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平和な日常~冬~2

「学園長先生にお酒誘われたから出掛けてくる。 帰りは少し遅くなると思うから」

その日夜九時を過ぎた頃になると、店を閉めた横島は珍しくこの時間から出掛ける支度をしていた。

日頃横島がこの時間から出掛けるのは図書館探検部の活動以外にはなくさよとタマモは少し不思議そうだが、近右衛門にお酒を誘われたと教えるとなんとなくだが納得したような表情になる。

今まで近右衛門に誘われたことはないが、近右衛門が夜に一人でよく店に来ているのはさよ達も知っているのだ。

まあこれが夕映や木乃香ならば何かしらの訳があると見抜く可能性はあるが、さよとタマモにはそこまで見抜くのは無理な話であった。

尤も現状では横島も今朝近右衛門から一度ゆっくりと話がしたいので、夜にでも自宅に来てくれないかと頼まれただけであるが。


「どうなることやら」

慣れ親しんだコブラに乗った横島はとうとう車を買い替えないまま冬になったなと思うが、本当の横島は結構優柔不断なのでなんとなく買わないまま冬になってしまっただけだった。

そして近右衛門と穂乃香が今日何を話すつもりで横島を呼んだかは、もちろん土偶羅からの報告で知っている。

ただ土偶羅も流石に近右衛門達の心の中まで覗いてる訳ではないので、近右衛門達が実際にどう出るかまでは結局のところ予想は出来るが正確には分からないままだった。

近右衛門個人に対しては横島も好印象ではあるが、近右衛門も権力者としては時には全く別の決断をしなければならないのも理解していた。


正直横島は麻帆良に来るまでは、権力を持つ人間にいい印象が全くなかったという事情もある。

そもそもかつての横島にとって一番身近な権力者は美神美智恵だったが、彼女と横島の関係は終始微妙なままであった。

それでも平和な時はまだあまり関わることがなかったのでよかったが、神魔戦争が起きるとそれに絡み意見や考え方が全く噛み合わずいろいろ対立している。

以前に少し説明したが神魔戦争時の異空間アジトから日本や友好国などへの支援は、そんな横島と美智恵の対立の妥協の産物だという事情もあったりしたのだが。


「決断だけは自分でしなきゃならねえんだよなぁ」

まあ美智恵に限らず横島が権力者にいい印象がないのは、自身が知る人間の権力者達が腹に一物を抱えた人ばかりだったからだろう。

実際に近右衛門はそんな連中とは違うタイプなのは理解するが、横島が不安になるのは仕方ないことだった。

それに横島の影として厄介なことは全て丸投げしてる土偶羅でさえも、最終的な決断だけはしてくれないという当然の事情がある。

この先近右衛門達とどう付き合うかは自分で判断しなくてはならない。

単純に考えると協力した方がいいのは子供でも分かるが、問題なのは横島の力や異空間アジトの存在は扱い方一つ間違えると麻帆良に不幸をもたらす可能性があることか。

ぶっちゃけ横島としては近右衛門達が自分を完全に信頼しない方が楽だったりもする。

もし仮に近右衛門や穂乃香が全面的に信頼して全てを語った場合は必然的に横島も同じ形で答えなくてはならないだろうが、近右衛門達が限定的な協力で収めるつもりならば横島も秘密を明かす必要がなくなるのだ。


「厄介なのは連中を始末すりゃ終わる話じゃないからなんだよな」

今回の一件で近右衛門や穂乃香が完全なる世界を警戒してるのは横島も知っているし当然だと思うが、仮に現状で完全なる世界を横島が密かに始末したとしてもメガロメセンブリアが勢いづくだけなのだとの事情もある。

そして横島や土偶羅からすると、僅か数人の完全なる世界よりもメガロメセンブリアの方が厄介であった。


「結局は相手の出方次第か」

そのまま近衛邸へ向かいながらいろいろ考えていく横島だったが、車は早くも近衛邸に到着してしまう。

最終的に近右衛門と穂乃香次第だという流動的な考えにしか至らないが、元々横島は周りに流されて生きるタイプなだけにそれも仕方ないことだった。

全体としては協力が必要だしするつもりではあるが、細かい問題に関しては横島が決める問題でもない訳だし。



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