理者の有機分体、いわゆる人間型の末端なんです。 生き残りは俺とあいつとアシュタロスの遺産である異空間に動物達なら居ますけど知的生命体は俺だけですね」

荒唐無稽な話ではあるが恐らく横島の話を真実だと理解した近右衛門は具体的な話に移るが、それは横島の過去と言うよりは同じ滅亡世界の生き残りが何人居るかという疑問から始まった。

確かに異世界からの移住者が多数居るならば横島が語った次元が違う厄介な問題になるからだが、その答えに語る横島の説明には流石に近右衛門と穂乃香も固まってしまう。


「今……アシュタロスと言ったかね?」

「そうです。 階級は大公爵のアシュタロスです。 俺の世界じゃ魔王の一柱でしたけどね。 話すと長くなるんですけど、何故かアシュタロスの遺産の継承者になっちゃったんですよ」

この時ばかりは近右衛門は自分の耳を疑ってしまったが、最早真偽の確認は不可能だなと理解した。

というか何がどうなれば魔王の遺産を継承することになったのか気にはなるが、今すぐに聞くべき問題でないので自重する。



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